母と妹が出来て婚約者が義理の家族になった伯爵令嬢は・・

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第3章 1 手紙

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 7月―

 早いものでスカーレットがカールの家庭教師になってから1カ月が経過しようとしていた。
あれからスカーレットの周囲では様々な変化が起こっていた。まず、食事についてだが、ダイニングルームがあまりにも遠い場所にあることから、新しくカールの部屋の隣の空き部屋をダイニングルーム用の部屋に改装され、3人は新しくなったその場所で食事を取るようになった。そして身体が弱いカールの為に、昼食は天気が良ければ庭で食事をし、太陽の日差しを浴びさせるようにした。
またそれ以外で変化があったのはシュバルツ家に関することであった。
あの日…義母であるアグネスのせいで、シュバルツ家の使用人達はいっせいに去ってしまった。それはあまりにも突然の出来事だったので全員が散り散りになってしまったのだが、最近になってようやく彼らは落ち着ける場所が見つかったのか、少しずつスカーレットの元に手紙が届くようになってきたのだ。


****

 それは昼食後の出来事だった。

スカーレットは自室で翻訳の仕事をしていた。今、カールは食後の昼寝をしている。昼食後の1時から3時まではカールの昼寝の時間に入るので、その間のスカーレットは空き時間が出来る。そこでこの空き時間を利用して翻訳の仕事をしていたのだ。

コンコン

スカーレットが新聞掲載記事の社説を翻訳していると、ノックの音がきこえた。

「誰ですか?」

「私です、ブリジットです」

扉の外からブリジットの声が聞こえた。

「あら、ブリジットなのね?どうぞ中へ入って」

するとカチャリとドアノブが周り、扉が開けられるとそこにはブリジットが立っていた。手には封筒が握られている。

「スカーレット様、お手紙が届きましたよ」

「あら?また届いたのね?今度は誰からなのかしら?」

「はい、なんと手紙の差出人はジミーさんからですよ」

ブリジットはニコニコしながら手紙を差し出してきた。

「まあ!ジミーから?!」

スカーレットの顔に笑みがこぼれた。

「ありがとう、さっそく読むわ」

そしてふと気づいた。ブリジットのつけているエプロンからはもう1通封筒が覗いて見えている。

「ブリジット、ポケットから見えているのは手紙じゃないのかしら?」

「え、ええ…そうなのですが…」

「あ、ひょっとしてその手紙はブリジット宛なのね?」

「いえ。スカーレット様宛です。ただ‥‥」

何故かブリジットの歯切れが悪い。そこでスカーレットは尋ねた。

「え?私宛の手紙なのよね?一体誰からなの?」

「そ、それが…アンドレア様からなのです‥」

ブリジットは声を振り絞るように言う。

「え?!ア、アンドレア様からっ?!」

途端にスカーレットの脳裏にあの時の恐怖が蘇ってきた。無理やり押し付けられた唇から侵入してくるアンドレアの舌、そして大きな手で身体を強引にまさぐられるおぞましさ…。いくらカウンセリングを受け、少しずつ男性への恐怖心が和らいできたとは言え、自分を襲ったアンドレアの事をおもい出すとスカーレットは冷静でいられなくなってしまうのだった。

スカーレットの顔が青ざめ、身体が小刻みに震えだす姿を見たブリジットは慌てた。

「申し訳ございません!スカーレット様!こんな手紙、燃やしてまいります!」

ブリジットが手紙を持って出て行く姿をスカーレットは止めることなど出来なかった。

「ふう‥」

目を閉じて呼吸を整えると、ジミーからの手紙を開封した。そこにはジミーらしい勢いのある字で、近況を報告する内容だった。ジミーは現在シュバルツ家の領地にあるレストランで働いている内容が書かれていた。

「ジミー…元気そうで良かったわ」

スカーレットは手紙に目を通しながら、ドア越しの悲しい別れを思い出していた。

「あの時はごめんなさい…」

スカーレットはジミーからの手紙をそっと抱きしめるのだった―。
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