18 / 199
第1章 15 話術に長ける母娘
しおりを挟む
スカーレットに取って息の詰まるような朝食の時間が終わった。
アグネスとエーリカはスカーレットを朝食の席に呼んでおきながら徹底的に彼女の存在を無視し、ひたすらにアンドレアに質問をぶつけ続けた。趣味からどんな内容の読書をするのか・・挙句の果てには交友関係まで根掘り葉掘り尋ね、しまいにはスカーレット自身が知らないアンドレアの話まで聞きだしてしまったのだ。
初めはぶしつけに質問を続けて来るマゼンダ親子に辟易した様子のアンドレアであったが、この親子はなかなか話術に長けた人物でいつしかアンドレア自身はこの2人との会話を楽しんでいたのだった。そんな様子を見ながら1人蚊帳の外でポツンと食事を続けているスカーレットは惨めでたまらなかった。スカーレットは頭は非常に良い女性であったが、世間知らずな一面があり、男性を喜ばせるような会話を知らなかったのだ。
またアンドレアも今どきの青年としては珍しいぐらい無垢な青年で、スカーレットと自身の家族以外とは親しく話をすることが殆ど無かった。その為、自分でも知らず知らずのうちにこの親子を受け入れ始めていたのだった。
それらの様子をドア越しからブリジットはハラハラしながら見守っていた。
(やはり・・私の嫌な予感は当たってしまったのかもしれない・・。あの女は旦那様をそそのかして妻の座を射止めたのだから相当男性を引き付ける話術をもっていたに違いないわ。娘にしたって、そんな親を母に持って入れば自然に男性を喜ばせる会話が出来るのは当然の事・・・。)
このことをアーベルとグスタフに告げなければ・・・。
ブリジットは1人寂し気に食事をしているスカーレットの姿に後ろ髪を引かれる思いで、アーベルとグスタフの元へと向かった―。
「な、何ですって?アンドレア様が・・・あの親子に懐柔されているですって?!」
驚きの声を上げたのはアーベルだった。
「し、信じられん・・・・。あのアンドレア様が・・あんな毒婦と小悪魔に・・!」
グスタフは腕組みをしながらうなる。
「だから言ったではありませんか!リヒャルト様は・・・きっとあの母娘の口車に乗せられて結婚してしまったのですよ!こんな・・・こんな恐ろしいことは考えたくはありませんが・・・ひょっとしてリヒャルト様が姿を消したのは・・あの親子の仕業ではありませんかっ?!」
ブリジットのその言い方は・・・まるで、もうこの世にリヒャルトは存在していない事を揶揄しているように2人には聞こえてしまった。
「ブリジット様。お屋敷内ではそのような発言は軽々しく口にしてはなりません。」
グスタフはブリジットに言う。
「ですが・・・!」
「リヒャルト様は・・生きている。いえ、そうに決まっています!今我々に出来る事はあの親子にこの家を乗っ取られないように・・注意を払うしかありません。」
「・・・はい・・。」
アーベルの言葉にブリジットは頷くしか出来なかった―。
****
朝食後―
アンドレア、スカーレット、エーリカの3人はシュバルツ家が管理する湖のほとりにある美しい公園を散策していた。そしてアンドレアがエスコートしている女性はなんとエーリカであった。
2人は仲睦まじげに腕を組んで歩き、その後ろをスカーレットは寂し気に歩いていた。
何故こうなってしまったかと言うと・・・これもアグネスの仕業だった。
アグネスがエーリカはこの地に来たばかりでまだ不慣れなので、アンドレアに自分の娘をエスコートするように言ったのだ。そしてスカーレットにはお前は姉なのだから妹にアンドレアのエスコートを譲ってやれと命じたからであった。
(アンドレア様・・どうして・・・?)
スカーレットは胸の苦しみを押さえて2人の後をとぼとぼとついて歩いていた。
「大丈夫かい?スカーレット。」
アンドレアは時折心配そうにスカーレットを振り向いて尋ねてきた。
「え、ええ・・・大丈夫よ。」
するとエーリカが言った。
「あら?お義姉様・・具合が悪いのならお部屋に戻られたらいかがですか?公園の案内はアンドレア様だけで大丈夫ですから。」
「いいえ、歩けるから大丈夫よ。」
スカーレットは無理に微笑んだ。しかし、2人が腕を組んで歩く姿を見せつけられるのは胸がキリキリと痛んで息をするのも辛かった。
「でも・・・。」
アンドレアがスカーレットに近付こうとした時、エーリカは豊満な胸をわざとアンドレアの腕に押し付けて来た。
「!」
途端に真っ赤になるアンドレア。その表情をスカーレットは見逃さなかった。
(アンドレア様・・・ッ!何故そんな顔をされるのですか・・?!)
一方余裕の態度でスカーレットをチラリと一瞥したエーリカは猫なで声で言う。
「アンドレア様・・それでは次の場所を案内してください。」
「あ、ああ・・そうだね。では行こうか?」
2人は腕を組んで歩き去って行ってしまった。
スカーレットが足を止め、茫然とした姿で立ちすくんでいる事にも気づかずに―。
アグネスとエーリカはスカーレットを朝食の席に呼んでおきながら徹底的に彼女の存在を無視し、ひたすらにアンドレアに質問をぶつけ続けた。趣味からどんな内容の読書をするのか・・挙句の果てには交友関係まで根掘り葉掘り尋ね、しまいにはスカーレット自身が知らないアンドレアの話まで聞きだしてしまったのだ。
初めはぶしつけに質問を続けて来るマゼンダ親子に辟易した様子のアンドレアであったが、この親子はなかなか話術に長けた人物でいつしかアンドレア自身はこの2人との会話を楽しんでいたのだった。そんな様子を見ながら1人蚊帳の外でポツンと食事を続けているスカーレットは惨めでたまらなかった。スカーレットは頭は非常に良い女性であったが、世間知らずな一面があり、男性を喜ばせるような会話を知らなかったのだ。
またアンドレアも今どきの青年としては珍しいぐらい無垢な青年で、スカーレットと自身の家族以外とは親しく話をすることが殆ど無かった。その為、自分でも知らず知らずのうちにこの親子を受け入れ始めていたのだった。
それらの様子をドア越しからブリジットはハラハラしながら見守っていた。
(やはり・・私の嫌な予感は当たってしまったのかもしれない・・。あの女は旦那様をそそのかして妻の座を射止めたのだから相当男性を引き付ける話術をもっていたに違いないわ。娘にしたって、そんな親を母に持って入れば自然に男性を喜ばせる会話が出来るのは当然の事・・・。)
このことをアーベルとグスタフに告げなければ・・・。
ブリジットは1人寂し気に食事をしているスカーレットの姿に後ろ髪を引かれる思いで、アーベルとグスタフの元へと向かった―。
「な、何ですって?アンドレア様が・・・あの親子に懐柔されているですって?!」
驚きの声を上げたのはアーベルだった。
「し、信じられん・・・・。あのアンドレア様が・・あんな毒婦と小悪魔に・・!」
グスタフは腕組みをしながらうなる。
「だから言ったではありませんか!リヒャルト様は・・・きっとあの母娘の口車に乗せられて結婚してしまったのですよ!こんな・・・こんな恐ろしいことは考えたくはありませんが・・・ひょっとしてリヒャルト様が姿を消したのは・・あの親子の仕業ではありませんかっ?!」
ブリジットのその言い方は・・・まるで、もうこの世にリヒャルトは存在していない事を揶揄しているように2人には聞こえてしまった。
「ブリジット様。お屋敷内ではそのような発言は軽々しく口にしてはなりません。」
グスタフはブリジットに言う。
「ですが・・・!」
「リヒャルト様は・・生きている。いえ、そうに決まっています!今我々に出来る事はあの親子にこの家を乗っ取られないように・・注意を払うしかありません。」
「・・・はい・・。」
アーベルの言葉にブリジットは頷くしか出来なかった―。
****
朝食後―
アンドレア、スカーレット、エーリカの3人はシュバルツ家が管理する湖のほとりにある美しい公園を散策していた。そしてアンドレアがエスコートしている女性はなんとエーリカであった。
2人は仲睦まじげに腕を組んで歩き、その後ろをスカーレットは寂し気に歩いていた。
何故こうなってしまったかと言うと・・・これもアグネスの仕業だった。
アグネスがエーリカはこの地に来たばかりでまだ不慣れなので、アンドレアに自分の娘をエスコートするように言ったのだ。そしてスカーレットにはお前は姉なのだから妹にアンドレアのエスコートを譲ってやれと命じたからであった。
(アンドレア様・・どうして・・・?)
スカーレットは胸の苦しみを押さえて2人の後をとぼとぼとついて歩いていた。
「大丈夫かい?スカーレット。」
アンドレアは時折心配そうにスカーレットを振り向いて尋ねてきた。
「え、ええ・・・大丈夫よ。」
するとエーリカが言った。
「あら?お義姉様・・具合が悪いのならお部屋に戻られたらいかがですか?公園の案内はアンドレア様だけで大丈夫ですから。」
「いいえ、歩けるから大丈夫よ。」
スカーレットは無理に微笑んだ。しかし、2人が腕を組んで歩く姿を見せつけられるのは胸がキリキリと痛んで息をするのも辛かった。
「でも・・・。」
アンドレアがスカーレットに近付こうとした時、エーリカは豊満な胸をわざとアンドレアの腕に押し付けて来た。
「!」
途端に真っ赤になるアンドレア。その表情をスカーレットは見逃さなかった。
(アンドレア様・・・ッ!何故そんな顔をされるのですか・・?!)
一方余裕の態度でスカーレットをチラリと一瞥したエーリカは猫なで声で言う。
「アンドレア様・・それでは次の場所を案内してください。」
「あ、ああ・・そうだね。では行こうか?」
2人は腕を組んで歩き去って行ってしまった。
スカーレットが足を止め、茫然とした姿で立ちすくんでいる事にも気づかずに―。
1
お気に入りに追加
706
あなたにおすすめの小説
目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです
MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。
しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。
フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。
クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。
ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。
番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。
ご感想ありがとうございます!!
誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。
小説家になろう様に掲載済みです。
自分こそは妹だと言い張る、私の姉
神楽ゆきな
恋愛
地味で大人しいカトリーヌと、可愛らしく社交的なレイラは、見た目も性格も対照的な姉妹。
本当はレイラの方が姉なのだが、『妹の方が甘えられるから』という、どうでも良い理由で、幼い頃からレイラが妹を自称していたのである。
誰も否定しないせいで、いつしか、友人知人はもちろん、両親やカトリーヌ自身でさえも、レイラが妹だと思い込むようになっていた。
そんなある日のこと、『妹の方を花嫁として迎えたい』と、スチュアートから申し出を受ける。
しかしこの男、無愛想な乱暴者と評判が悪い。
レイラはもちろん
「こんな人のところにお嫁に行くのなんて、ごめんだわ!」
と駄々をこね、何年かぶりに
「だって本当の『妹』はカトリーヌのほうでしょう!
だったらカトリーヌがお嫁に行くべきだわ!」
と言い放ったのである。
スチュアートが求めているのは明らかに可愛いレイラの方だろう、とカトリーヌは思ったが、
「実は求婚してくれている男性がいるの。
私も結婚するつもりでいるのよ」
と泣き出すレイラを見て、自分が嫁に行くことを決意する。
しかし思った通り、スチュアートが求めていたのはレイラの方だったらしい。
カトリーヌを一目見るなり、みるみる険しい顔になり、思い切り壁を殴りつけたのである。
これではとても幸せな結婚など望めそうにない。
しかし、自分が行くと言ってしまった以上、もう実家には戻れない。
カトリーヌは底なし沼に沈んでいくような気分だったが、時が経つにつれ、少しずつスチュアートとの距離が縮まり始めて……?
断罪される令嬢は、悪魔の顔を持った天使だった
Blue
恋愛
王立学園で行われる学園舞踏会。そこで意気揚々と舞台に上がり、この国の王子が声を張り上げた。
「私はここで宣言する!アリアンナ・ヴォルテーラ公爵令嬢との婚約を、この場を持って破棄する!!」
シンと静まる会場。しかし次の瞬間、予期せぬ反応が返ってきた。
アリアンナの周辺の目線で話しは進みます。
侯爵家のお飾り妻をやめたら、王太子様からの溺愛が始まりました。
二位関りをん
恋愛
子爵令嬢メアリーが侯爵家当主ウィルソンに嫁いで、はや1年。その間挨拶くらいしか会話は無く、夜の営みも無かった。
そんな中ウィルソンから子供が出来たと語る男爵令嬢アンナを愛人として迎えたいと言われたメアリーはショックを受ける。しかもアンナはウィルソンにメアリーを陥れる嘘を付き、ウィルソンはそれを信じていたのだった。
ある日、色々あって職業案内所へ訪れたメアリーは秒速で王宮の女官に合格。結婚生活は1年を過ぎ、離婚成立の条件も整っていたため、メアリーは思い切ってウィルソンに離婚届をつきつけた。
そして王宮の女官になったメアリーは、王太子レアードからある提案を受けて……?
※世界観などゆるゆるです。温かい目で見てください
【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい
春風由実
恋愛
婚約者が不貞をしたあげく、婚約破棄だと言ってきた。
そんな私がどうして議会に呼び出され糾弾される側なのでしょうか?
婚約者が不貞をしたのは私のせいで、
婚約破棄を命じられたのも私のせいですって?
うふふ。面白いことを仰いますわね。
※最終話まで毎日一話更新予定です。→3/27完結しました。
※カクヨムにも投稿しています。
転生したら避けてきた攻略対象にすでにロックオンされていました
みなみ抄花
恋愛
睦見 香桜(むつみ かお)は今年で19歳。
日本で普通に生まれ日本で育った少し田舎の町の娘であったが、都内の大学に無事合格し春からは学生寮で新生活がスタートするはず、だった。
引越しの前日、生まれ育った町を離れることに、少し名残惜しさを感じた香桜は、子どもの頃によく遊んだ川まで一人で歩いていた。
そこで子犬が溺れているのが目に入り、助けるためいきなり川に飛び込んでしまう。
香桜は必死の力で子犬を岸にあげるも、そこで力尽きてしまい……
「優秀すぎて鼻につく」と婚約破棄された公爵令嬢は弟殿下に独占される
杓子ねこ
恋愛
公爵令嬢ソフィア・ファビアスは完璧な淑女だった。
婚約者のギルバートよりはるかに優秀なことを隠し、いずれ夫となり国王となるギルバートを立て、常に控えめにふるまっていた。
にもかかわらず、ある日、婚約破棄を宣言される。
「お前が陰で俺を嘲笑っているのはわかっている! お前のような偏屈な女は、婚約破棄だ!」
どうやらギルバートは男爵令嬢エミリーから真実の愛を吹き込まれたらしい。
事を荒立てまいとするソフィアの態度にギルバートは「申し開きもしない」とさらに激昂するが、そこへ第二王子のルイスが現れる。
「では、ソフィア嬢を俺にください」
ルイスはソフィアを抱きしめ、「やっと手に入れた、愛しい人」と囁き始め……?
※ヒーローがだいぶ暗躍します。
【完結】私がいる意味はあるのかな? ~三姉妹の中で本当にハズレなのは私~
紺青
恋愛
私、リリアンはスコールズ伯爵家の末っ子。美しく優秀な一番上の姉、優しくて賢い二番目の姉の次に生まれた。お姉さま二人はとっても優秀なのに、私はお母さまのお腹に賢さを置いて来てしまったのか、脳みそは空っぽだってお母様さまにいつも言われている。あなたの良さは可愛いその外見だけねって。
できる事とできない事の凸凹が大きい故に生きづらさを感じて、悩みながらも、無邪気に力強く成長していく少女の成長と恋の物語。
☆「私はいてもいなくても同じなのですね」のスピンオフ。ヒロインのマルティナの妹のリリアンのお話です。このお話だけでもわかるようになっています。
☆なろうに掲載している「私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~」の本編、番外編をもとに加筆、修正したものです。
☆一章にヒーローは登場しますが恋愛成分はゼロです。主に幼少期のリリアンの成長記。恋愛は二章からです。
※児童虐待表現(暴力、性的)がガッツリではないけど、ありますので苦手な方はお気をつけください。
※ざまぁ成分は少な目。因果応報程度です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる