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第3章 12 晩餐会の準備
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──ある日。ユキマサの父、稗月木枯はパチスロへと足を運んでいた。
(雨だ……今日はパチスロ日和だな)
さて、何を打つか……
(パチンコなら〝ホスト無双〟スロットなら〝パシリスト絆〟だな……悩み所だ……)
顎に手を当て、小遣いである一万円札を握りしめ、木枯は朝イチのパチ屋の入場抽選を待つ。
抽選の順番は10番、平日の特にイベントでも無い日としてはまあまあの入場順だ。
(よし、今日はパシリストだ! 絆を打つぞ!)
木枯は決意を固める。
そうして打つこと100回転前後、木枯はフリーズを引いた。
「おいおい、マジか!?」
引いた木枯自身が驚く。
結果、この日、木枯は5000円でフリーズを引き、なんやかんやで8000枚(16万円)と大勝利を果たした。
ご機嫌なテンションで木枯は帰路に着く。
家に着くと、木枯は吹雪の前で正座していた。
「──あぶく銭です」
稗月家にはこんな家訓がある。
〝汗水垂らして稼いだ金は自分達の為に使え、あぶく銭は可能な限り他人のために使え〟
この家訓の為の吹雪の対応である。
「ま、待ってくれ、今までスッたのを計算するとそんなに勝ってないんだ!」
「あぶく銭です!」
ニッコリと吹雪が笑う。
「まあ、家族で外食ぐらいは行きましょうか」
その場にぐったりと木枯は膝を吐く。
その日、家族6人で食べ放題の焼き肉チェーン店に晩飯を食べに行き、残った金は母さんが全額孤児院に寄付していたのだった──。
*
「夏祭り?」
理沙が口を開く。
「ああ、今日の夜だ! 屋台、見に行こうぜ!」
俺は楽しげに理沙に言う。
「で、でも……」
チラりと母さんを理沙が見る。
「いいじゃない、せっかくのお祭りよ、理沙ちゃんも見てきなさいな」
「う、うん!」
「よっしゃあ、決まりだな!」
「いや、何で親父が一番嬉しそうなんだよ?」
まあ、ということで、その夜──
「こ、混んでるね」
「理沙はお祭り来たこと無いのか?」
「うん、来たこと無い」
「まじかよ」
「あ、理沙ちゃん、はい、お小遣い!」
と、理沙に母さんが5000円を渡す。
「え、こんな大金、受け取れないよ」
「いいのよ、むしろ店の手伝いをしてくれてるんだから、普通ならこの100倍ぐらい渡したい所よ」
100倍って……まあ、一年以上店を手伝ってるんだからそれぐらい出ても、何ら不思議じゃないか。
「じゃ、じゃあ、ありがとう、な、何、買おうかな」
「たこ焼き、焼きそば、りんご飴、唐揚げ、ポテト、早く回らないとだな」
「ユキマサはどれだけ買うつもりなの?」
「ん? 制覇に決まってるだろ? 名が廃る」
「俺はユキマサに賛成だ、金は俺が持つ、好きに食べてこい」
「流石は親父だ、分かってるな!」
ガシッと、腕を絡ます俺と親父。
「はーいはい、理沙ちゃんバカは放っておきましょ、それより、花火の場所取りをしてくれてる、お義父様とお義母様を探さなきゃね」
「……うん」
*
「たこ焼き1つ」
「焼きそば1つ」
「りんご飴1つ」
そんな感じでどんどんと俺は屋台を回る。
「おい、ユキマサ、そっちはどうだ?」
「どうだも何も、俺は飲食系の屋台を回ってるだけだぜ? 親父こそ、そのキツネの面はどうしたんだよ?」
いつの間にか、キツネの面を斜めにかける親父は上機嫌で話しかけてくる。
「あ、やっと見つけた! おかーさんが探してたよ」
と、現れたのは理沙だ。
だが、理沙の手にはりんご飴とわたあめが握られており、どうやら理沙も理沙で夏祭りを満喫しているみたいだ。
「理沙か、どうだ? 祭りは?」
「うん、すごい楽しい、おばーちゃんにりんご飴も貰ったし──美味しいね、これ」
「にしし、だろ?」
「何でユキマサが誇らしげなのよ?」
「おい、ユキマサ、理沙、そろそろ花火が始まるぜ? 吹雪達と合流しなきゃな? 理沙、案内頼むぜ?」
「あ、うん、こっち」
理沙に案内され、かき氷、大判焼き、お好み焼き、を買いながら俺達は母さん達と合流する。
と、その時だ、ヒュ~ン、ドッカーン!
大きな花火が打ち上がる。
「綺麗……」
「にひひ、だろ? 花火は良いよな」
感動したような声で理沙が呟き、俺はその隣で楽しく笑う。花火は良い、特に誰かと見る花火は格別だ。
「おーい、理沙、ユキマサ、かき氷の屋台があるぜ! 夏の醍醐味だ、食おうぜ、さて何味にするか?」
俺と理沙の間に割って入り、右手を俺に、左手を理沙の頭の上に乗せる親父は子供のように笑顔だ。
「親父、花火見ろ、花火! もう始まっちまったじゃねぇか! ブルーハワイ!」
「バカ野郎! 花火の下で食う、かき氷ってのが乙なんだぜ? お前もやってみろ?」
「な、花火の下で、かき氷だと……!?」
最高に決まってる。
く、馬鹿は俺だ。
「私はイチゴにしようかな」
「お、いいねぇ。俺は変化球でコーラ味だな。よし、おやっさーん! かき氷3つ、ブルーハワイ、イチゴ、コーラで頼むぜ!」
でも、時間は無駄にはしまいと、さっさかと親父は注文と会計を済ませる。
「ありがとな、親父」
「ありがとう。おとーさん」
かき氷を受けとる、シロップもケチケチせず、たっぷりだ。
しかもよく見るとシロップはかけ放題らしい。気前が良いね。
「おうよ。ゆっくり食べな、キーンてなるからな? さ、じゃあ、食いながら、吹雪たちと合流しようぜ」
サクッと刺し、パクっと食う。うん、美味い。
ブルーハワイのこの青色が実に涼しげだよな。
「ていうか、おとーさんもユキマサも手荷物いっぱいだね。どれだけ買ったの?」
かき氷を食いながら、ビニール袋に入った屋台の食べ物を両腕にこれでもかとブラ下げる俺と親父を見て理沙が驚き半分呆れ半分といった様子で見てくる。
「ん? 目に止まった物、全てだが?」
然も当然かのように答える俺に、理沙はやはり呆れ気味だ。
花火の打ち上がる空の下、俺と理沙と親父は、席を取っていた母さんと爺ちゃん婆ちゃんと合流する。
「あら、遅かったですね、花火始まってますよ」
母さんが少しズレて、俺たちの席を開ける。
「おい、木枯、早くせい、先にもう飲んどるぞ」
「あらあら、飲み過ぎないでくださいね」
「いいねぇ。屋台で色々買ってきたぜ、皆で食おう」
親父がビールをグラスに爺ちゃんに注いでもらいながら返事を返す。
ヒュ~ン、ドッカーン!
花火が打ち上がる。
「どうした理沙?」
ふわぁ、と、感動したように花火を眺める理沙に俺はイタズラ気に声を掛ける。
「うん、綺麗だなって!」
花火に負けない明るい笑顔だ。
「理沙ちゃん、理沙ちゃん、たこ焼き食べる?」
「食べる、お婆ちゃんも一緒に食べよ」
婆ちゃんの隣に座り、たこ焼きを爪楊枝で食べ始める。理沙は、たこ焼きを食べると、花火が上がると、少しオーバーなぐらいのリアクションを取る。
でも、凄く楽しそうだ。婆ちゃんも笑ってる。
「本当に綺麗、たこ焼きも美味しい──」
笑みを溢す、理沙。
──花蓮理沙は、この日見た花火を生涯忘れない。
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