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第7章 4 アリオスとリヒャルト
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16時―
リヒャルトは高熱を出して寝込んでしまったスカーレットに付き添っていた。チェスター家専属医師の往診も終わったばかりだった。
「スカーレット…本当に苦労を掛けさせてすまなかったね…」
リヒャルトは水の張った洗面器の中のタオルを堅く絞ると、赤い顔をして眠りについているスカーレットの額にそっと乗せた。その時―
コンコン
部屋の扉にノックの音が響き渡った。
(誰だろう?)
リヒャルトは扉を開ける為に立ち上がった時に外側から声が掛けられた。
「私です、アリオスです」
「アリオス様っ?!」
リヒャルトは慌てて扉を開けると、そこには心配そうな顔つきのアリオスが立っていた。
「これはアリオス様…」
「申し訳ありません。スカーレットの具合が心配だったものですから…」
アリオスは頭を下げた。
「娘は眠っておりますが…宜しければお入り下さい」
リヒャルトの言葉にアリオスは驚いた。
「い、いえ。スカーレットが眠っているのでしたら、遠慮しておきます」
「ですがお忙しいお時間をわざわざ割いて頂き、娘の様子を看に来て下さったのですよね?どうぞお入り下さい」
リヒャルトの言葉にアリオスは頷いた。
「それでは…失礼致します」
アリオスはスカーレットの眠る室内へ足を踏み入れ、そっとベッドへ近づいた。
「スカーレット…」
赤い顔で目を閉じ、苦しげな様子で眠るスカーレットをアリオスは心配そうな眼差しで見つめた。そこへリヒャルトが声を掛けた。
「アリオス様…娘を今までありがとうございました。私がこのような事になってしまったばかりにチェスター家にお世話になってしまいました。でも…もう大丈夫です」
「え?」
「娘の体調が回復次第、私は『リムネー』に戻ります。やらなければならない事がありますので。そして事が落ち着いた後にはスカーレットを呼び寄せますので」
リヒャルトの言葉にアリオスは驚いた。まさかリヒャルトがスカーレットを呼び戻す考えがあったとは思いもしなかったからだ。
「し、しかし…スカーレットはカールの…弟の家庭教師をしてくれています。彼女はこの屋敷には必要な人材です」
「いえ、娘はまだ19歳で大学を昨年卒業したばかり。まだまだ世間知らずな娘です。そのような人間が将来有望なチェスター家の御子息の家庭教師なんて恐れ多い話です。もっとふさわしい人材がいくらでもおられるはずです。それに娘は未婚ですから…良からぬ噂が立てられでもしたら…」
最後の方の言葉は濁す様にリヒャルトが言った。
「ですが…」
流石に実の父親の前で、アリオスはスカーレットと婚約をしている話は持ち出せなかった。何しろ、その婚約は偽の婚約で1年経てば終了となるからだ。そのような話をリヒャルトが容認するとは思えなかった。
「アリオス様?どうされましたか?」
事情を何も知らないリヒャルトは首を傾げながらアリオスを見た。
「い、いえ。何でもありません…スカーレットの具合がまだあまり良くないようですので…あまり長居してもご迷惑でしょうから、今日はこれで失礼致します」
「娘の見舞い…感謝致します」
2人は互いに頭を下げ、アリオスはスカーレットの部屋を後にした。
長い廊下を歩きながらアリオスは思い悩んでいた。
(スカーレットがこの屋敷を去ってしまうかもしれない…)
だが、アリオスにそれを止める資格は無かった。いっそ、スカーレットに自分の気持ちを告げてしまおうかとも思ったが、男性恐怖症を抱えているスカーレットに対し、どうしてもアリオスは踏み出す事が出来なかった。
そして、その日の内にアリオスはスカーレットと自分の婚約の話しはまだ確定したことではないのでリヒャルトの耳には入れない様にと使用人たちの間に言い渡したのである―。
リヒャルトは高熱を出して寝込んでしまったスカーレットに付き添っていた。チェスター家専属医師の往診も終わったばかりだった。
「スカーレット…本当に苦労を掛けさせてすまなかったね…」
リヒャルトは水の張った洗面器の中のタオルを堅く絞ると、赤い顔をして眠りについているスカーレットの額にそっと乗せた。その時―
コンコン
部屋の扉にノックの音が響き渡った。
(誰だろう?)
リヒャルトは扉を開ける為に立ち上がった時に外側から声が掛けられた。
「私です、アリオスです」
「アリオス様っ?!」
リヒャルトは慌てて扉を開けると、そこには心配そうな顔つきのアリオスが立っていた。
「これはアリオス様…」
「申し訳ありません。スカーレットの具合が心配だったものですから…」
アリオスは頭を下げた。
「娘は眠っておりますが…宜しければお入り下さい」
リヒャルトの言葉にアリオスは驚いた。
「い、いえ。スカーレットが眠っているのでしたら、遠慮しておきます」
「ですがお忙しいお時間をわざわざ割いて頂き、娘の様子を看に来て下さったのですよね?どうぞお入り下さい」
リヒャルトの言葉にアリオスは頷いた。
「それでは…失礼致します」
アリオスはスカーレットの眠る室内へ足を踏み入れ、そっとベッドへ近づいた。
「スカーレット…」
赤い顔で目を閉じ、苦しげな様子で眠るスカーレットをアリオスは心配そうな眼差しで見つめた。そこへリヒャルトが声を掛けた。
「アリオス様…娘を今までありがとうございました。私がこのような事になってしまったばかりにチェスター家にお世話になってしまいました。でも…もう大丈夫です」
「え?」
「娘の体調が回復次第、私は『リムネー』に戻ります。やらなければならない事がありますので。そして事が落ち着いた後にはスカーレットを呼び寄せますので」
リヒャルトの言葉にアリオスは驚いた。まさかリヒャルトがスカーレットを呼び戻す考えがあったとは思いもしなかったからだ。
「し、しかし…スカーレットはカールの…弟の家庭教師をしてくれています。彼女はこの屋敷には必要な人材です」
「いえ、娘はまだ19歳で大学を昨年卒業したばかり。まだまだ世間知らずな娘です。そのような人間が将来有望なチェスター家の御子息の家庭教師なんて恐れ多い話です。もっとふさわしい人材がいくらでもおられるはずです。それに娘は未婚ですから…良からぬ噂が立てられでもしたら…」
最後の方の言葉は濁す様にリヒャルトが言った。
「ですが…」
流石に実の父親の前で、アリオスはスカーレットと婚約をしている話は持ち出せなかった。何しろ、その婚約は偽の婚約で1年経てば終了となるからだ。そのような話をリヒャルトが容認するとは思えなかった。
「アリオス様?どうされましたか?」
事情を何も知らないリヒャルトは首を傾げながらアリオスを見た。
「い、いえ。何でもありません…スカーレットの具合がまだあまり良くないようですので…あまり長居してもご迷惑でしょうから、今日はこれで失礼致します」
「娘の見舞い…感謝致します」
2人は互いに頭を下げ、アリオスはスカーレットの部屋を後にした。
長い廊下を歩きながらアリオスは思い悩んでいた。
(スカーレットがこの屋敷を去ってしまうかもしれない…)
だが、アリオスにそれを止める資格は無かった。いっそ、スカーレットに自分の気持ちを告げてしまおうかとも思ったが、男性恐怖症を抱えているスカーレットに対し、どうしてもアリオスは踏み出す事が出来なかった。
そして、その日の内にアリオスはスカーレットと自分の婚約の話しはまだ確定したことではないのでリヒャルトの耳には入れない様にと使用人たちの間に言い渡したのである―。
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