母と妹が出来て婚約者が義理の家族になった伯爵令嬢は・・

第6章 13 父と娘の再会

「ヴィクトール…お父様はどちらに…？」

部屋に入ったスカーレットは恐る恐るヴィクトールに尋ねた。

「このホテルの客室は2部屋に別れているのです。リヒャルト様はこの奥のお部屋で今お休みになっています。どうぞ、こちらへ。アリオス様とブリジット様は…」

ヴィクトールはスカーレットの背後に立つ2人をちらりと見た。

「いや…私は遠慮しておきます。折角の久しぶりの親子の対面ですから」

アリオスの言葉にブリジットも丁寧に断った。

「はい、私もアリオス様と同じ考えです」

「そうですか…ではアリオス様とブリジット様はこちらの部屋でお待ち下さい」

ヴィクトールは傍らのソファを勧めるとスカーレットに視線を移した。

「それでは…スカーレット様。参りましょうか？」

「ええ」

スカーレットは頷くと、ソファに座ったアリオスとブリジットを見た。

「それでは行ってまいります」

「ああ…」

「旦那様を…よろしくお願いします」

そしてスカーレットはヴィクトールに連れられて隣室へ向かった。

　部屋に入ると、スカーレットに背を向ける形でソファに座り、ぼんやりと壁をみつめている男性の後ろ姿が目に入った。しかし…その後姿は…。

「お…お父様…」

スカーレットの目にみるみるうちに涙がたまる。

「お父様！」

「あ、スカーレット様！リヒャルト様は…！」

ヴィクトールが慌てて声を掛けるも、スカーレットは耳を貸さずにリヒャルトに駆け寄ると正面に回った。

「お父様…お会いしたかったです…私です…スカーレットです…！」

「…」

しかし、リヒャルトはまるで抜け殻のようになっており、虚ろな瞳で何もない壁を見つめるばかりで視線すら合わせようとしない。

「お父様！私ですっ！」

スカーレットはリヒャルトを揺すぶった。そんな様子を少し離れた場所で見守るヴィクトール。

（やはり…スカーレット様でも…旦那様を正気に戻すのは難しいのか…？）

するとそこへグスタフがやってきた。

「どうだ？リヒャルト様の様子は…」

「いいや…」

ヴィクトールは首を振る。

「そうか…」

沈痛な面持ちでグスタフはスカーレットとリヒャルトの様子を見つめた。



「お父様！私の事が…分からないのですかっ？！」

スカーレットは目に涙を浮かべ、リヒャルトの手にそっと触れた。

その時、リヒャルトの手が一瞬ビクリとなった。

（お父様…！）

その事に気づいたスカーレットは、リヒャルトの両手を取ると、自分の頬に触れさせた。

「お父様…私です。スカーレットです。貴方の娘のスカーレットです…っ！」

そして、じっと見つめた。

「…スカーレット…？娘…？」

「「！」」

リヒャルトの言葉にヴィクトールとグスタフは驚いた。

「そうです、スカーレットです！」

「…」

しかし、リヒャルトはスカーレットから視線をそらせてしまった。

「お、お父様…」

そんなリヒャルトをスカーレットは目に涙を浮かべながら見つめている。

「スカーレット様…」

そこへヴィクトールがやってきた。

「あ…ヴィクトール…駄目…みたいだわ…」

項垂れながら言うスカーレットにヴィクトールは言った。

「いいえ、そんな事はありません。スカーレット様、何故ならリヒャルト様は我らには一言も発することが無いのに…リヒャルト様はスカーレット様に反応し…言葉を発したのですから。まだ希望はあります。スカーレット様がおそばにいれば…我々は暫くの間このホテルに滞在する予定ですから」

「で、でも…」

（だけど…今の私はアリオス様のお屋敷にお世話になっている身…それにカール様の家庭教師の仕事があるから、ホテルから通うのは…）

その時…。

「スカーレット、ちょっといいか？」

アリオスが部屋に現れた―。