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第1章 12 1日の始まり
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翌朝6時―
憂鬱な気分で目が覚めたスカーレットはけだるい身体をベッドから起こし、室内履きを履くとカーテンを開けた。
シャッ
途端に眩しい朝日が室内に差し込み、部屋の中を明るく照らした。
「素敵な朝ね・・・。」
スカーレットはポツリと呟き、バルコニーへと続く窓を開けて、ネグリジェ姿のまま外へ出た。
湖のほとりに立つシュバルツ家は屋敷の周辺には白樺の木々の美しい自然公園が広がっている。この公園はシュバルツ家の私有地であったが、時折観光目的で訪れる人々も多くいた。しかし、シュバルツ家はそんな人々を快く受け入れていたのだ。
3階のバルコニーから外を眺めていたスカーレットはポツリと呟いた。
「今朝は公園で朝食を食べたい気分だわ・・・。」
そして溜息を一つつき、部屋の中へ入ると着替えの準備を始めた。
スカーレットは自分専用のメイドを従えていなかった。彼女についているのはブリジットのみで、他の貴族令嬢達のように複数人のメイドを従え、身の回りの世話をさせる事はしていなかった。それは全てブリジットの教えによるものだった。貴族令嬢とはいえ、身の回りの事が何も出来ない女性になってはいけないと子供の頃から言われて育ってきた為である。子供の頃は何故自分にだけ専属メイドがいないのかと不思議に思っていたが、今となってはブリジットの教えに感謝している。
(やはり貴族令嬢だからと言って・・何もかも出来ない人間では困るものね・・。)
クローゼットへ行くと、扉を開けた。そこには5月の季節にはちょうど良い薄手の長袖のがズラリと並んでいる。
「今日はこれにしようかしら・・。」
薄緑色のプレーリードレスをクローゼットから取り出すと、スカーレットは手早く着替えを済ませた。スカーレットはまた他の貴族令嬢たちのように贅沢な娘では無かった。洋服も季節ごとにクローゼットに分けられ、そこに収められる分だけの洋服しか持つことはなかった。またその洋服もシンプルなもので貴族女性たちが好んで着るドレスではない。父からは自分たちの生活が成り立っているのは領民たちのお陰だから決して無駄遣いはしないように常に言い含められていたからである。それに1人で着る分にはシンプルなデザインの洋服の方がスカーレットには都合が良かったのだ。
足首までの長さのあるプレーリードレスを着たスカーレットは次にベッドの隣に置かれたドレッサーの前に座り、長い髪をブラシで丁寧にすき、両サイドの髪をいつも愛用しているバレッタで留めた。そして全身チェックしたところでノックの音が聞こえた。
「スカーレット様。もうお目覚めでしょうか?」
それはブリジットの声だった。
「ええ、起きているわ。今準備も終わったところよ。どうぞ、中に入って。」
スカーレットの言葉にドアがカチャリと開かれた。
「おはようございます、スカーレット様。」
ブリジットは丁寧に頭を下げて来た。
「ええ、おはよう。ブリジット。」
「実は・・・大変申し上げにくいのですが・・・マゼンダ親子が・・朝食を一緒に取るように命じられましたので・・・それを伝えに参りました・・。」
「え・・・?」
途端に曇るスカーレットの表情。
(いやだわ・・・あの方達・・・いくら私の家族になったとは言え・・何だか怖い・・。)
しかし、目の前に立つブリジットの困った顔を見るととても嫌だとは言えなかった。
(駄目だわ。きっと私が拒絶すれば・・・この屋敷で働く人たちが困った立場になるかもしれない・・・。)
頭の良いスカーレットはそのことに気付き、返事をした。
「分かったわ・・・。お母さまの言うとおりにします・・それで何時に何処へ行けばよいのかしら?」
「はい、では8時に・・ダイニングルームへいらして下さいね。私は少しやる事がありますのでお時間になりましたらお部屋にいらしてください。」
「ええ。分かったわ。」
「それでは失礼致します・・・。」
ブリジットは会釈をすると部屋を出て行った―。
憂鬱な気分で目が覚めたスカーレットはけだるい身体をベッドから起こし、室内履きを履くとカーテンを開けた。
シャッ
途端に眩しい朝日が室内に差し込み、部屋の中を明るく照らした。
「素敵な朝ね・・・。」
スカーレットはポツリと呟き、バルコニーへと続く窓を開けて、ネグリジェ姿のまま外へ出た。
湖のほとりに立つシュバルツ家は屋敷の周辺には白樺の木々の美しい自然公園が広がっている。この公園はシュバルツ家の私有地であったが、時折観光目的で訪れる人々も多くいた。しかし、シュバルツ家はそんな人々を快く受け入れていたのだ。
3階のバルコニーから外を眺めていたスカーレットはポツリと呟いた。
「今朝は公園で朝食を食べたい気分だわ・・・。」
そして溜息を一つつき、部屋の中へ入ると着替えの準備を始めた。
スカーレットは自分専用のメイドを従えていなかった。彼女についているのはブリジットのみで、他の貴族令嬢達のように複数人のメイドを従え、身の回りの世話をさせる事はしていなかった。それは全てブリジットの教えによるものだった。貴族令嬢とはいえ、身の回りの事が何も出来ない女性になってはいけないと子供の頃から言われて育ってきた為である。子供の頃は何故自分にだけ専属メイドがいないのかと不思議に思っていたが、今となってはブリジットの教えに感謝している。
(やはり貴族令嬢だからと言って・・何もかも出来ない人間では困るものね・・。)
クローゼットへ行くと、扉を開けた。そこには5月の季節にはちょうど良い薄手の長袖のがズラリと並んでいる。
「今日はこれにしようかしら・・。」
薄緑色のプレーリードレスをクローゼットから取り出すと、スカーレットは手早く着替えを済ませた。スカーレットはまた他の貴族令嬢たちのように贅沢な娘では無かった。洋服も季節ごとにクローゼットに分けられ、そこに収められる分だけの洋服しか持つことはなかった。またその洋服もシンプルなもので貴族女性たちが好んで着るドレスではない。父からは自分たちの生活が成り立っているのは領民たちのお陰だから決して無駄遣いはしないように常に言い含められていたからである。それに1人で着る分にはシンプルなデザインの洋服の方がスカーレットには都合が良かったのだ。
足首までの長さのあるプレーリードレスを着たスカーレットは次にベッドの隣に置かれたドレッサーの前に座り、長い髪をブラシで丁寧にすき、両サイドの髪をいつも愛用しているバレッタで留めた。そして全身チェックしたところでノックの音が聞こえた。
「スカーレット様。もうお目覚めでしょうか?」
それはブリジットの声だった。
「ええ、起きているわ。今準備も終わったところよ。どうぞ、中に入って。」
スカーレットの言葉にドアがカチャリと開かれた。
「おはようございます、スカーレット様。」
ブリジットは丁寧に頭を下げて来た。
「ええ、おはよう。ブリジット。」
「実は・・・大変申し上げにくいのですが・・・マゼンダ親子が・・朝食を一緒に取るように命じられましたので・・・それを伝えに参りました・・。」
「え・・・?」
途端に曇るスカーレットの表情。
(いやだわ・・・あの方達・・・いくら私の家族になったとは言え・・何だか怖い・・。)
しかし、目の前に立つブリジットの困った顔を見るととても嫌だとは言えなかった。
(駄目だわ。きっと私が拒絶すれば・・・この屋敷で働く人たちが困った立場になるかもしれない・・・。)
頭の良いスカーレットはそのことに気付き、返事をした。
「分かったわ・・・。お母さまの言うとおりにします・・それで何時に何処へ行けばよいのかしら?」
「はい、では8時に・・ダイニングルームへいらして下さいね。私は少しやる事がありますのでお時間になりましたらお部屋にいらしてください。」
「ええ。分かったわ。」
「それでは失礼致します・・・。」
ブリジットは会釈をすると部屋を出て行った―。
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