政略結婚した夫の愛人は私の専属メイドだったので離婚しようと思います

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3-12 夢ですよ?

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ガラガラガラガラ・・・・

 アレックス皇子に渡された本を読んでいると、車輪の音に混ざってアレックス皇子のうなる声が聞こえてきた。

「う~ん・・・・。」

そしてぱちりと目を開け、私と視線が合う。

「え・・?あ、お・お前っ!無事だったのかっ?!」

突然ガバリと座席から身体を起こし、アレックス皇子が目の前に座る私を見て焦ったように声を掛けてくる。

「無事・・?何の事ですか?」

アレの事を話されたら面倒だからここはシラを切り通そう。

「ああ!俺たちは突然森の中を走っていたら馬車が止められ、護衛の者たちが全員魔法で眠らされて・・。」

「それは夢ではありませんか?」

反論できないように素早く応える。

「へ・・夢・・?」

アレックス皇子はポカンとした顔で言う。

「ええ、とても良くお休みになっていましたからね。」

そして私はにっこり笑うと読み終えた本をパタンと閉じ、次の本へと手を伸ばした。

「そんな・・あれが夢だなんて・・それにしてもやけにリアルな・・・。」

顎に手をやり、いまだに信じられないかの様な口ぶりでぶつぶつ呟くアレックス皇子。一応眠っている者達全員にこれは夢だと思わせる為に暗示をかけたけれども・・。

「ええ、だってアレックス様は私にこれらの本を渡されてから『俺は寝る』と言って、それから今までず~っと眠ってらしたのですよ?」

「な・・何だって?今まで眠っていたのか?」

そして馬車の外の景色を眺めると言った。

「今までって・・もう夕方じゃないかっ!」

振り向くと私に喚く。

「・・・・。」

私は黙ってアレックス皇子を見た。確かに言われてみれば少し寝かせすぎたかもしれない。だって起きていられると色々何かと面倒だったから。それにしても・・少し調整を誤ってしまったかもしれない。ほんの少しアレックス皇子の体内時計をいじるつもりが山賊たちと対峙していたのでミスをしたようだ。私としたことが・・。
その証拠にアレックス皇子は私に文句を言ってくる。

「眠っていたと言っても・・いくら何でも寝かせ過ぎだとは思わないのか?俺たちが国を出たのはまだ朝だったんだぞ?それが・・昼を通り越して、いまはもう空がオレンジ色に染まっているじゃないかっ!夕方になっているぞ?」


「申し訳ございません。あまりにも気持ちよさげに眠っていられたので・・。」

私は上っ面だけの謝罪をした。

「そういう問題じゃないだろう?!俺は・・俺はなぁ・・・昼の食事を取っていないんだぞ?!おい、お前・・・昼は何を食べたんだ?」

「はい、お昼は旅の途中に立ち寄った『カタルパ』の村で<森の木こりの料理>を頂きました。」

応えながら私はお昼に護衛の人たちと食べた料理を思い出し・・幸せな気分に浸った。ああ・・・ウサギさんには悪いけどあそこのお店のウサギのお肉のシチュー・・とっても美味しかったなぁ・・。思わず恍惚な表情を顔に浮かべてしまった。

「くっそ~・・・・!あ、あの店の料理は・・ガイドブックのグルメのページを読み漁り・・念入りに下調べをしてあの店に決めたのに・・どうしても食べたかったのに・・お、お前は眠っている俺を馬車に残して1人で食事に行ったのか?!」

アレックス皇子はカンカンに怒り、私を指さしながら喚き散らす。

「いいえ?1人ではありません。護衛の人達と・・全員で食事に行きましたよ?」

「一々言葉尻を取るなっ!・・・て・・え・・?な、何・・?お、お前は全員引き連れて食事に行ったのか?この俺を・・こんな立派な馬車に乗った俺をたった1人きり残して?」

アレックス皇子は青ざめながら尋ねてきた。

「ええ、そうですけど?」

「お、お前なあ・・こんな馬車に乗っていたら、当然身分の高い人間が乗っていると思われるだろう?そこで眠っている人間がたったの1人きりだったら・・馬車ごと盗まれて、身ぐるみはがされて、人質として捕らえられて身代金を要求されかねなかっただろう?そうなったら・・・どうするつもりだったのだっ?!」

「いいじゃありませんか。無事だったのだから。」

それにしても・・・随分妄想癖の強い人だなぁ・・・別に何も無かったのだから結果オーライなのに。

「ちっともよくない!いいか?今度は必ず食事時間に眠っていたら起こすのだぞ?分かったなっ!」

「はい、分かりました。」

成程・・・食事時間以外の眠りは起こさなても良いと言う事なのか。私はそう理解した。
その時・・・・。

「アレックス皇子様、ガーナード王国が見えてまいりました。」

馬で馬車に並走していた護衛の兵士が声を掛けてきた。

「ああ、そうか・・・分かった。」

アレックス皇子は不機嫌そうに返事をすると兵士に話しかけた。

「おい、お前。」

「はい、何でございましょう?」

「食事は・・・美味かったか?」

「ヒッ!」

喉の奥から声を振り絞るような小さな悲鳴が兵士から上がった。

「あ・・は、はい・・・と・と・とても・・美味しく頂き・・・ました・・。」

気の毒な兵士は身体をガタガタ震わせながら返事をする。

「そうか・・俺は食べていない。良かったな?」

そしてニタリと笑う。

「ヒイイッ!」

縮みあがる兵士。その様子を見ながら私は思った。

あ~あ・・・。

それにしても・・器が小さい男だと―。
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