母と妹が出来て婚約者が義理の家族になった伯爵令嬢は・・

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序章 2 婚約者アンドレア

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 午後2時―

シュバルツ家の母屋にある厨房からクッキーの焼ける良い香りたが漂っている。
スカーレットはミトンをはめた手で釜の蓋を開けて鉄板を取り出した。そこにはきつね色の焼けたハーブクッキーが並んでいる。

「どうかしら・・?ジミー?」

スカーレットは幼馴染で、シュバルツ家で料理人として働いているジミーにクッキーの焼き具合を見せた。

「どれ・・ではスカーレット様。味見させて貰いますね」

するとスカーレットは言った。

「もう、ジミー。敬語は辞めてと言ったでしょう?私と貴方は幼馴染なんだから・・・。」

「で、ですが・・・。」

「ほら、又敬語使う。」

「わ・・分かったよ、スカーレット。まぁ・・・今はいいか。2人きりだしな?それじゃ味見させて貰うよ。」

ジミーはフランクな言葉遣いになるとクッキーを1枚つまんで口に入れた。

「・・・。」

「どう?ジミー。味は・・美味しいかしら?」

真剣な様子でジミーがクッキーを食べる様子を見守るスカーレット。ジミーは良く噛んで飲み込むと言った。

「うん。美味しいよ!売り物にしてもいいくらいだ。流石はスカーレットだね。君は色んな分野で才能がある。まさに自慢の幼馴染だよ。」

「本当?ありがとう。でもここまで上達できたのはジミーのお陰よ。感謝してるわ。」

そしてスカーレットは焼きあがったクッキーをバスケットに入れると、ジミーに笑みを浮かべると手を振って厨房を後にした。ジミーはスカーレットが出て行った出入口を見ながらポツリと呟いた。

「スカーレット・・・余程・・アンドレア様に会うのが・・楽しみなんだな・・。」

そして切ない恋心を隠したジミーは溜息をつくのだった―。



****

 午後4時―

 真っ白い壁が印象的なティールーム。白いテーブルクロスがかかった楕円形のテーブルを前にスカーレットは神妙な面持ちで自分の焼いたクッキーを食べるアンドレアをじっと見つめていた。

「・・・どうですか?アンドレア様・・。」

するとアンドレアは笑みを浮かべると言った。

「凄く美味しいよ、スカーレット。お土産に持ち帰りたいくらいだよ。本当にお菓子作りが上達したね?」

「そ、それは・・アンドレア様が甘いお菓子が好きだから・・作って差し上げたくて・・・。」

スカーレットは頬を赤く染めた。

「ありがとう、その気持ち・・とても嬉しいよ。」

言いながらアンドレアは愛しそうな目でスカーレットの頭を撫でた。

「フフ・・・。」

スカーレットはアンドレアに頭を撫でられるのが好きだった。アンドレアは栗毛色の柔らかい髪に鳶色の瞳の優しい顔立ちの青年であった。2人は19歳と21歳と共に成人年齢に達してはいたが、未だに清い関係であった。それはお互い子供の頃から良く知った仲であったのも2人が踏み込んだ仲になれない要因の一つであった。
しかしスカーレットの気持ちとしてはいずれは結婚するのだし、今の関係で満足していた。そして、アンドレアも同じ考えだと思っていたのだった。

「ところで、スカーレット。今日会って早々に大事な話があると言っていたけど・・どうしたんだい?」

「ええ・・それが・・お父様が再婚・・するそうなの。」

「え?!再婚?!それは随分唐突な話だね?」

アンドレアは紅茶を一口飲むと言った。

「ええ・・そうなの。それで来月帰国して・・この屋敷で挙式を挙げるそうなの・・・。再婚相手には私より2歳年下の女性がいるらしいわ。」

「そうか・・スカーレットのお父さんは19年間ずっと独身をとおして来たからね・・そろそろ結婚を考えたんだろう。新しく出来る家族と仲良くできるといいね?」

アンドレアの言葉にスカーレットも頷いた。

「ええ・・・そうね。アンドレア。」


しかし・・この結婚がスカーレットの人生が大きく狂ってしまうとは、この時の彼女は知る由も無かった―。
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