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第2章 10 父と娘の食卓

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「ロザリア・・・。」

私の向かい側の席に座る父がため息交じりに声を掛けてくる。

「何ですか?お父様。」

「今夜の食事は・・・随分質素だとは思わないかい?」

父が恨めしそうにテーブルの上のメニューを眺めながら言う。

「あら?そうでしょうか・・?私は少しも質素だとは思いませんけど?これはキャベツと鶏胸肉のトマト煮込み、こちらは焼きキノコのマリネ。そしてこちらは小エビのクリームチャウダーチャウダー。これほどまでに料理が並んでいるのにまだご不満でもあるのでしょうか?それとも味付けがお気に召しませんか?」

にっこり笑いながらも冷たい声で言う私に父は心なしか小刻みに震えているようにも見える。

「い、いや・・・と、とても美味しいよ・・た、ただ・・・ほら、あれだ。こう・・なんというかなあ・・お腹にガツンとたまるものが・・・足りないとは思わないかい?」

「そうですか・・例えば何でしょう?お話だけなら聞きますよ?」

私はフォークをカチャンと置くと改めて父を見る。

「そ、そうかい?それじゃあ・・・・ほら、あるだろう?小麦粉で作られた料理とか・・こう・・・何というか・・肉汁があふれてくるような・・・。」

「お父様。」

「は、はいっ!」

何故かピンと背筋を伸ばす父。

「最近・・・一段と・・・頭頂部が寒くなってきていませんか・・?」

「え・・?ああっ!!」

父は真っ青になってつるりと光る頭をぺたぺたと触る。

「脂っこい食べ物は毛穴を詰まらせて禿が進行するんですよ。そしてアルコールもです。」

「なっ?!」

父は手にしていた白ワインの入ったグラスを慌てて手放した。

「勿論禿げる原因はそれだけではありません。辛い料理ばかり食べていても禿げるし、毎晩テーブルに並んでいたあの大量の料理も当然です。ドカ食いはデブになるだけではなく禿げにもなる要因の一つなのです。」

「ロザリアや・・・。私の可愛いロザリアは一体どこへ行ってしまったのだい?何だか死にかけて目覚めてからは別人のようになってしまったじゃないか・・・。」

父はおろおろしながら言う。
いや・・・別人のように・・というか、私は完全に別人なんですけど。貴女の娘の身体に憑依した日本人女性ですよ。そして・・ロザリアを一刻も早く幸せにしてあげてさっさと元の世界に戻らせて貰いたいと願っている大人の女性なんですけど・・・。
だけど・・・あまりにもあれは駄目これも駄目と言ってると流石に気の毒かもしれないし・・・。

「分りました、それではお父様・・・まずお酒ですが白ワインはやめましょう。どうせ飲むなら赤ワインにして下さい。赤ワインは長寿遺伝子と呼ばれる『ポリフェノール』が多く含まれています。そして糖度も白よりは少なめです。今度からお召し上がりになる際は赤ワインにして下さい。しかも2杯までですからね?」

く~・・・っ!こっちだってお酒を飲みたくて我慢しているのに・・・。私って何て忍耐強いのだろう・・・。ああ・・でも私もお酒が飲みたいよ・・この世界にはノンアルコールの飲み物が無いのだろうか・・・あ、でもそれでも飲んだらまずいのか・・。

「はあ~・・・。」

思わず大きなため息をつくと父は言った。

「ところでロザリアや・・・。」

「はい、何でしょう?お父様。」

「この料理・・おかわりはあるのだろうか?」

「ありません。夜食も禁止ですからね?」

・・・ロザリアの父のダイエットは前途多難のようだった―。



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