多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています

結城芙由奈@コミカライズ発売中

文字の大きさ
上 下
13 / 95

第12話 緊張と不安

しおりを挟む
 翌朝――

ステラの大学内での立場が不明なまま、登校する時間になってしまった。

「ステラ、1週間ぶりの大学だからしっかり勉強してきなさい」

エントランスまで見送りに来てくれた母が私に笑顔で声をかける。

「アハハハ……そうですね」

それだけ答えるのがやっとだった。何しろ私は自分の通う大学名すら知らないのだ。
大学までは御者が馬車で送ってくれるものの……もはや不安しか無い。

胃痛が酷いが、もうこの身体で一生暮らしていかなければならないのだから試練だと思って頑張らなければ。

そのとき――

「ステラお嬢様! お待たせ致しました!」

料理長がバスケットを持って駆けつけてきた。

「あら、レイミー。どうしたの?」

母が料理長に声をかける。
レイミー……そうか、あの料理長はレイミーという名前だったのか。心に深くその名を刻みつける。
何しろ、これから彼には和食を伝授しなければならないのだから。

「昨日、命じられたお弁当を持ってまいりました! おにぎりに、卵焼き……それに、タコさんウィンナーです! どうぞ!」

興奮した様子で私にバスケットを押し付けてくる。

「あ、ありがとう……レイミー」

顔を引つらせながらお礼を述べる。確かにおかずの注文はしたけれども……タコさんウィンナーはほんの冗談のつもりだったのに、まさか真に受けるとは!

「オベントウ……? オニギリ? 一体何のことなの?」

何も知らない母は首を傾げる。けれど、今の私にはそれを説明する心の余裕は持ち合わせていない。

「そ、それでは大学へ行ってまいります!」

お弁当が入ったバスケットを携えて馬車に乗り込み、母とレイミーに手を振った――



****


「何も記憶が無いけれど……それでもステラと私の実年齢が近くて良かったわ」

私は23歳、そしてステラは20歳。
そして私は二流とはいえ、昨年までは大学生だったのだ。

「まぁ……なんとかなるでしょう……」

頑張れ、私。たった1年とはいえ、あのブラック企業でパワハラにモラハラを耐えて働いてきたのだから……。

「誰かしら、知り合いに会えば手助けしてくれるでしょう」

自分の中ではステラは悪役令嬢と決めつけているけれども、屋敷の外では別人かもしれない……と、思いたい。

「はぁ……帰りたい……」

大学に到着する前から、既に帰りたい気持ちでいっぱいだった――



****


「ステラお嬢様。大学に到着しました」

馬車が停車すると、御者によって扉が開かれた。

「あ、ありがとう……」

緊張しながら、馬車を降りる。

「では、いつもの場所でいつもの時間にお迎えにあがりますね」

「はい!? 何、いつもの場所と時間て! それじゃ分からないってば!」

緊張がマックスになっていた私は思わず大きな声を上げてしまった。

「ひぃ! も、申し訳ございません! 16時に……せ、正門の時計台の下で……お待ち下さい!」

「16時に正門の時計台下ね。よし、覚えたわ」

御者の言葉を復唱する。

「そ、それでは失礼致します!」

御者は馬車に乗り込むと、まるで逃げるように去って行った。

「ふぅ……ここが大学ね……」

立派な門構えの、まるで何処かのお城のように見える厳かな建物を私は見上げた。
そしてその横を次々と学生たちが通り過ぎていくも……誰一人、声をかけてくれる人はいない。

「やっぱり、ステラはボッチなのかな……?」

こちらは記憶が無いのでボッチでも全く構わないが、何処へ行けばよいかが全く分からない。

「はぁ……全く、どうしろって言うのよ……」

ため息をつきながら、ヨロヨロと大学の敷地内へ足を踏み入れた――
しおりを挟む
感想 89

あなたにおすすめの小説

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

お前など家族ではない!と叩き出されましたが、家族になってくれという奇特な騎士に拾われました

蒼衣翼
恋愛
アイメリアは今年十五歳になる少女だ。 家族に虐げられて召使いのように働かされて育ったアイメリアは、ある日突然、父親であった存在に「お前など家族ではない!」と追い出されてしまう。 アイメリアは養子であり、家族とは血の繋がりはなかったのだ。 閉じ込められたまま外を知らずに育ったアイメリアは窮地に陥るが、救ってくれた騎士の身の回りの世話をする仕事を得る。 養父母と義姉が自らの企みによって窮地に陥り、落ちぶれていく一方で、アイメリアはその秘められた才能を開花させ、救い主の騎士と心を通わせ、自らの居場所を作っていくのだった。 ※小説家になろうさま・カクヨムさまにも掲載しています。

【完結】「異世界に召喚されたら聖女を名乗る女に冤罪をかけられ森に捨てられました。特殊スキルで育てたリンゴを食べて生き抜きます」

まほりろ
恋愛
※小説家になろう「異世界転生ジャンル」日間ランキング9位!2022/09/05 仕事からの帰り道、近所に住むセレブ女子大生と一緒に異世界に召喚された。 私たちを呼び出したのは中世ヨーロッパ風の世界に住むイケメン王子。 王子は美人女子大生に夢中になり彼女を本物の聖女と認定した。 冴えない見た目の私は、故郷で女子大生を脅迫していた冤罪をかけられ追放されてしまう。 本物の聖女は私だったのに……。この国が困ったことになっても助けてあげないんだから。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※小説家になろう先行投稿。カクヨム、エブリスタにも投稿予定。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

悪役令嬢は処刑されないように家出しました。

克全
恋愛
「アルファポリス」と「小説家になろう」にも投稿しています。 サンディランズ公爵家令嬢ルシアは毎夜悪夢にうなされた。婚約者のダニエル王太子に裏切られて処刑される夢。実の兄ディビッドが聖女マルティナを愛するあまり、歓心を買うために自分を処刑する夢。兄の友人である次期左将軍マルティンや次期右将軍ディエゴまでが、聖女マルティナを巡って私を陥れて処刑する。どれほど努力し、どれほど正直に生き、どれほど関係を断とうとしても処刑されるのだ。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜

桐生桜月姫
恋愛
 シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。  だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎  本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎ 〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜 夕方6時に毎日予約更新です。 1話あたり超短いです。 毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

処理中です...