母と妹が出来て婚約者が義理の家族になった伯爵令嬢は・・

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第6章 1 ヴィクトール

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8月半ばの朝10時―

 シュバルツ家の筆頭執事であるヴィクトールが、当主であるリヒャルトの死の真相を探る為にここ、『ベルンヘル』にやってきて、早3ヶ月が経過していた。

 ヴィクトールはリヒャルトが命を落としてしまったとされるフレックス街の1番地に賃貸アパートメントを借りて住んでいる。2ヶ月前からはグスタフも同居人として住んでいた。
2人は平日はベルンヘルに住む有力貴族の家でフットマンとして働き、休みの日は自分たちの足でリヒャルトの足取りを探していた。本日、ヴィクトールは仕事が休みで朝からリヒャルトに関する事件と関連がありそうな新聞記事を漁っていた。

ガチャッ

アパートメントのドアが開かれ、グスタフが汗を拭きながら帰宅してきた。

「ふぅ~外は暑かった…」

「ああ、お帰り」

ヴィクトールは新聞記事から目を離さずに声を掛ける。

「ああ」

グスタフは返事をすると小脇に抱えていた瓶の栓を抜くと、ごくごくと飲み干した。

「何だ?朝から酒でも飲んでいるのか?」

顔も上げずに新聞記事に目を通すヴィクトールが声を掛けた。

「バカ言え。暑いから露店でミネラルウォーターを買ってきたんだ」

「そうか。それで収穫の方はどうだった?」

ようやく顔を上げたヴィクトールはグスタフに尋ねた。グスタフは椅子にドサッと座ると肩をすくめた。

「駄目だ、警察はさっぱりだ。もう時が経過しすぎて遺体の特定は出来ないとの一点張りだ。しかも警察が管理する墓に埋葬したから無理だの、一点張りだ」

「ふ~ん、そうか。よし、お前も帰ってきたことだし…出掛けるぞ」

ヴィクトールは新聞記事をまとめると立ち上がった。

「え?!行くって…一体どこへ行くつもりだ?!」

するとヴィクトールがニヤリと笑うと言った。

「俺が個人的に雇っている情報屋から興味深い話が聞けそうなんだ。今からその人物に会いにいく。お前も来い」

「ええっ?!な、何で俺まで…たった今暑い外から帰宅したばかりなんだぞ?!」

「いいから来い、ひょっとするとリヒャルト様の話が聞けるかも知れないんだ」

「え?何だってっ?!」

「どうだ?行くか?」

再度ヴィクトールがグスタフに言う。

「当然、行くに決まっているだろう!」

ドン

空になった瓶をテーブルの上に置くとグスタフは立ち上がった―。


****

 ギラギラと照りつける太陽の下、半袖シャツにスラックスというラフなスタイルでヴィクトールとグスタフは運河沿いの石畳を歩いていた。右手に見える運河には小さな小型のボートが停泊している。2人でアーチ型のガード下を歩きながらヴィクトールが口を開いた。

「今から約4ヶ月程前の事だ。この辺り一体には浮浪者のたまり場になっている場所があるのだが、そこへ派手なドレスを着た女がよく現れていたらしい」

いきなり突拍子もない話をされてグスタフは首を傾げた。

「おい、待てよ。その話とリヒャルト様の話…何処に関連性があるんだ?」

「まぁ、焦らず聞けよ。その女は全ての浮浪者の元を訪ね歩いていたらしい。そこである1人の浮浪者に目を付けた。その男は40代位の男で薄汚れた身なりをしていた。女はなぜかその男をえらく気に入ったらしく、連れ出したらしいんだ」

ヴィクトールは歩きながら尚も話を続ける。

「そしてその直後から、男は姿を消した。彼は仲間内からジャンと呼ばれていた」

「…?」

「ジャンは1週間ほど、姿を消して…また戻ってきたそうだ。身体中は殴られたような痣だらけで、余程ショックな事があったらしく記憶を失っていた」

歩き続けていると、運河沿いにバラックが立てられている場所が現れた。そしてそこに目付きの鋭い若者が立っており、ヴィクトールを見ると声を掛けてきた。

「よぉ、待っていたぞ」

「ああ、遅くなってすまなかった」

ヴィクトールは返事をする。

「おい?その男は誰だ?」

グスタフはわけが分からず尋ねた。すると男はふてぶてしい笑みを浮かべると言った。

「悪いが俺は情報屋だから本名は明かせない。とりあえずリーと呼んでくれ」

「リー?女みたいな名前だな」

「別にいいだろ?偽名なんだから」

グスタフの言葉にリーは肩をすくめた。

「リー。その小屋の中にいるのか?」

ヴィクトールは尋ねた。

「ああ、いる。でも驚くなよ?」

「分かっている」

ヴィクトールが頷くと、リーは小屋の扉を開けた―。


 


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