57 / 199
第2章 3 チェスター家当主代理との出会い
しおりを挟む
チェスター家は名門の侯爵家というだけの事はあり、シュバルツ家とは比較にならない広さの屋敷であった。幅広で、長く続く廊下には明るい日差しがサンサンと差し込み、大理石の廊下を照らしている。等間隔に並べらた壺や絵画はそれは見事なものであった。しかし・・それ以上にスカーレットたちが圧巻されたのは・・使用人の数である。先ほどから至る場所で数多くの使用人たちにすれ違う。
「!」
廊下でフットマンにすれ違った時にスカーレットの肩がビクリと跳ねた。そしてうつむき加減で青ざめた顔で執事のセオドアの後をついて行く。
(スカーレット様・・・!)
そんなスカーレットの様子をブリジットは不安そうに見つめていた。
(やはり・・こんなに早くチェスター家にやって来るのは時季尚早だったのではないかしら・・・。だけど、もうシュバルツ家にいられることは出来なかったし・・・。こんなことになったのも全ては・・アンドレア様と憎きアグネス母娘のせいだわ・・。何故、スカーレット様がこのような残酷な目に遭わなくてはならなかったのかしら・・・!)
ブリジットはスカートの裾をギュッと握りしめ・・・今後のスカーレットの未来を案じた―。
****
「こちらのドアの奥に・・次期当主になられます、アリオス・チェスター様がおられます。」
案内された扉は銀色に輝くドアノブに家紋のようなレリーフが彫られたドアだった。執事のセオドアはライオンの飾りのドアノッカーを握りしめるとドアをノックした。
コンコン
「・・・入れ。」
ドアの奥で声が聞こえた。
「失礼致します。」
セオドアは丁寧にお辞儀をするとドアノブをカチャリと回し、ゆっくりドアを開けた。
キイイイイ・・・・
やがてドアが開かれると、広々とした部屋が目の前に現れた。床には重厚そうなカーペットが敷き詰められ、大きな掃き出し窓からは明るい日差しが差しこみ、ワインレド色のカーテンがサイドでまとめられている。そして正面から見た右側に立派な書斎机が置かれ、そこに1人の若い青年が座り、書類に目を通していた。
「アリオス様・・・シュバルツ伯爵家の御令嬢がご挨拶にいらっしゃいました。」
すると、青年は顔をこちらに向けた。
「中へ入ってくれ。」
ハスキーボイスでスカーレットたちに声をかける。
「は、はい・・。」
スカーレットはすっかり恐怖で委縮しながらも、ゆっくり部屋の中に足を踏み入れ・・これから新しく仕える事になる主人・・アリオスの正面に立った。アリオスは輝くような銀の髪に・・・まるで彫像のように彫りの深い、それは美しい顔立ちの青年だった。
「君が・・弟の家庭教師として雇われた・・御令嬢か?確か名前は・・・。」
「は、はい・・・。スカーレット・シュバルツと申します・・・。」
スカーレットは震える手でドレスを持ち上げ、頭を下げた。アリオスはその様子を見つめた後、次に視線をブリジットに移した。
「すると・・そちらの御婦人が・・?」
「はい、この度は御親切にも私をこの屋敷にお招き頂き、大変感謝をしております。私はスカーレット様の乳母をしておりましたブリジットと申します。これからどうぞよろしくお願い致します。」
そして深々と頭を下げた。しかし、一方のアリオスは2人に対して興味も無さげに視線も合わせずに言う。
「どうせ、そうそう顔を合わす事もないだろうし・・特に私の挨拶は不要だな。それでは着いた早々で悪いが、すぐに弟の元へ向かってくれ。セオドア、案内を頼む。」
「はい、では・・・御案内致します。スカーレット様、ブリジット様・・どうぞこちらへ。」
「はい、分りました。」
スカーレットは返事をするとチラリとアリオスを見た。するとアリオスはこちらを見もせずに、既に書類に目を通している。
その様子を見てスカーレットは思った。
(良かったわ・・こちらの方は・・・私に全く興味が無さげで・・・。どうか、このまま・・何事も無く、家庭教師の仕事を全う出来ますように・・・。)
そう、スカーレットは願うのだった―。
「!」
廊下でフットマンにすれ違った時にスカーレットの肩がビクリと跳ねた。そしてうつむき加減で青ざめた顔で執事のセオドアの後をついて行く。
(スカーレット様・・・!)
そんなスカーレットの様子をブリジットは不安そうに見つめていた。
(やはり・・こんなに早くチェスター家にやって来るのは時季尚早だったのではないかしら・・・。だけど、もうシュバルツ家にいられることは出来なかったし・・・。こんなことになったのも全ては・・アンドレア様と憎きアグネス母娘のせいだわ・・。何故、スカーレット様がこのような残酷な目に遭わなくてはならなかったのかしら・・・!)
ブリジットはスカートの裾をギュッと握りしめ・・・今後のスカーレットの未来を案じた―。
****
「こちらのドアの奥に・・次期当主になられます、アリオス・チェスター様がおられます。」
案内された扉は銀色に輝くドアノブに家紋のようなレリーフが彫られたドアだった。執事のセオドアはライオンの飾りのドアノッカーを握りしめるとドアをノックした。
コンコン
「・・・入れ。」
ドアの奥で声が聞こえた。
「失礼致します。」
セオドアは丁寧にお辞儀をするとドアノブをカチャリと回し、ゆっくりドアを開けた。
キイイイイ・・・・
やがてドアが開かれると、広々とした部屋が目の前に現れた。床には重厚そうなカーペットが敷き詰められ、大きな掃き出し窓からは明るい日差しが差しこみ、ワインレド色のカーテンがサイドでまとめられている。そして正面から見た右側に立派な書斎机が置かれ、そこに1人の若い青年が座り、書類に目を通していた。
「アリオス様・・・シュバルツ伯爵家の御令嬢がご挨拶にいらっしゃいました。」
すると、青年は顔をこちらに向けた。
「中へ入ってくれ。」
ハスキーボイスでスカーレットたちに声をかける。
「は、はい・・。」
スカーレットはすっかり恐怖で委縮しながらも、ゆっくり部屋の中に足を踏み入れ・・これから新しく仕える事になる主人・・アリオスの正面に立った。アリオスは輝くような銀の髪に・・・まるで彫像のように彫りの深い、それは美しい顔立ちの青年だった。
「君が・・弟の家庭教師として雇われた・・御令嬢か?確か名前は・・・。」
「は、はい・・・。スカーレット・シュバルツと申します・・・。」
スカーレットは震える手でドレスを持ち上げ、頭を下げた。アリオスはその様子を見つめた後、次に視線をブリジットに移した。
「すると・・そちらの御婦人が・・?」
「はい、この度は御親切にも私をこの屋敷にお招き頂き、大変感謝をしております。私はスカーレット様の乳母をしておりましたブリジットと申します。これからどうぞよろしくお願い致します。」
そして深々と頭を下げた。しかし、一方のアリオスは2人に対して興味も無さげに視線も合わせずに言う。
「どうせ、そうそう顔を合わす事もないだろうし・・特に私の挨拶は不要だな。それでは着いた早々で悪いが、すぐに弟の元へ向かってくれ。セオドア、案内を頼む。」
「はい、では・・・御案内致します。スカーレット様、ブリジット様・・どうぞこちらへ。」
「はい、分りました。」
スカーレットは返事をするとチラリとアリオスを見た。するとアリオスはこちらを見もせずに、既に書類に目を通している。
その様子を見てスカーレットは思った。
(良かったわ・・こちらの方は・・・私に全く興味が無さげで・・・。どうか、このまま・・何事も無く、家庭教師の仕事を全う出来ますように・・・。)
そう、スカーレットは願うのだった―。
12
お気に入りに追加
714
あなたにおすすめの小説
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

【完結】熟成されて育ちきったお花畑に抗います。離婚?いえ、今回は国を潰してあげますわ
との
恋愛
2月のコンテストで沢山の応援をいただき、感謝です。
「王家の念願は今度こそ叶うのか!?」とまで言われるビルワーツ侯爵家令嬢との婚約ですが、毎回婚約破棄してきたのは王家から。
政より自分達の欲を優先して国を傾けて、その度に王命で『婚約』を申しつけてくる。その挙句、大勢の前で『婚約破棄だ!』と叫ぶ愚か者達にはもううんざり。
ビルワーツ侯爵家の資産を手に入れたい者達に翻弄されるのは、もうおしまいにいたしましょう。
地獄のような人生から巻き戻ったと気付き、新たなスタートを切ったエレーナは⋯⋯幸せを掴むために全ての力を振り絞ります。
全てを捨てるのか、それとも叩き壊すのか⋯⋯。
祖父、母、エレーナ⋯⋯三世代続いた王家とビルワーツ侯爵家の争いは、今回で終止符を打ってみせます。
ーーーーーー
ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。
完結迄予約投稿済。
R15は念の為・・
森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。
玖保ひかる
恋愛
[完結]
北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。
ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。
アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。
森に捨てられてしまったのだ。
南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。
苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。
※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。
※完結しました。

赤貧令嬢の借金返済契約
夏菜しの
恋愛
大病を患った父の治療費がかさみ膨れ上がる借金。
いよいよ返す見込みが無くなった頃。父より爵位と領地を返還すれば借金は国が肩代わりしてくれると聞かされる。
クリスタは病床の父に代わり爵位を返還する為に一人で王都へ向かった。
王宮の中で会ったのは見た目は良いけど傍若無人な大貴族シリル。
彼は令嬢の過激なアプローチに困っていると言い、クリスタに婚約者のフリをしてくれるように依頼してきた。
それを条件に父の医療費に加えて、借金を肩代わりしてくれると言われてクリスタはその契約を承諾する。
赤貧令嬢クリスタと大貴族シリルのお話です。

【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ
こな
恋愛
公爵家の令嬢として傲慢に育った十歳の少女、エマ・ルソーネは、ちょっとした事故により前世の記憶を思い出し、今世が乙女ゲームの世界であることに気付く。しかも自分は、魔女の血を引く最低最悪の悪役令嬢だった。
待っているのはオールデスエンド。回避すべく動くも、何故だが攻略対象たちとの接点は増えるばかりで、あれよあれよという間に物語の筋書き通り、魔法研究機関に入所することになってしまう。
ひたすら静かに過ごすことに努めるエマを、研究所に集った癖のある者たちの脅威が襲う。日々の苦悩に、エマの胃痛はとどまる所を知らない……

やさしい・悪役令嬢
きぬがやあきら
恋愛
「そのようなところに立っていると、ずぶ濡れになりますわよ」
と、親切に忠告してあげただけだった。
それなのに、ずぶ濡れになったマリアナに”嫌がらせを指示した張本人はオデットだ”と、誤解を受ける。
友人もなく、気の毒な転入生を気にかけただけなのに。
あろうことか、オデットの婚約者ルシアンにまで言いつけられる始末だ。
美貌に、教養、権力、果ては将来の王太子妃の座まで持ち、何不自由なく育った箱入り娘のオデットと、庶民上がりのたくましい子爵令嬢マリアナの、静かな戦いの火蓋が切って落とされた。
虐げられ令嬢の最後のチャンス〜今度こそ幸せになりたい
みおな
恋愛
何度生まれ変わっても、私の未来には死しかない。
死んで異世界転生したら、旦那に虐げられる侯爵夫人だった。
死んだ後、再び転生を果たしたら、今度は親に虐げられる伯爵令嬢だった。
三度目は、婚約者に婚約破棄された挙句に国外追放され夜盗に殺される公爵令嬢。
四度目は、聖女だと偽ったと冤罪をかけられ処刑される平民。
さすがにもう許せないと神様に猛抗議しました。
こんな結末しかない転生なら、もう転生しなくていいとまで言いました。
こんな転生なら、いっそ亀の方が何倍もいいくらいです。
私の怒りに、神様は言いました。
次こそは誰にも虐げられない未来を、とー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる