86 / 95
第85話 罵る女
しおりを挟む
店に入って、すぐに後悔した。何故なら聞き覚えのある声が魔女を責めていたからだ。
「ちょっと! 一体どういうことなの!? 魔女! あんた……何かやったわね!?」
カレンの声だ! 咄嗟に柱の陰に隠れた。
「さぁ? 何のこと? 私にはさっぱり分からないけど」
「とぼけるんじゃないわよ! あんたの仕業じゃなければ、誰だって言うのよ!」
「キャアッ! な、何するのよ!」
魔女の切羽詰まった声が店内に響く。
彼女の中身はいくら大人だとしても、身体は子供。力でカレンに敵うはずはない。
私の妄想? の中で、魔女がカレンに腕を捻り上げられて、顔面をカウンターに押し付けられている光景が目に浮かぶ。
魔女は私の恩人……もう黙っていることは出来なかった。
「ちょっとカレン! 何をやっているの!」
柱の陰から飛び出し……私は一瞬固まった。
眼前には食べかけと思われるケーキの乗った皿を取り上げたカレンと、皿に手を伸ばしている魔女の姿があったからだ。
「え……?」
てっきり暴力行為を受けていると思ったのに、まさかカレンはケーキを取り上げただけだったの?
「ステラ!? 何でここに!?」
「あ! 丁度よい所へ来てくれたわね! この小娘から私のケーキを取り返してよ!」
カレンと魔女が同時に声をあげる。
「何だ……てっきり腕を捻り上げられて、カウンターにねじ伏せられていると思ったのに……ケーキを取り上げられただけだったのね」
安堵のため息をつくと二人から非難の声が上がる。
「ちょっと! 私はそこまで凶暴じゃないわよ!」
「ケーキを取り上げられたのだって一大事よ!」
私から見ればカレンは十分凶暴だし、たかがケーキを取られた位大した事ないと思うのだがここは黙っていることにした。
「フン……まぁいいわ。ステラがここに来たから、ケーキを返してやるわよ」
カレンはケーキの皿をカウンターに乗せ、不敵に笑うと一歩私に近づいた。
「ステラ、やっぱりあんたの仕業だったのね? あんたがこの魔女に頼んで私が周囲から嫌われるように何か小細工したわね? 正直に言いなさいよ! それにあんたが奪った私の男たちを返せ! このアバズレめ!」
もはや性格の悪さを隠そうともせずに、私を罵るカレン。
それに誰がアバズレだ? 私は前世でも、人の男に手など出したことはないのに。
「何故、カレンが周囲から嫌われてしまったのかなんて知らないわ。こっちが知りたいくらいよ。後、あなたの取り巻きたちを奪ってなんかいないわよ? もしそうだったら、今頃私は彼らにまとわりつかれていたんじゃないの?」
「うっ! そ、それは……」
言葉に詰まったのか、カレンは下唇を噛む。
「そうよ、そこの小娘。ステラはなーんにもしていないわ」
おやつのケーキを食べ終えたのか、魔女が口を挟んできた。
「何ですって!?」
カレンは魔女を睨みつけた。
「おお、怖い。魔女をそんな目で睨むなんて、いい度胸をしているわね。いい? あんたが周囲から嫌われたんじゃないの。元々あんたは嫌われていたでしょう? それで、私の所に来たんじゃないの。周囲から魅力的に感じられる存在になれるような薬はないかって。しかも自分の正体がバレるのが嫌だったか何だか知らないけど、変装した上に身元を偽って買いに来たわよね?」
「う……」
その言葉にカレンの顔色が青ざめる。
「それで、大金と引き換えにあんたに薬を渡したでしょう? それにしてもうまく化けたものねぇ? この魔女である私を騙したのだから。瞳の色も違うし、髪型だって全然違ったじゃないの? その声で思い出したわよ」
「う、うるさい! だっておかしいじゃない!! この世界のヒロインは私なのに、蔑ろにされるなんてありえないでしょう!!」
カレンはヒステリックに叫んだ――
「ちょっと! 一体どういうことなの!? 魔女! あんた……何かやったわね!?」
カレンの声だ! 咄嗟に柱の陰に隠れた。
「さぁ? 何のこと? 私にはさっぱり分からないけど」
「とぼけるんじゃないわよ! あんたの仕業じゃなければ、誰だって言うのよ!」
「キャアッ! な、何するのよ!」
魔女の切羽詰まった声が店内に響く。
彼女の中身はいくら大人だとしても、身体は子供。力でカレンに敵うはずはない。
私の妄想? の中で、魔女がカレンに腕を捻り上げられて、顔面をカウンターに押し付けられている光景が目に浮かぶ。
魔女は私の恩人……もう黙っていることは出来なかった。
「ちょっとカレン! 何をやっているの!」
柱の陰から飛び出し……私は一瞬固まった。
眼前には食べかけと思われるケーキの乗った皿を取り上げたカレンと、皿に手を伸ばしている魔女の姿があったからだ。
「え……?」
てっきり暴力行為を受けていると思ったのに、まさかカレンはケーキを取り上げただけだったの?
「ステラ!? 何でここに!?」
「あ! 丁度よい所へ来てくれたわね! この小娘から私のケーキを取り返してよ!」
カレンと魔女が同時に声をあげる。
「何だ……てっきり腕を捻り上げられて、カウンターにねじ伏せられていると思ったのに……ケーキを取り上げられただけだったのね」
安堵のため息をつくと二人から非難の声が上がる。
「ちょっと! 私はそこまで凶暴じゃないわよ!」
「ケーキを取り上げられたのだって一大事よ!」
私から見ればカレンは十分凶暴だし、たかがケーキを取られた位大した事ないと思うのだがここは黙っていることにした。
「フン……まぁいいわ。ステラがここに来たから、ケーキを返してやるわよ」
カレンはケーキの皿をカウンターに乗せ、不敵に笑うと一歩私に近づいた。
「ステラ、やっぱりあんたの仕業だったのね? あんたがこの魔女に頼んで私が周囲から嫌われるように何か小細工したわね? 正直に言いなさいよ! それにあんたが奪った私の男たちを返せ! このアバズレめ!」
もはや性格の悪さを隠そうともせずに、私を罵るカレン。
それに誰がアバズレだ? 私は前世でも、人の男に手など出したことはないのに。
「何故、カレンが周囲から嫌われてしまったのかなんて知らないわ。こっちが知りたいくらいよ。後、あなたの取り巻きたちを奪ってなんかいないわよ? もしそうだったら、今頃私は彼らにまとわりつかれていたんじゃないの?」
「うっ! そ、それは……」
言葉に詰まったのか、カレンは下唇を噛む。
「そうよ、そこの小娘。ステラはなーんにもしていないわ」
おやつのケーキを食べ終えたのか、魔女が口を挟んできた。
「何ですって!?」
カレンは魔女を睨みつけた。
「おお、怖い。魔女をそんな目で睨むなんて、いい度胸をしているわね。いい? あんたが周囲から嫌われたんじゃないの。元々あんたは嫌われていたでしょう? それで、私の所に来たんじゃないの。周囲から魅力的に感じられる存在になれるような薬はないかって。しかも自分の正体がバレるのが嫌だったか何だか知らないけど、変装した上に身元を偽って買いに来たわよね?」
「う……」
その言葉にカレンの顔色が青ざめる。
「それで、大金と引き換えにあんたに薬を渡したでしょう? それにしてもうまく化けたものねぇ? この魔女である私を騙したのだから。瞳の色も違うし、髪型だって全然違ったじゃないの? その声で思い出したわよ」
「う、うるさい! だっておかしいじゃない!! この世界のヒロインは私なのに、蔑ろにされるなんてありえないでしょう!!」
カレンはヒステリックに叫んだ――
446
お気に入りに追加
2,245
あなたにおすすめの小説

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―
望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」
【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。
そして、それに返したオリービアの一言は、
「あらあら、まぁ」
の六文字だった。
屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。
ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて……
※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら
みおな
恋愛
子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。
公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。
クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。
クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。
「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」
「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」
「ファンティーヌが」
「ファンティーヌが」
だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。
「私のことはお気になさらず」
「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?
白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。
「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」
精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。
それでも生きるしかないリリアは決心する。
誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう!
それなのに―……
「麗しき私の乙女よ」
すっごい美形…。えっ精霊王!?
どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!?
森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。

無能だとクビになったメイドですが、今は王宮で筆頭メイドをしています
如月ぐるぐる
恋愛
「お前の様な役立たずは首だ! さっさと出て行け!」
何年も仕えていた男爵家を追い出され、途方に暮れるシルヴィア。
しかし街の人々はシルビアを優しく受け入れ、宿屋で住み込みで働く事になる。
様々な理由により職を転々とするが、ある日、男爵家は爵位剥奪となり、近隣の子爵家の代理人が統治する事になる。
この地域に詳しく、元男爵家に仕えていた事もあり、代理人がシルヴィアに協力を求めて来たのだが……
男爵メイドから王宮筆頭メイドになるシルビアの物語が、今始まった。

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜
桐生桜月姫
恋愛
シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。
だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎
本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎
〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜
夕方6時に毎日予約更新です。
1話あたり超短いです。
毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。
【完結】「異世界に召喚されたら聖女を名乗る女に冤罪をかけられ森に捨てられました。特殊スキルで育てたリンゴを食べて生き抜きます」
まほりろ
恋愛
※小説家になろう「異世界転生ジャンル」日間ランキング9位!2022/09/05
仕事からの帰り道、近所に住むセレブ女子大生と一緒に異世界に召喚された。
私たちを呼び出したのは中世ヨーロッパ風の世界に住むイケメン王子。
王子は美人女子大生に夢中になり彼女を本物の聖女と認定した。
冴えない見た目の私は、故郷で女子大生を脅迫していた冤罪をかけられ追放されてしまう。
本物の聖女は私だったのに……。この国が困ったことになっても助けてあげないんだから。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※小説家になろう先行投稿。カクヨム、エブリスタにも投稿予定。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

【完結】断罪後の悪役令嬢は、精霊たちと生きていきます!
らんか
恋愛
あれ?
何で私が悪役令嬢に転生してるの?
えっ!
しかも、断罪後に思い出したって、私の人生、すでに終わってるじゃん!
国外追放かぁ。
娼館送りや、公開処刑とかじゃなくて良かったけど、これからどうしよう……。
そう思ってた私の前に精霊達が現れて……。
愛し子って、私が!?
普通はヒロインの役目じゃないの!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる