母と妹が出来て婚約者が義理の家族になった伯爵令嬢は・・

第7章 5 目覚め

　カチコチカチコチ…

部屋に静かに響き渡る時計の音でスカーレットは不意に目覚めた。部屋の中は暗く、スカーレットのベッドサイドに置かれたテーブルランプの炎がゆらめき、その場所だけをオレンジ色に照らしている。身体の熱は引き、頭痛もかなり治まっていた。

（今、何時かしら…）

ベッドからムクリと起き上がり、スカーレットは驚いた。部屋の中に置かれたカウチソファにリヒャルトが横たわって静かに眠っていたからだ。

（お父様…！）

リヒャルトは身体に何も掛けずにうたた寝をしていた。スカーレットは足元に置かれた室内履きに足を通すと、自分の上に掛けられていた薄いキルトを手に取り、父に近づき、そっと身体に掛けてあげた。

「お父様…」

数カ月ぶりにじっくり見る父、リヒャルトはやはりとても美しく、スカーレットの自慢の父だった。

「お父様…何があったのか…全て話して下さいね…」

そして再び自分のベッドへ戻ると夜が明けるまで眠りについた―。



＊＊＊＊

　翌朝―

分厚いカーテンの隙間から明るい日差しが差し込み、スカーレットの目元を照らした。

（う～ん…もう朝かしら…？）

目を擦りながらゆっくり起き上り、カウチソファを見るとそこにはもう父の姿は無かった。

「え…？お父様…？　」

（何処へ行ったのかしら…？）

その時、カチャリと静かに扉が開かれてリヒャルトが部屋の中に入ってきた。そしてベッドの上に起き上がっているスカーレットを見ると笑顔で駆け寄ってきた。

「スカーレット！目が覚めたのだね？！」

そしてギュッと娘を強く抱きしめる。

「お父様…私の側に一晩中ついていて下さったのですか？」

「ああ、当然じゃないか？お前は私の大切なたった一人きりの娘なのだから…それよりもスカーレットなのかい？キルトを掛けてくれたのは？」

「はい。目が覚めた時にお父様が何も掛けずに横になっていたので」

「そうか、ありがとう」

リヒャルトはスカーレットの髪を優しく撫でながら突然真顔になると言った。

「スカーレット、お前の体調も良くなったことだし…明日には『リムネー』に戻ろうかと思っている」

「え？！そ、そんな突然に…！」

「『リムネー』のホテルに今ヴィクトールとグスタフがいる。あの屋敷を取り戻すのは色々準備が必要だからね」

「取り戻す…やはりお父様は…アグネス様とは結婚等していなかったのですね？」

「ああ、当然だ。私は…まんまとはめられたんだよ。あの母娘に…」

「お父様。一体何があったのですか？何故結婚する意思もないのに婚姻届けを？いえ、それ以前に…どうやってあの人達と出会ったのですか？！」

気づけばスカーレットはリヒャルトの袖を強く握りしめていた。

「落ち着きなさい、スカーレット。順番に説明するから…でもこの話は出来ればブリジットにも聞いてもらいたい。それに…アリオス様にもね。アリオス様はお前の事をとても心配しておられる。事情をきちんと説明した上で…何もかも全て落ち着いたら、その時はスカーレット。『リムネー』に戻っておいで。また親子で一緒に暮らそう」

リヒャルトは笑顔で言った。

「え…？」

しかし、スカーレットはその言葉に衝撃を受けた―。