上 下
145 / 199

第6章 6 その後の計画

しおりを挟む
「ん…でも、待てよ?よくよく考えてみれば口封じに浮浪者が殺されたって事は…その事情を知る唯一の生き証人であるリヒャルト様を生かしておいて、あいつらに何かメリットでもあるのか?」

突如リーが言った。

「う…」

「そ、それは…」

そこまで追及され、グスタフとヴィクトールは腕組みをして考え込んでしまった。しかしグスタフは言った。

「ま、まぁいい!肝心なのはリヒャルト様は生きていたって事だ!取り合えずは一刻も早くこの国を出た方がいいんじゃないのか?もし警察がマークしているならあの小屋からリヒャルト様の姿が消えていることがばれたら行方を探されてしまうかもしれないからな」

「ああ…確かにそうだな。とりあえずは一刻も早くアパートメントを解約しなければなるまい。仕事の方は俺達は日雇いフットマンのようなものだから辞める分には問題は無いだろう。俺達の変わりはいくらでもいるからな」

ヴィクトールは色々考え巡らせながら言う。するとそれを聞いていたリーがニヤリと笑った。

「2人共、それ程慌てる必要は無いぜ。あの小屋には彼の身代わりになる男…俺の部下をもう潜入させているからな。お前たちがこの国を出るまでは影武者がいるから安心しろ」

「何だって?そこまで手を回していたのか?」

ヴィクトールは感心の眼差しを向けた。

「ああ、その代り…ちゃんと料金上乗せしてくれよ?」

リーは人差し指と親指で輪を作ると片目をつぶった―。


 その後。ヴィクトールとグスタフは出国の準備に追われ、忙しい日々が何日間か続くのだった―。



****

 リヒャルトが『ベルンヘル』で発見されて10日程が経過したある日の事―

その日もスカーレットはカールを相手に授業を教えていた。授業の内容は社会科だった。

「では、カール様。ここ、『ミュゼ』の主な産業品は何ですか?」

「はい、製紙工場と絹織物が主な産業品です」

カールはすらすらと答える。

「ええ、そうですね。正解です。このように都市の町では農業や林業は向いておりません。何故なら…」

ポッポー
ポッポー

そこまで話をしていた時、丁度12時を知らせる鳩時計が鳴り響いた。

「あ、丁度12時になりましたね。ではカール様。何故農業や林業が向いてないのか…その理由は宿題に致しましょう。次の授業までにレポート用紙にまとめて置いて下さいね?」

「はい、分りました」

カールは笑顔で答える。

「さて、それでは12時半になりましたらまたダイニングルームでお会いしましょうね?」

スカーレットは教科書や資料を片付けながらカールに言った。

「はい。分りました」



 カチャ‥

スカーレットが扉を開けて自室に戻るとすぐに扉がノックされた。

コンコン

「どうぞ」

カチャ…

「失礼致します」

扉が開かれ、ブリジットが部屋の中に入ってきた。手には手紙が握られている。

「お疲れさまでした、スカーレット様」

「ええ、ただいま。ブリジット。ところで…その手に握られているのはお手紙よね?」

「はい。そうです。速達で届いたのです。アーベル様からですよ。」

「まぁ。アーベルからなのね?」

スカーレットは笑みを浮かべ、手紙を受け取るとすぐに自分のデスクからペーパーナイフに手を伸ばし、ピッと開封した。

「フフ…どんな内容の手紙かしら」

スカーレットはソファに座ると、手紙を読み進め…やがて驚愕の表情を浮かべた。

「そ、そんな…ま、まさか…っ!」

「スカーレット様?どうされたのですか?」

ブリジットはスカーレットに声を掛けた。

「ああ…聞いて頂戴、ブリジット。お父様が…お父様が生きてらしたのよっ!」

「な、何ですってっ?!」

ブリジットも驚き、すぐに手紙に目を通すと口元を抑えた。

「ああ…な、何て事なのでしょう…旦那様が生きてらしたなんて…!」

するとスカーレットが立ち上がった。

「どうされたのですか?」

「わ、私…アリオス様に報告して来るわ!」

そしてスカーレットは勢いよく扉を開けると、アリオスの執務室へと走った―。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者の地位? 天才な妹に勝てない私は婚約破棄して自由に生きます

名無しの夜
恋愛
旧題:婚約者の地位? そんなものは天才な妹に譲りますので私は平民として自由に生きていきます 「私、王子との婚約はアリアに譲って平民として生きようと思うんです」 魔法貴族として名高いドロテア家に生まれたドロシーは事あるごとに千年に一度の天才と謳われる妹と比較され続けてきた。 「どうしてお前はこの程度のことも出来ないのだ? 妹を見習え。アリアならこの程度のこと簡単にこなすぞ」 「何故王子である俺の婚約者がお前のような二流の女なのだ? お前ではなく妹のアリアの方が俺の婚約者に相応しい」 権力欲しさに王子と結婚させようとする父や、妹と比較して事あるごとにドロシーを二流女と嘲笑う王子。 努力して、努力して、それでも認められないドロシーは決意する。貴族の地位を捨てて平民として自由に生きて行くことを。

赤貧令嬢の借金返済契約

夏菜しの
恋愛
 大病を患った父の治療費がかさみ膨れ上がる借金。  いよいよ返す見込みが無くなった頃。父より爵位と領地を返還すれば借金は国が肩代わりしてくれると聞かされる。  クリスタは病床の父に代わり爵位を返還する為に一人で王都へ向かった。  王宮の中で会ったのは見た目は良いけど傍若無人な大貴族シリル。  彼は令嬢の過激なアプローチに困っていると言い、クリスタに婚約者のフリをしてくれるように依頼してきた。  それを条件に父の医療費に加えて、借金を肩代わりしてくれると言われてクリスタはその契約を承諾する。  赤貧令嬢クリスタと大貴族シリルのお話です。

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

悪役令嬢に転生したと思ったら悪役令嬢の母親でした~娘は私が責任もって育てて見せます~

平山和人
恋愛
平凡なOLの私は乙女ゲーム『聖と魔と乙女のレガリア』の世界に転生してしまう。 しかも、私が悪役令嬢の母となってしまい、ゲームをめちゃくちゃにする悪役令嬢「エレローラ」が生まれてしまった。 このままでは我が家は破滅だ。私はエレローラをまともに教育することを決心する。 教育方針を巡って夫と対立したり、他の貴族から嫌われたりと辛い日々が続くが、それでも私は母として、頑張ることを諦めない。必ず娘を真っ当な令嬢にしてみせる。これは娘が悪役令嬢になってしまうと知り、奮闘する母親を描いたお話である。

冷酷非情の雷帝に嫁ぎます~妹の身代わりとして婚約者を押し付けられましたが、実は優しい男でした~

平山和人
恋愛
伯爵令嬢のフィーナは落ちこぼれと蔑まれながらも、希望だった魔法学校で奨学生として入学することができた。 ある日、妹のノエルが雷帝と恐れられるライトニング侯爵と婚約することになった。 ライトニング侯爵と結ばれたくないノエルは父に頼み、身代わりとしてフィーナを差し出すことにする。 保身第一な父、ワガママな妹と縁を切りたかったフィーナはこれを了承し、婚約者のもとへと嫁ぐ。 周りから恐れられているライトニング侯爵をフィーナは怖がらず、普通に妻として接する。 そんなフィーナの献身に始めは心を閉ざしていたライトニング侯爵は心を開いていく。 そしていつの間にか二人はラブラブになり、子宝にも恵まれ、ますます幸せになるのだった。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈 
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

断罪されてムカついたので、その場の勢いで騎士様にプロポーズかましたら、逃げれんようなった…

甘寧
恋愛
主人公リーゼは、婚約者であるロドルフ殿下に婚約破棄を告げられた。その傍らには、アリアナと言う子爵令嬢が勝ち誇った様にほくそ笑んでいた。 身に覚えのない罪を着せられ断罪され、頭に来たリーゼはロドルフの叔父にあたる騎士団長のウィルフレッドとその場の勢いだけで婚約してしまう。 だが、それはウィルフレッドもその場の勢いだと分かってのこと。すぐにでも婚約は撤回するつもりでいたのに、ウィルフレッドはそれを許してくれなくて…!? 利用した人物は、ドSで自分勝手で最低な団長様だったと後悔するリーゼだったが、傍から見れば過保護で執着心の強い団長様と言う印象。 周りは生暖かい目で二人を応援しているが、どうにも面白くないと思う者もいて…

悪役令嬢はお断りです

あみにあ
恋愛
あの日、初めて王子を見た瞬間、私は全てを思い出した。 この世界が前世で大好きだった小説と類似している事実を————。 その小説は王子と侍女との切ない恋物語。 そして私はというと……小説に登場する悪役令嬢だった。 侍女に執拗な虐めを繰り返し、最後は断罪されてしまう哀れな令嬢。 このまま進めば断罪コースは確定。 寒い牢屋で孤独に過ごすなんて、そんなの嫌だ。 何とかしないと。 でもせっかく大好きだった小説のストーリー……王子から離れ見られないのは悲しい。 そう思い飛び出した言葉が、王子の護衛騎士へ志願することだった。 剣も持ったことのない温室育ちの令嬢が 女の騎士がいないこの世界で、初の女騎士になるべく奮闘していきます。 そんな小説の世界に転生した令嬢の恋物語。 ●表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_) ●毎日21時更新(サクサク進みます) ●全四部構成:133話完結+おまけ(2021年4月2日 21時完結)  (第一章16話完結/第二章44話完結/第三章78話完結/第四章133話で完結)。

処理中です...