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第2章 15 看病

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「カール様…」

スカーレットは水が張られた銀のたらいに浸してあるタオルを絞ると赤い顔をして眠
っているカールの額にのせた。身体も熱のせいで酷く汗をかいている。
それにしても…スカーレットは思った。この屋敷は由緒正しい侯爵家である。使用人だって大勢いるのに、何故誰1人カールの看病にやってこないのだろうか?それが疑問でならなかった。

「どこかに着がえは無いのかしら…?」

スカーレットは部屋の中を見渡すと壁際にクローゼットが並べられていることに気付いた。

「あの中に着がえの寝間着はいっていないかしら?」

立ち上がって、クローゼットに近付くと次々と引き出しを開けていく。やがて…

「あった!これがカール様の寝間着ね?」

肌触りの良い水色のシルクの寝間着を見つけたスカーレットは急いでカールの元へと戻る。

「カール様…失礼しますね?」

スカーレットはカールに掛けてあるキルトをそっとはぐと、カールの寝間着のボタンを1つ1つはずして身体に負担を掛けないようにゆっくり脱がせると固く絞ったタオルで身体の汗を拭きとり、新しく持ってきたシルクの寝間着にきがえさせた。そして水を取り替える為にたらいを持って部屋に備え付けのバスルームで水を変えて来ると再びカールの元へ戻り、額の上にぬれタオルを置いたその時…。

「あ…」

カールが薄目を開けた。

「カール様?!」

スカーレットはカールの顔を覗き見た。

「お…お母様…?」

「え?」

カールは熱の為か、スカーレットを母親と勘違いしたようだった。カールは荒い息を吐きながら弱々しく微笑むと言った。

「お母様…よ、良かった…戻ってきて…くれたんですね…?」

「カール様…」

カールは熱で具合が悪いはずなのに手を伸ばしてくるとスカーレットの手にそっと触れると言った。

「お母様…ぼ、僕…いい子になりますから…べ、勉強ももっと頑張るから…ずっと、どこにも…行かないで下さい…ぼ、僕を…ひ、ひとりにしないで下さい…お願いです…」

そしてポロポロと泣き始めた。

「カール様…っ!」

スカーレットの両目から涙が溢れた。そしてカールの小さな手をギュッと握りしめると言った。

「カール様、安心して下さい。カール様には私がいます。ずっと…ずっと許される限り、貴方のお傍にいますから…!」

するとカールが泣きながら笑みを浮かべた。

「ほ、本当に…?」

「ええ、本当です」

「よか…った…」

そしてカールはスカーレットの言葉に安心したのか、目を閉じるとやがてスヤスヤと穏やかな寝息を立てて眠りについた。

「カール様…」

スカーレットはそっとカールの頬に触れ…涙の後をハンカチで拭った―。



****

翌朝―

鳥のさえずる声でカールはふと目が覚め…そして椅子に座り、枕元でうずくまるように眠っているスカーレットに気付き、心臓が止まりそうなほどに驚いて思わず起き上がると、おでこから絞ったタオルが枕の上にポトリと落ちた。

「あ…」

カールはタオルを拾い、そして理解した。寝ずの看病をしてくれたのはスカーレットだったのだと言う事を。夢の中で母親が出てきたけれども、本当は今カールの目の前で微かな寝息を立てているスカーレットだった事に気が付いた。

「スカーレット様…」

そっとカールが呟き、髪に触れた時にスカーレットはふと目を開けた。

「あ…カール様?目が覚めたのですね?」

「はい、スカーレット様。」

「もう…どこも具合が悪いところはないですか?」

スカーレットはカールの額に手を当てると尋ねた。

「はい、もう大丈夫です。ご心配おかけしました。すみませんでした。」

カールは礼を述べた。

「そんな…謝らないでください。むしろ謝るべきは私です。私のせいでカール様が具合を悪くして…本当にすみませんでしたっ!」

気付けばスカーレットはカールを強く抱きしめていた。そして思った。

(カール様に気を使わせないためにも…自分を変えなければ…いつまでも男の人の目を気にしていては…カール様の家庭教師は務まらないわ…!)

スカーレットはカールの為にも男性恐怖症を克服しようと心に決めた―。





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