多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています

結城芙由奈@コミカライズ発売中

文字の大きさ
上 下
69 / 95

第68話 奪い合い?

しおりを挟む
「……なるほど、つまりステラがこの部屋で眠れば、また同じ場所に戻れるというわけだな?」

「ええ。そのとおりです」

「よし、分かった。なら早速寝てくれ。一刻も早くこの不快な場所から脱出しよう」

不快な場所……? その言葉にイラッとくる。

「エド、先程から随分失礼なことを言っているとは思いませんか? 仮にもこの部屋に私は2年住んでいたのですよ?」

「え!? 2年もこんな狭い場所で暮らしていたのか……ありえない。俺だったらきっと発狂していたに違いない」

「発狂? これはまた随分なことを言ってくれますね? でも……まぁ、仕方ないですね。仮にもエドは王子様なのですから、さぞかし広い部屋に住んでいるのでしょうね」

「まぁ、王子と言っても、6番目だけどな」

「とにかく、もう少しだけ我慢して下さい。これから食料調達をしなければいけないのですから」

私は早速食べ物が保管してあるキッチンへ向かった。

「食糧調達……? あ! まさか……」

エドがあとからついてきた。

「ええ。そうです。エドが今まで食べていた食糧は全て、この部屋から調達していました」

「そうだったのか! よし、俺も手伝う。根こそぎ食糧を持っていこう!」

ドサクサに紛れて、とんでもない台詞を口にするエド。

「根こそぎ!? 何言ってくれちゃってるんですか! 根こそぎなんて持っていかせまんせからね!」

「まぁまぁ、固いこと言うなって……あ! 何だこれ……美味しそうだなぁ」

エドが私の後ろから手を伸ばし、塩せんべいの袋を手に取った。

「あぁ! そ、それは私の一推しの塩せんべい……! 駄目です! これは私のです! 絶対に誰にもあげませんから!」

「いいじゃないか。今の口ぶりならステラは過去に食べたことがあるってことだろう? 俺は一度も食べたことが無いんだからさ。それに、今日元婚約者に復讐出来たのは……俺のおかげでもあるわけだろう?」

「うっ! そ、それは……」

確かにエドの助けが無ければ、私は魔女に会えなかったし、復讐も成し遂げられなかっただろう。

「分かりましたよ……いいですよ、どうぞ召し上がって下さい」

「そうか、ありがとう。それじゃ、とりあえずこの箱の中の物は全て持ち帰ろう。俺も手伝うよ」

「ええ、そうですね……荷造りしたら、とっとと元の世界に戻りましょう。こんな狭い部屋、いつまでもいたくないですよね?」

早く、元の世界に戻らなければ……隠していた他の菓子類まで見つけられてしまうかもしれない!

「まぁ、それはそうなんだが……しかし、見れば見るほど不思議な物がたくさんあるなぁ……」

エドは台所に置かれた冷蔵庫や、炊飯器を興味津々で眺めている。まぁ、確かにこれらの文明機器は、あの世界には無いものばかりなので無理もない話だろう。

エコバックに段ボールの中身を全て詰め込むと、エドに声をかけた。

「さ、では元の世界に戻りましょう。エド」

「そうだな。それで戻る方法は……?」

「勿論、また寝ることです!」

「そうか……やっぱりそうなるのか……」

こうして私達は狭いベッドの上に無理やり二人並んで寝ると、手をしっかり繋いだ。

「……結局、この方法しか戻る方法が無いのか……」

隣で横たわるエドが溜め息をつく。

「仕方ないじゃないですか。とにかく話しかけないでくださいね。眠れませんから」

「……こんな状況でよく眠れるよ……」

「……」

私は寝たフリをして返事をしなかった。

結局、今回もエドのほうが先に眠りについたのは……言うまでもない――
しおりを挟む
感想 89

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は処刑されないように家出しました。

克全
恋愛
「アルファポリス」と「小説家になろう」にも投稿しています。 サンディランズ公爵家令嬢ルシアは毎夜悪夢にうなされた。婚約者のダニエル王太子に裏切られて処刑される夢。実の兄ディビッドが聖女マルティナを愛するあまり、歓心を買うために自分を処刑する夢。兄の友人である次期左将軍マルティンや次期右将軍ディエゴまでが、聖女マルティナを巡って私を陥れて処刑する。どれほど努力し、どれほど正直に生き、どれほど関係を断とうとしても処刑されるのだ。

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜

桐生桜月姫
恋愛
 シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。  だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎  本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎ 〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜 夕方6時に毎日予約更新です。 1話あたり超短いです。 毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします

柚木ゆず
恋愛
 ※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。  我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。  けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。 「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」  そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。

見るに堪えない顔の存在しない王女として、家族に疎まれ続けていたのに私の幸せを願ってくれる人のおかげで、私は安心して笑顔になれます

珠宮さくら
恋愛
ローザンネ国の島国で生まれたアンネリース・ランメルス。彼女には、双子の片割れがいた。何もかも与えてもらえている片割れと何も与えられることのないアンネリース。 そんなアンネリースを育ててくれた乳母とその娘のおかげでローザンネ国で生きることができた。そうでなければ、彼女はとっくに死んでいた。 そんな時に別の国の王太子の婚約者として留学することになったのだが、その条件は仮面を付けた者だった。 ローザンネ国で仮面を付けた者は、見るに堪えない顔をしている証だが、他所の国では真逆に捉えられていた。

婚約破棄されたショックですっ転び記憶喪失になったので、第二の人生を歩みたいと思います

ととせ
恋愛
「本日この時をもってアリシア・レンホルムとの婚約を解消する」 公爵令嬢アリシアは反論する気力もなくその場を立ち去ろうとするが…見事にすっ転び、記憶喪失になってしまう。 本当に思い出せないのよね。貴方たち、誰ですか? 元婚約者の王子? 私、婚約してたんですか? 義理の妹に取られた? 別にいいです。知ったこっちゃないので。 不遇な立場も過去も忘れてしまったので、心機一転新しい人生を歩みます! この作品は小説家になろうでも掲載しています

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

婚約者の態度が悪いので婚約破棄を申し出たら、えらいことになりました

神村 月子
恋愛
 貴族令嬢アリスの婚約者は、毒舌家のラウル。  彼と会うたびに、冷たい言葉を投げつけられるし、自分よりも妹のソフィといるほうが楽しそうな様子を見て、アリスはとうとう心が折れてしまう。  「それならば、自分と妹が婚約者を変わればいいのよ」と思い付いたところから、えらいことになってしまうお話です。  登場人物たちの不可解な言動の裏に何があるのか、謎解き感覚でお付き合いください。   ※当作品は、「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています

処理中です...