54 / 199
第1章 51 誤算
しおりを挟む
「おはようございます。アグネス様、エーリカ様。ご気分はいかがでしょうか?」
応接室に通された弁護士のジョン・カーターは恭しく挨拶をした。すると忌々し気にソファに座っていたアグネスは言う。
「全く厭味ったらしい弁護士ね。最悪な気分に決まっているでしょう?」
「そうよ!何で追い出したスカーレットよりもこの屋敷に取り残された私たちの方が惨めったらしい気持ちにならないといけないのよっ!」
エーリカの言葉に弁護士のジョンは反応した。
「え・・・?スカーレット様が出て行かれた・・?」
「ええ、そうよ。あの年老いた婆やと一緒にね。それにしても気に入らないわ。一体どこへ行くのかしら・・・。」
アグネスは悔しそ言うに爪を噛みながら言う。
「そうですか・・ついにこのお屋敷を飛び立ったのですね・・・。」
何処か満足そうに言う弁護士の姿にアグネスは不審なものを感じ取った。そこで弁護士に尋ねた。
「先生・・・貴方、何か知ってらっしゃるんじゃありませんか?」
「は?一体何のことです?」
「しらばっくれないでいただけます?!スカーレットの事よっ!」
ついに我慢できなくなったアグネスは目の前の真っ白な高級センターテーブルをこぶしでガンッと叩いた。
「ちょっと!テーブルが壊れたらどうするのよっ!」
エーリカが抗議する。
(随分苛立っておられるな・・・まぁ無理もあるまい・・。)
「さようでございますか・・ところでスカーレット様は何時頃にここを出立されたのですか?」
「朝の7時よ・・・。全くあんな朝早くから一体どこへ行ったのかしら・・。すでに荷物も新居先に送ったみたいだし・・互いにトランクケースを一つしか持っていなかったわ。」
アグネスはため息をつきながらソファの背もたれにドサリと寄り掛かった。
ジョンは暖炉の上に置かれた置時計にチラリと目をやると時刻はそろそろ12時になろうとしている。
(この時間なら・・・恐らくお2人は『ミュゼ』の町に着いたことだろう・・なら、そろそろ真実を伝えても良いだろう。もうどのみちこの2人はスカーレット様を追いかけることなど出来ないのだから・・。)
そこでジョンは口を開いた。
「よろしいでしょう。お2人に・・・スカーレット様とブリジットさんがどこへ行ったのか教えて差し上げましょう。スカーレット様たちは『ミュゼ』の町へ行ったのです。」
「まあっ!」
「『ミュゼ』ですって!」
アグネスとエーリカの顔つきが変わった。それもそのはず。『ミュゼ』と言えば、この国の王級がある首都である。そして数多くの名門貴族が名を連ねて住んでいる・・いわば貴族たちのあこがれの土地なのだ。
「な、な、何故スカーレットごときが『ミュゼ』にっ?!」
声を震わせてアグネスが追及した。
「はい、スカーレット様は名門貴族『チェスター』侯爵家の一番末にあたるご子息様の家庭教師として招かれたのです。」
「な・・・何ですってっ?!チェスター侯爵家すってっ?!」
エーリカが興奮気味に叫ぶ。それほど、チェスター家は名門中の名門貴族だったのだ。
「く・・・っ!」
アグネスは悔し気にこぶしを握り締め、身体を震わせている。
(完敗だわ・・・完全にこちらの・・・せっかくこのシュバルツ家を乗っ取ることに成功したと思っていたのに・・・!)
しかし、アグネスの悔しさを知りながら、ジョンは言う。
「アグネス様、まずはこの広大なお屋敷を管理するには新しく使用人を雇う必要があります。しかしながら・・・アグネス様とエーリカ様の評判があまりに悪く・・誰もこの屋敷で働いても良いと名乗りを上げる人々がいないのですよ。」
「な、何ですってっ?!」
アグネスは思わず立ち上がった。
「しかも、教育をしてくれる人物も1人もいない・・・相場の2倍、いや3倍の賃金を支払わない限りは・・・誰も働きに来てはくれないでしょうね・・。」
その言葉を聞いたアグネスは・・力なく椅子に崩れ落ちるのだった―。
応接室に通された弁護士のジョン・カーターは恭しく挨拶をした。すると忌々し気にソファに座っていたアグネスは言う。
「全く厭味ったらしい弁護士ね。最悪な気分に決まっているでしょう?」
「そうよ!何で追い出したスカーレットよりもこの屋敷に取り残された私たちの方が惨めったらしい気持ちにならないといけないのよっ!」
エーリカの言葉に弁護士のジョンは反応した。
「え・・・?スカーレット様が出て行かれた・・?」
「ええ、そうよ。あの年老いた婆やと一緒にね。それにしても気に入らないわ。一体どこへ行くのかしら・・・。」
アグネスは悔しそ言うに爪を噛みながら言う。
「そうですか・・ついにこのお屋敷を飛び立ったのですね・・・。」
何処か満足そうに言う弁護士の姿にアグネスは不審なものを感じ取った。そこで弁護士に尋ねた。
「先生・・・貴方、何か知ってらっしゃるんじゃありませんか?」
「は?一体何のことです?」
「しらばっくれないでいただけます?!スカーレットの事よっ!」
ついに我慢できなくなったアグネスは目の前の真っ白な高級センターテーブルをこぶしでガンッと叩いた。
「ちょっと!テーブルが壊れたらどうするのよっ!」
エーリカが抗議する。
(随分苛立っておられるな・・・まぁ無理もあるまい・・。)
「さようでございますか・・ところでスカーレット様は何時頃にここを出立されたのですか?」
「朝の7時よ・・・。全くあんな朝早くから一体どこへ行ったのかしら・・。すでに荷物も新居先に送ったみたいだし・・互いにトランクケースを一つしか持っていなかったわ。」
アグネスはため息をつきながらソファの背もたれにドサリと寄り掛かった。
ジョンは暖炉の上に置かれた置時計にチラリと目をやると時刻はそろそろ12時になろうとしている。
(この時間なら・・・恐らくお2人は『ミュゼ』の町に着いたことだろう・・なら、そろそろ真実を伝えても良いだろう。もうどのみちこの2人はスカーレット様を追いかけることなど出来ないのだから・・。)
そこでジョンは口を開いた。
「よろしいでしょう。お2人に・・・スカーレット様とブリジットさんがどこへ行ったのか教えて差し上げましょう。スカーレット様たちは『ミュゼ』の町へ行ったのです。」
「まあっ!」
「『ミュゼ』ですって!」
アグネスとエーリカの顔つきが変わった。それもそのはず。『ミュゼ』と言えば、この国の王級がある首都である。そして数多くの名門貴族が名を連ねて住んでいる・・いわば貴族たちのあこがれの土地なのだ。
「な、な、何故スカーレットごときが『ミュゼ』にっ?!」
声を震わせてアグネスが追及した。
「はい、スカーレット様は名門貴族『チェスター』侯爵家の一番末にあたるご子息様の家庭教師として招かれたのです。」
「な・・・何ですってっ?!チェスター侯爵家すってっ?!」
エーリカが興奮気味に叫ぶ。それほど、チェスター家は名門中の名門貴族だったのだ。
「く・・・っ!」
アグネスは悔し気にこぶしを握り締め、身体を震わせている。
(完敗だわ・・・完全にこちらの・・・せっかくこのシュバルツ家を乗っ取ることに成功したと思っていたのに・・・!)
しかし、アグネスの悔しさを知りながら、ジョンは言う。
「アグネス様、まずはこの広大なお屋敷を管理するには新しく使用人を雇う必要があります。しかしながら・・・アグネス様とエーリカ様の評判があまりに悪く・・誰もこの屋敷で働いても良いと名乗りを上げる人々がいないのですよ。」
「な、何ですってっ?!」
アグネスは思わず立ち上がった。
「しかも、教育をしてくれる人物も1人もいない・・・相場の2倍、いや3倍の賃金を支払わない限りは・・・誰も働きに来てはくれないでしょうね・・。」
その言葉を聞いたアグネスは・・力なく椅子に崩れ落ちるのだった―。
17
お気に入りに追加
714
あなたにおすすめの小説
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

【完結】熟成されて育ちきったお花畑に抗います。離婚?いえ、今回は国を潰してあげますわ
との
恋愛
2月のコンテストで沢山の応援をいただき、感謝です。
「王家の念願は今度こそ叶うのか!?」とまで言われるビルワーツ侯爵家令嬢との婚約ですが、毎回婚約破棄してきたのは王家から。
政より自分達の欲を優先して国を傾けて、その度に王命で『婚約』を申しつけてくる。その挙句、大勢の前で『婚約破棄だ!』と叫ぶ愚か者達にはもううんざり。
ビルワーツ侯爵家の資産を手に入れたい者達に翻弄されるのは、もうおしまいにいたしましょう。
地獄のような人生から巻き戻ったと気付き、新たなスタートを切ったエレーナは⋯⋯幸せを掴むために全ての力を振り絞ります。
全てを捨てるのか、それとも叩き壊すのか⋯⋯。
祖父、母、エレーナ⋯⋯三世代続いた王家とビルワーツ侯爵家の争いは、今回で終止符を打ってみせます。
ーーーーーー
ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。
完結迄予約投稿済。
R15は念の為・・
森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。
玖保ひかる
恋愛
[完結]
北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。
ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。
アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。
森に捨てられてしまったのだ。
南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。
苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。
※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。
※完結しました。

赤貧令嬢の借金返済契約
夏菜しの
恋愛
大病を患った父の治療費がかさみ膨れ上がる借金。
いよいよ返す見込みが無くなった頃。父より爵位と領地を返還すれば借金は国が肩代わりしてくれると聞かされる。
クリスタは病床の父に代わり爵位を返還する為に一人で王都へ向かった。
王宮の中で会ったのは見た目は良いけど傍若無人な大貴族シリル。
彼は令嬢の過激なアプローチに困っていると言い、クリスタに婚約者のフリをしてくれるように依頼してきた。
それを条件に父の医療費に加えて、借金を肩代わりしてくれると言われてクリスタはその契約を承諾する。
赤貧令嬢クリスタと大貴族シリルのお話です。

【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ
こな
恋愛
公爵家の令嬢として傲慢に育った十歳の少女、エマ・ルソーネは、ちょっとした事故により前世の記憶を思い出し、今世が乙女ゲームの世界であることに気付く。しかも自分は、魔女の血を引く最低最悪の悪役令嬢だった。
待っているのはオールデスエンド。回避すべく動くも、何故だが攻略対象たちとの接点は増えるばかりで、あれよあれよという間に物語の筋書き通り、魔法研究機関に入所することになってしまう。
ひたすら静かに過ごすことに努めるエマを、研究所に集った癖のある者たちの脅威が襲う。日々の苦悩に、エマの胃痛はとどまる所を知らない……

やさしい・悪役令嬢
きぬがやあきら
恋愛
「そのようなところに立っていると、ずぶ濡れになりますわよ」
と、親切に忠告してあげただけだった。
それなのに、ずぶ濡れになったマリアナに”嫌がらせを指示した張本人はオデットだ”と、誤解を受ける。
友人もなく、気の毒な転入生を気にかけただけなのに。
あろうことか、オデットの婚約者ルシアンにまで言いつけられる始末だ。
美貌に、教養、権力、果ては将来の王太子妃の座まで持ち、何不自由なく育った箱入り娘のオデットと、庶民上がりのたくましい子爵令嬢マリアナの、静かな戦いの火蓋が切って落とされた。
虐げられ令嬢の最後のチャンス〜今度こそ幸せになりたい
みおな
恋愛
何度生まれ変わっても、私の未来には死しかない。
死んで異世界転生したら、旦那に虐げられる侯爵夫人だった。
死んだ後、再び転生を果たしたら、今度は親に虐げられる伯爵令嬢だった。
三度目は、婚約者に婚約破棄された挙句に国外追放され夜盗に殺される公爵令嬢。
四度目は、聖女だと偽ったと冤罪をかけられ処刑される平民。
さすがにもう許せないと神様に猛抗議しました。
こんな結末しかない転生なら、もう転生しなくていいとまで言いました。
こんな転生なら、いっそ亀の方が何倍もいいくらいです。
私の怒りに、神様は言いました。
次こそは誰にも虐げられない未来を、とー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる