母と妹が出来て婚約者が義理の家族になった伯爵令嬢は・・

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第3章 2 ハインリヒの乱入

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午前10時―

本日、スカーレットはカールに外国語の授業を教えていた。

「ではカール様、この文章を訳して頂けますか?」

「はい、スカーレット様」

カールは元気よく返事をすると、たどたどしく翻訳を始めた。

「少女は…飼っている犬を…連れて…散歩へ行き…ました」

「はい。カール様、正解です。大変良く出来ました。それでは次の問題へ…」

その時、突然ガチャリと乱暴に部屋のドアが開けられた。

「え?」

スカーレットは驚いてドアを見ると、そこには見慣れない若者が立っていた。栗毛色の髪の若者は年の頃はスカーレットと左程変わらないように見えた。しかし…。

(お、男の人だわ…誰かしら…。どうしていきなりノックもせずに…怖い…!)

突如現れた男性にスカーレットは怯えて小刻みに震え始めた。

「あ…ハインリヒ兄さん…!」

カールはこわばった表情で若者を見た。

「よお!カール。夏季休暇で屋敷に帰って来たからお前の顔を見にやって来たぜ」

若者は意地悪そうな目でカールに言う。

「え…?ハインリヒ…?」

スカーレットはその名を口の中で小さく呟いた。その名前に聞覚えがあったからだ。

(ハインリヒ…そうだわ!思い出したわ。確かアリオス様の弟で、カール様とは腹違いのお兄さん。全寮制のハイスクールに通う17歳の少年…)

するとハインリヒがスカーレットをじっと見つめると言った。

「へえ~…ひょっとしてあんたがカールの家庭教師かい?…家庭教師にしておくには勿体ない位の美女じゃないか?」

ハインリヒはニヤリと笑みを浮かべるとズカズカと室内へ入り込み、スカーレットに近付くとグイッと手を握りしめると言った。

「へえ~近くでみるとますます美人だな…」

そして空いている手でスカーレットの顎をつまんで強引に自分の方に向けさせる。

(い…いや!こ、怖い…!)

いくらハインリヒがスカーレットより2歳若くても、彼はスカーレットよりもずっと背が高く、十分に大人の男性に見えてしまう。スカーレットはもはや恐怖の為に声を出す事すら出来ずにいた。身体を震わせ、目には見る見るうちに涙がたまって来る。

「はあ~・・?何だ?泣いてるのか?ひょっとして…泣くほど俺が怖いのか?」

カールもハインリヒが怖かった。だから何も出来ずにその様子を見ている事しか出来なかったのだが、スカーレットが青い顔でブルブル震えている姿に気が付いた。
生憎、今日に限ってブリジットは席を外していた。それはスカーレットが彼女に休息をあたえたからである。だが、仮にここにブリジットがいたとして、果たして彼女を助ける事が出来ただろうか。

(そうだ!スカーレット様は…確か、大人の男性が怖い方なんだ!)

「スカーレット様!」

カールはスカーレットの名を叫び、無理やりハインリヒにしがみつくと必死で懇願した。

「やめて下さい!ハインリヒお兄様っ!スカーレット様から離れて下さいっ!」

「何だよっ!このクソガキ!離せっ!」

ハインリヒはスカーレットの手首を握りしめたままカールを振りほどこうともがいた。

「いいえ!離しません!ハインリヒお兄様がスカーレット様を離すまでは!」

「この…クソガキがっ」

ついにカールに切れたハインリヒはスカーレットの手を離すと、乱暴にカールを強く突き飛ばした。身体が小さいカールは簡単に投げ飛ばされ、床に強く身体を打ち付けてしまった。

「ウウッ!」

あまりの激痛にカールは一度だけ呻くと気を失ってしまった。

「キャアアッ!カール様っ!」

スカーレットが悲鳴を上げる。

それを見たハインリヒは言った。

「ったく…クソガキが…ちょっと会わないうちに生意気になりやがって…!もっといたぶってやらないと気が済まないぜ…!」

ハインリヒは忌々し気にカールを睨んだ。
その直後、背後にいたスカーレットがカールに駆け寄った。

「カール様っ!」

そしてカールを抱き上げると、恐怖で震えながらもハインリヒを見た―。

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