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第6章 10 電話の相手に
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スカーレットの元へ手紙が届き、1週間が経過していた…。
午後2時、チェスター家の応接室に置かれた電話が鳴り響いた。
「はい、こちらはチェスター家の侯爵邸になります」
電話に出たのはアリオスの執事である、セオドアだった。
「え…?スカーレット様の…はい、少々お待ちいただけますか?」
セオドアは電話を置き、少し悩んだ。果たしてスカーレットを呼ぶべきか、それともアリオスを呼ぶべきか…そして考えた末、セオドアは傍にいた2人のメイドに命じた。
「君はすぐにアリオス様を、そして君はスカーレット様を至急このお部屋にお呼びするのだ」
「「はい」」
2人のメイドは長いスカートを翻し、急いで2人を呼びに走った―。
****
「何?スカーレットに電話だと?」
最初に応接室に現れたのはアリオスだった。
「申し訳ございません。当主が参りましたので少々お待ちいただけますか?」
セオドアは断りを入れ、受話器を押さえながら返事をした。
「はい、左様でございます。相手の方はスカーレット様のお父上であらせられるお方の筆頭執事だと仰っております」
「そうか…すまないが電話を代わってくれ」
「はい、かしこまりました」
セオドアは頭を下げると受話器をアリオスに手渡した。
「もしもし?」
アリオスはやや緊張気味に電話に出た。
『貴方が名門チェスター家の御当主でいらっしゃいますね?初めまして。私はヴィクトール・ヘイズと申します。シュバルツ家の筆頭執事をつとめております』
「ええ、お話は伺っておりますよ。確か貴方は真っ先にスカーレットの父の消息を確かめる為にあの屋敷を出たのですよね?その後、どんな結果になるか考えもせずに…」
ついつい、スカーレットを思うあまり、アリオスは強い口調になってしまう。
『あ、あの…?』
電話口から戸惑いを見せるヴィクトールの声が聞こえ、アリオスは我に返った。
「あ、す・すみません。私がシュバルツ家の事に口を出す権利は無いのに…つい…」
『いえ、無理もありません。でもそれだけ…スカーレット様の事を考えて下さっているのですね?感謝申し上げます』
「い、いえ…私は…」
その時―。
「アリオス様っ!
スカーレットの声が耳に飛び込んできた。アリオスはその声に顔を上げると、扉のすぐ傍で息を切らせたスカーレットが立っていた。
「…」
一瞬、アリオスはスカーレットを見つめると、受話器越しに言った。
「今、スカーレットが来ました。…彼女に代わります」
それだけ伝えると、受話器を無言でスカーレットに差し出した。
「…ありがとうございます…」
スカーレットは受話器を受け取ると、耳を押し当てた。
「もしもし…?」
『スカーレット様ですね?お久しぶりです…』
通話口からは懐かしいヴィクトールの声が流れてきた。
「ヴィ、ヴィクトール…」
スカーレットの目に涙が滲む。
「ずっと…不安だったの…う、嬉しいわ…やっと貴方の声が聞けて…」
『スカーレット様…不安な気持ちでお待たせしてしまい、申し訳ございませんでした…』
「ううん、いいのよ。だって貴方は…お父様を見つけてくれたのだから…」
「…」
(一体…何を話しているんだ?あんなに頬を染めて嬉しそうにして…)
アリオスは少し離れた場所で椅子に座り、スカーレットが電話で話している様子を腕組みしながら見ていた。
「アリオス様…眉間にシワがよっておりますよ?」
セオドアがアリオスに言う。
「え?そんな顔をしていたか?」
「ええ、そうです」
いつの間にお茶を用意していたのか、アリオスのテーブルの前に紅茶を置くとセオドアは言った。
「大丈夫です。スカーレット様とヴィクトール様は…アリオス様が心配されるような関係ではありませんよ」
「…そうか…?」
「はい」
(もしかして…俺は彼に嫉妬していたのか…?)
アリオスは日に日に大きくなるスカーレットへの気持ちに戸惑いを感じた―。
午後2時、チェスター家の応接室に置かれた電話が鳴り響いた。
「はい、こちらはチェスター家の侯爵邸になります」
電話に出たのはアリオスの執事である、セオドアだった。
「え…?スカーレット様の…はい、少々お待ちいただけますか?」
セオドアは電話を置き、少し悩んだ。果たしてスカーレットを呼ぶべきか、それともアリオスを呼ぶべきか…そして考えた末、セオドアは傍にいた2人のメイドに命じた。
「君はすぐにアリオス様を、そして君はスカーレット様を至急このお部屋にお呼びするのだ」
「「はい」」
2人のメイドは長いスカートを翻し、急いで2人を呼びに走った―。
****
「何?スカーレットに電話だと?」
最初に応接室に現れたのはアリオスだった。
「申し訳ございません。当主が参りましたので少々お待ちいただけますか?」
セオドアは断りを入れ、受話器を押さえながら返事をした。
「はい、左様でございます。相手の方はスカーレット様のお父上であらせられるお方の筆頭執事だと仰っております」
「そうか…すまないが電話を代わってくれ」
「はい、かしこまりました」
セオドアは頭を下げると受話器をアリオスに手渡した。
「もしもし?」
アリオスはやや緊張気味に電話に出た。
『貴方が名門チェスター家の御当主でいらっしゃいますね?初めまして。私はヴィクトール・ヘイズと申します。シュバルツ家の筆頭執事をつとめております』
「ええ、お話は伺っておりますよ。確か貴方は真っ先にスカーレットの父の消息を確かめる為にあの屋敷を出たのですよね?その後、どんな結果になるか考えもせずに…」
ついつい、スカーレットを思うあまり、アリオスは強い口調になってしまう。
『あ、あの…?』
電話口から戸惑いを見せるヴィクトールの声が聞こえ、アリオスは我に返った。
「あ、す・すみません。私がシュバルツ家の事に口を出す権利は無いのに…つい…」
『いえ、無理もありません。でもそれだけ…スカーレット様の事を考えて下さっているのですね?感謝申し上げます』
「い、いえ…私は…」
その時―。
「アリオス様っ!
スカーレットの声が耳に飛び込んできた。アリオスはその声に顔を上げると、扉のすぐ傍で息を切らせたスカーレットが立っていた。
「…」
一瞬、アリオスはスカーレットを見つめると、受話器越しに言った。
「今、スカーレットが来ました。…彼女に代わります」
それだけ伝えると、受話器を無言でスカーレットに差し出した。
「…ありがとうございます…」
スカーレットは受話器を受け取ると、耳を押し当てた。
「もしもし…?」
『スカーレット様ですね?お久しぶりです…』
通話口からは懐かしいヴィクトールの声が流れてきた。
「ヴィ、ヴィクトール…」
スカーレットの目に涙が滲む。
「ずっと…不安だったの…う、嬉しいわ…やっと貴方の声が聞けて…」
『スカーレット様…不安な気持ちでお待たせしてしまい、申し訳ございませんでした…』
「ううん、いいのよ。だって貴方は…お父様を見つけてくれたのだから…」
「…」
(一体…何を話しているんだ?あんなに頬を染めて嬉しそうにして…)
アリオスは少し離れた場所で椅子に座り、スカーレットが電話で話している様子を腕組みしながら見ていた。
「アリオス様…眉間にシワがよっておりますよ?」
セオドアがアリオスに言う。
「え?そんな顔をしていたか?」
「ええ、そうです」
いつの間にお茶を用意していたのか、アリオスのテーブルの前に紅茶を置くとセオドアは言った。
「大丈夫です。スカーレット様とヴィクトール様は…アリオス様が心配されるような関係ではありませんよ」
「…そうか…?」
「はい」
(もしかして…俺は彼に嫉妬していたのか…?)
アリオスは日に日に大きくなるスカーレットへの気持ちに戸惑いを感じた―。
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