母と妹が出来て婚約者が義理の家族になった伯爵令嬢は・・

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第7章 1 父と娘の時間

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 アリオスとスカーレットがリヒャルトを連れて、チェスター家へやって来てから、早いもので半月以上が経過し、季節は9月になっていた。今日もスカーレットは父の傍について、面倒を見ていた。

「ほら、お父様。ご覧になって?あの木の上にとても綺麗な鳥が止まっているわ」

スカーレットはリヒャルトを連れてチェスター家の広々とした庭園にやってきていた。

「…」

しかし、相変わらずリヒャルトは無反応でじっと空中を見つめているだけである。そんな父を少しだけ悲し気な目でスカーレットは見ると言った。

「お父様。今日はここでピクニックをしませんか?厨房の方達がランチを用意してくれたのですよ?」

右腕に掛けたバスケットに触れながらスカーレットはリヒャルトに語り掛ける。しかしリヒャルトはスカーレットをチラリと見ただけで返事すらしない。

「お父様、この木の下でお昼にしましょう?」

スカーレットは小脇に抱えていた敷布を広げると、リヒャルトを手招きした。

「お父様、ここに座って下さい」

呼びかけても黙ったまま突っ立っているリヒャルトの手をそっと取ると、スカーレットは敷布まで導き、リヒャルトの両肩に手を置いて座るように導いた。

「…」

リヒャルトが座ると、スカーレットも隣に座って早速バスケットの蓋を開けた。

「お父様、食事の前には手をまず拭きましょうね」

おしぼりを取り出すとリヒャルトの手を綺麗に拭き、スカーレットは早速セロファンにキャンディーのように包まれたロールサンドイッチを取り出すと手渡した。

「どうぞ、お父様」

けれどもリヒャルトはセロファンに包まれたロールサンドイッチをどうすればよいか分らない様子で手に持ったままじっと見つめている。

「あ、食べ方が分らないのですね?すみませんでした」

スカーレットはリヒャルトが握りしめたままのロールサンドイッチのせろファンを広げてあげると、そこから真っ白な食パンにハムやレタス、チーズが巻かれたロールサンドイッチが現れた。

「さ、どうぞ。お父様」

「…」

リヒャルトは無言でロールサンドイッチを口に運ぶとゆっくり食べ始めた。それを見届けるとスカーレットもサンドイッチを手に取り、食べながら父をじっと見つめる。

(お父様…いつになったら良くなってくれるのかしら…)

ヴィクトールの手紙によると、シュバルツ家に仕えていた使用人達とは大方連絡が取れたらしく、全員が出来る事なら再びシュバルツ家で働くことを望んでいると言う。ただ、リヒャルトの回復が見られない限りは行動に移す事もままならないと書かれていた。

「お父様…」

今のリヒャルトはまるで2、3歳児のような子供だ。大きな物音や風の音…ほんの些細な事にも怯え、特に水を異様な程怖がるらしく、入浴させるのも一苦労だとフットマン達から聞かされている。

(アリオス様と…使用人の方々には迷惑ばかり掛けてしまっているわ…)

スカーレットはそれが心苦しくてならなかった―。


****

 一方、その頃アリオスとカール、そしてザヒムは3人で昼食を食べていた。カチャカチャとフォークとナイフの音が響き渡る中、カールが何度目かのため息をつく。

「どうした?カール」

アリオスはそんな幼い弟に声を掛ける。

「い、いえ…暫くスカーレット様と一緒に食事をしていないな…と思って」

「そうだな…」

アリオスも暗い声で返事をする。

「おいおい、2人共。この俺が一緒なのに、ちょっとそれは酷くないか?」

ザヒムがわざとおどけた調子でいう。

「あ、ザヒム様…すみません、僕…そんなつもりで…」

カールは顔を真っ赤にさせた。

「ハハハハ‥ほんの冗談だよ。よし、食後30分だけ3人でカードゲームでもしないか?」

「あ、ああ。そうだな、それもいいかもな」

アリオスが言うとカールも頷く。

「よし、決まりだ!一番負けた奴には罰ゲームがあるからな?」

「何だってっ?!」

「ええ!そ、そんな!」

アリオスとカールが顔を青ざめさせたのは言うまでも無かった―。


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