母と妹が出来て婚約者が義理の家族になった伯爵令嬢は・・

第2章 8 スカーレットの考え

　夕方6時―

あらかた部屋の片付けが終わり、スカーレットは書棚に持参してきた本の整理をしていた。スカーレットは翻訳の仕事をしてきた才女なので本の量も大層な量だった。
実はスカーレットは落ち着いてきたら翻訳の仕事も始めようと考えていたのだ。勿論最優先するのはカールの家庭教師ではあるが、いつまでこの仕事を続けられるかの保証は何処にも無い。ここを出て行く時に自分で生きて行く為の保険はあった方が、良いに決まっているし、年老いたブリジットを自分が養ってあげようと心に決めていたからである。

コンコン

　部屋のドアがノックされ、スカーレットに緊張が走る。

（だ、誰かしら・・？）

「は、はい。どなたでしょうか？」

震える声で返事をする。

「お夕食の準備が整いました」

それは女性の声だった。

（よ、良かった・・・女の人だわ）

スカーレットは安堵しつつ、扉に向かった。

カチャリ・・・

扉を開けるとそこにはお仕着せを着用した年若いメイドが立っており、スカーレットを見ると頭を下げてきた。

「スカーレット様、お食事の用意が整いましたが・・御都合は宜しいでしょうか？」

「はい、私なら大丈夫です。あの・・隣の部屋にいるブリジットも誘って大丈夫でしょうか？」

「ええ。勿論でございます」

「では声を掛けてきますので待って頂けますか？」

「はい、お待ちしております。」
　
スカーレットはメイドに言うと、ブリジットの部屋を訪れた。

コンコン

スカーレットは扉をノックしながら声を掛けた。

「ブリジット、わたしよ。スカーレットよ」

するとすぐにカチャリと扉が開けられ、ブリジットが中から現れた。

「まあ、どうなさいましたか？スカーレット様」

「あのね、ブリジット。夕食に呼ばれたのよ。すぐに来れるかしら？」

「はい、私の方は大丈夫です」

「そう、良かった。なら行きましょう。カール様がきっと待ってらっしゃるから。」

「ええ。そうですね」

そしてスカーレットがブリジットを伴って廊下に出ると、先ほどのメイドがスカーレットの部屋の前で待っていた。

「お待たせしました。それでは案内して頂けますか？」

スカーレットは笑みを浮かべて尋ねた。

「はい、かしこまりました。ではどうぞ私の後をついてきてください」

メイドはスカーレットたちに背を向けると長い廊下を歩きだした。
チェスター侯爵家はとても広く、ダイニングルームまでの道のりも遠かった。廊下では何人ものメイドにすれ違いはしたが、フットマンには１人も出会う事は無かった。

（まさか・・・当主様がスカーレット様の為に・・？）

スカーレットはその事には気付いてはいなかったが、使用人として働いていたブリットには分った。

（男性恐怖症のスカーレット様の為に・・・ダイニングルームまでの道のりを男性使用人達に鉢合わせしないように配慮して下さったのね・・）

ブリジットは改めて、心の中で感謝するのだった・・・。


　部屋を出て５分程廊下を歩くと、ようやくダイニングルームに到着した。

「どうぞ、こちらになります」

メイドがカチャリと扉を開けると、そこは豪華な大理石の床の広々としたダイニングルームだった。部屋の中央には大きな楕円形のテーブルが置かれ、既にカールが椅子に着席していた。

「あ、スカーレット様・・そして・・」

カールは嬉しそうに言うと２人を見た。

「ブリジットです。カール様」

ブリジットは笑みを浮かべると言う。

「スカーレット様、ブリジット様お待ちしておりました。どうぞお入りください」

カールはニッコリ笑って２人をダイニングルームへ招き入れた―。