母と妹が出来て婚約者が義理の家族になった伯爵令嬢は・・

第2章 4 チェスター家の3兄弟

部屋を出るとすぐにセオドアは説明を始めた。

「今、お会いされた方が次期当主になられますアリオス・チェスター様でございます。アリオス様は現在23歳で、ほかに2人の弟君がおられます。次男のハインリヒ様は今年17歳、そして一番下の弟君のカール様は10歳でございます。スカーレット様に家庭教師をしていただきたいのはカール様です。」

「はい、分かりました。」

スカーレットは返事をしながら思った。

（それにしてもアリオス様とカール様は意外と年が離れていらっしゃるのね・・。他に間に妹はいないのかしら・・。）

するとセオドアはまるでスカーレットの考えが分かったかのように、尋ねもしないのに言った。

「アリオス様とカール様は腹違いのご兄弟なのです。アリオス様の母君はハインリヒ様をお産みになるとすぐにお亡くなりになってしまったのです。そして当主様が再婚されて、カール様がお生まれになりました。」

「あ・・そうだったのですね？教えて頂きありがとうございます。」

スカーレットは頭を下げた。

「いえ、とんでもございません。」

その時背後から男性の声で呼び止められた。

「セオドア様、少しよろしいでしょうか？」

「！」

驚いたスカーレットは振り向き、すぐ近くに若いフットマンが立っていることに気づいて声にならない悲鳴を上げた。それを見たブリジットはすぐにスカーレットの手を握り締める。

「どうかしましたか？」

セオドアはフットマンに尋ねた。

「はい、来週開催されるパーティーの招待客のリストについて少々お伺いしたいことがございまして・・・。」

「分かりました。後ほど行きますので待っていて下さい。」

「ありがとうございます。」

フットマンは一礼するとスカーレットとブリジットにも会釈をし、去って行った。

「・・・。」

青ざめた顔でガタガタと震えるスカーレットを見つめていたセオドアだったが、ついに口を開いた。

「スカーレット様・・・大丈夫ですか？」

その顔には心配そうな表情が浮かんでいる。

「は、はい・・・・だ、大丈夫・・・です・・。」

しかし、スカーレットの様子は誰が見ても少しも大丈夫そうには見えなかった。顔色は青ざめ、今にも倒れてしまいそうである。

「今日は・・・お会いになるのはやめますか・・？」

セオドアが声を掛けてきたが、スカーレットは首を振った。

「いいえ・・大丈夫です。どうか・・カール様に会わせて下さい。」

「分かりました・・。では先を進みましょう。」

セオドアは再びスカーレットたちを伴って廊下を歩き始めた。スカーレットはセオドアの背中を見つめながら思った。

（セオドア様・・・。私がカール様の家庭教師を無事に勤められるのか心配されているのね・・・）

だが、それはスカーレットにとっても同じことだった。自分はカールと会っても平常心を保っていられるのか・・それを確認する為にも、どうしても会っておきたかったのだ。

（どうか・・カール様を見ても・・大丈夫でありますように・・！）

スカーレットは自分に強く言い聞かせるのだった―。