母と妹が出来て婚約者が義理の家族になった伯爵令嬢は・・

結城芙由奈@コミカライズ発売中

文字の大きさ
上 下
31 / 199

第1章 28 怒りの執事

しおりを挟む
14時―

「落ち着け、グスタフ。本当にこのまま屋敷を出て行くと言うのかっ?!」

アーベルは自室でトランクケースに次々と私物を詰め込んでいるグスタフを必死で止めようとしている。

「いや、俺はもう決めた。今日中にこの屋敷を出る。どうせお前達だってリヒャルト様の葬儀の後に全員解雇されてしまうのだろう?」

「そ、それはそうだが・・・こんな状態で屋敷を辞めたら一体シュバルツ家はどうなるか・・・。」

「だから、あの女が弁護士を雇ったのだろう?」

グスタフは顔も上げずに、次の荷造りを始めた。

「しかし・・・。」

尚も言いかけるアーベルにグスタフは言った。

「俺はヴィクトールの後を追う。」

「え・・?」

「彼は今リヒャルト様の死を疑い・・自分の目で確かめる為に『ベルンヘル』にいる。俺も彼の元へ向かい・・・調査を手伝うつもりだ。」

「グスタフ・・・そうだったのか・・・。」

「アーベル、お前はどうする?」

「俺は・・とりあえずギリギリまでこの屋敷で働く。スカーレット様の事が気がかりだからな・・・。」

「ああ・・・ブリジット様から聞いた。あの女は早速スカーレット様の元へ向かってリヒャルト様の葬儀が終わり次第、屋敷を出るように言ったそうだな・・・。気の毒なスカーレット様は泣きながらメイド達と荷造りをしているそうだ・・。」

グスタフは忌々しげに言う。

「くそ・・・っ!」

アーベルは拳を握りしめ、忌々し気に壁をドンと叩いた。

「俺は・・絶対にあきらめない。あの母娘が絶対にリヒャルト様に何かしたに決まっている。必ずあの母娘の悪事を白日の下にさらけ出し・・・裁きを受けさせてやる。例え・・・何年かかろうともな・・。」

グスタフは怒りに燃えた目で言うのだった―。



****

同時刻―

「スカーレットお嬢様・・・。おやめくださいっ!荷造りの準備など・・っ!」

ブリジットは必死に止めるが、スカーレットは力なく首を振る。

「駄目よ・・ブリジット。どのみち・・私はアンドレア様がエーリカと夫婦としてこの屋敷で暮らす様子を目の当たりにするなんて・・・そんな事耐えられそうにないわ。それならいっそ・・永遠にあの2人の目の届かない場所に消えてしまった方がよほどましよ・・・・。」

スカーレットは目に涙をたたえながら荷造りをやめようとはしない。そしてそれを手伝うメイド達の間にも悲しみが降りている。今この部屋には3人のメイド達がいるが・・彼女たちは全員解雇されてしまうのだ。ただ、おとなしくしていればアグネスが紹介状を書いてくれるとの事なので、このメイド達の方がスカーレットやブリジット達よりはまだましな状況と言えた。

「とりあえず・・・今日は荷造りをして・・明日から・・・何所へ行くか、どんな部屋を借りるか決めないといけないわ・・・。」


その時・・

コンコン

スカーレットの部屋のドアがノックされた。

「誰かしら・・こんな取り込み中に・・・。」

ブリジットは忌々しげに言うと立ち上がり、扉を開けた。

「ま・・・まあっ!あ、貴方は・・・っ!」

そこに立っていたのは今回アグネスの顧問弁護士になった人物であった。

「何をしにこちらにいらしたのですか?これ以上スカーレットお嬢様を追い詰めるのはおよしになって下さいっ!」

ブリジットは強気な態度で弁護士に言う。すると彼は突然頭を下げてきた。

「申し訳ございません・・・・私は所詮雇われ弁護士でしかありませんが・・・あまりの理不尽さに我慢できずに、こちらのお嬢様のお力になれないものかと思い、アグネス様の目を盗んで参りました。どうか・・お話だけでも聞いていただけないでしょうか・・?」

「はい・・・お話だけでも聞かせていただけますか・・?」

そこへスカーレットが弁護士の前に歩み寄って来た―。
しおりを挟む
感想 70

あなたにおすすめの小説

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

【完結】熟成されて育ちきったお花畑に抗います。離婚?いえ、今回は国を潰してあげますわ

との
恋愛
2月のコンテストで沢山の応援をいただき、感謝です。 「王家の念願は今度こそ叶うのか!?」とまで言われるビルワーツ侯爵家令嬢との婚約ですが、毎回婚約破棄してきたのは王家から。  政より自分達の欲を優先して国を傾けて、その度に王命で『婚約』を申しつけてくる。その挙句、大勢の前で『婚約破棄だ!』と叫ぶ愚か者達にはもううんざり。  ビルワーツ侯爵家の資産を手に入れたい者達に翻弄されるのは、もうおしまいにいたしましょう。  地獄のような人生から巻き戻ったと気付き、新たなスタートを切ったエレーナは⋯⋯幸せを掴むために全ての力を振り絞ります。  全てを捨てるのか、それとも叩き壊すのか⋯⋯。  祖父、母、エレーナ⋯⋯三世代続いた王家とビルワーツ侯爵家の争いは、今回で終止符を打ってみせます。 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結迄予約投稿済。 R15は念の為・・

森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。

玖保ひかる
恋愛
[完結] 北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。 ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。 アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。 森に捨てられてしまったのだ。 南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。 苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。 ※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。 ※完結しました。

赤貧令嬢の借金返済契約

夏菜しの
恋愛
 大病を患った父の治療費がかさみ膨れ上がる借金。  いよいよ返す見込みが無くなった頃。父より爵位と領地を返還すれば借金は国が肩代わりしてくれると聞かされる。  クリスタは病床の父に代わり爵位を返還する為に一人で王都へ向かった。  王宮の中で会ったのは見た目は良いけど傍若無人な大貴族シリル。  彼は令嬢の過激なアプローチに困っていると言い、クリスタに婚約者のフリをしてくれるように依頼してきた。  それを条件に父の医療費に加えて、借金を肩代わりしてくれると言われてクリスタはその契約を承諾する。  赤貧令嬢クリスタと大貴族シリルのお話です。

【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ

こな
恋愛
 公爵家の令嬢として傲慢に育った十歳の少女、エマ・ルソーネは、ちょっとした事故により前世の記憶を思い出し、今世が乙女ゲームの世界であることに気付く。しかも自分は、魔女の血を引く最低最悪の悪役令嬢だった。  待っているのはオールデスエンド。回避すべく動くも、何故だが攻略対象たちとの接点は増えるばかりで、あれよあれよという間に物語の筋書き通り、魔法研究機関に入所することになってしまう。  ひたすら静かに過ごすことに努めるエマを、研究所に集った癖のある者たちの脅威が襲う。日々の苦悩に、エマの胃痛はとどまる所を知らない……

やさしい・悪役令嬢

きぬがやあきら
恋愛
「そのようなところに立っていると、ずぶ濡れになりますわよ」 と、親切に忠告してあげただけだった。 それなのに、ずぶ濡れになったマリアナに”嫌がらせを指示した張本人はオデットだ”と、誤解を受ける。 友人もなく、気の毒な転入生を気にかけただけなのに。 あろうことか、オデットの婚約者ルシアンにまで言いつけられる始末だ。 美貌に、教養、権力、果ては将来の王太子妃の座まで持ち、何不自由なく育った箱入り娘のオデットと、庶民上がりのたくましい子爵令嬢マリアナの、静かな戦いの火蓋が切って落とされた。

虐げられ令嬢の最後のチャンス〜今度こそ幸せになりたい

みおな
恋愛
 何度生まれ変わっても、私の未来には死しかない。  死んで異世界転生したら、旦那に虐げられる侯爵夫人だった。  死んだ後、再び転生を果たしたら、今度は親に虐げられる伯爵令嬢だった。  三度目は、婚約者に婚約破棄された挙句に国外追放され夜盗に殺される公爵令嬢。  四度目は、聖女だと偽ったと冤罪をかけられ処刑される平民。  さすがにもう許せないと神様に猛抗議しました。  こんな結末しかない転生なら、もう転生しなくていいとまで言いました。  こんな転生なら、いっそ亀の方が何倍もいいくらいです。  私の怒りに、神様は言いました。 次こそは誰にも虐げられない未来を、とー

処理中です...