永遠の誓いを立てましょう、あなたへの想いを思い出すことは決してないと……

矢野りと

文字の大きさ
上 下
49 / 49

おまけの話【最年少の最上位魔術師】〜アティカ視点〜

しおりを挟む
『至急応援頼むわね、アティカ・リシーヴァ』


俺――アティカの左肩に降り立った紙魔鳥がそう鳴いた。

聞かなかったことにしてしまいたい。だが、ここは職場なので周囲には多くの同僚がいる。……なかったことには出来ない。
みなの視線が俺に注がれる。『ああ、またなのね……』という気の毒そうな眼差しを向けてくる。そんな目で見るのなら、誰か代わってくれと言いたい。


俺は一年前から正式な魔術師となり働き出した。
規定通りに一番下の十等級からスタートしたのだが、十一日後には最上位になっていた。
もちろん実力を評価されてなのだが、それはあまりに異例なことだった。なので、当初は酷い言葉も囁かれた。

『どうせ、親の七光りだろ? いいよな、最上位が親だとさ』
『それだけじゃないみたいよ、最年長の最上位から可愛がられているって。綺麗な顔と体を最大限に有効利用しているんじゃないかしら~』
『うわぁ、最悪だな。でも、女性で唯一一等級になった魔術師とも親密だって聞いたぞ。媚びるのがお得意なんだな』

下品な噂を流していたのは、俺のことを直接知らない人だった。こういう人達には丁寧に言葉を尽くして説明するよりも、行動で示したほうが通じる。

――だから、俺はそうした。

片っ端から困難な任務を単独で成功させ、魔術師は実力主義の世界なのだと再認識してもらったのだ。



それから、俺は十八歳の最年少最上位として上手くやっている。年上の同僚達から信頼され、居心地の良い職場なのは間違いない。

……だが、たまに私的な紙魔鳥によって、俺の平穏が少しばかり乱されるのだ。



「アティカ、ご愁傷様だな」
「そう思っているなら代わってください。レギオン」
「無理無理。だって俺、十等級だぜ。一等級のお願いに応えられるはずないって」

親友のレギオンはブンブンと首を横に振る。

彼と俺は同時期に配属された同僚だ。魔術師の養成機関は一つではないので幼い頃からの知り合いではないが、彼とはすぐに打ち解け、今では気の置けない仲になっている。



今日俺の左肩にとまって紙魔鳥は、一等級魔術師――ロザリー・シルエットが寄越したものだ。

彼女だけではなく長老も、こうして俺に気軽に頼み事をする。弱みを握られているわけではないけど断れない。

 はぁ……、お世話になってますからね。


俺も幼い頃から可愛がって貰っているが、それ以上に父がお世話になっていた。

最上位魔術師である父は独特な人だ。
ロザリーから見れば『変態で危険人物のくせに、私の親友と結婚して超ラッキーな奴』で、長老からは『可愛くない愛弟子じゃ!』と言われている。

そして、俺から見たら惜しみなく愛情を注ぐ人。
……そう、父は決してぶれない。家族だけが特別で、他はどうでもいいらしい。

そんな父を理解してくれている? のが、母の親友であるロザリーや長老だ。
息子としては彼らを無碍になど出来るはずがない。



紙魔鳥の足に結ばれていた詳細を伝える手紙を読んで、俺がため息をついていると、レギオンが横から覗き見してくる。

「なになに、アコンガリ国まで来てくれ。威厳ある魔術師設定だから、適当に従者も連れてこい? なんか、また面倒なことに巻き込まれそうだな。アティカ」

レギオンは他人事だと思って笑いながら、俺の肩を小突いてくる。

 ……よし、他人事ではなくしてあげよう。

「行きますよ、レギオン」
「便所なら一人で行けよ、アティカ」
「アコンガリです」
「はっ?! 俺が従者? いやいや、全力で断るからな! だって、俺、仕事があるし――」
「妹は自分の兄を助ける人をどう思いますかね?」
「ぜひやらせてください、未来のお兄様!」

俺には今年で十一歳になる妹がいる。
一応親友の名誉のために言っておくが、レギオンは決して幼女趣味の変態ではない。

妹は浮世離れした美しさを持っていて、そのうえ性格も良い。幼少期から今日まで婚約の申込みが途切れることはなく、王族から内々に打診されたこともあった。

 当然、父がその力を持って黙らせたのだが……。


――俺の自慢の妹。

レギオンはそれが分かっているから、妹の名を出すと俺に合わせて乗ってくれる。なんだかんだと言っても友思いのいい奴なのだ。


「じゃあ、行きましょう。レギオン」
「へいへい、分かったよ。だけど、その前に上に報告してからじゃないと」
「こちらから出向く必要はないと思いますよ、ほら、」

俺の視線の先にはこちらに向かって歩いてくる魔術師長の姿があった。
顔を顰めているから、『ちょっと若い最上位を借りるわね~』とかロザリーの紙魔鳥から伝えられているのだろう。

長老は兎も角として、ロザリーに手抜かりはない。

一等級によって『最上位が必要』と判断した事案。よほどのことがなければ尊重される。


魔術師長は俺達の前で足を止めると、俺の左肩にとまった紙魔鳥に目を向け、説明は必要ないと察する。

「最上位アティカ・リシーヴァ、十等級レギオン・キズス。両名にて一等級からの依頼を速やかに遂行せよ」
「「はっ、承知いたしました」」




◇ ◇ ◇


アコンガリ国は遠方にある歴史の長い国だ。近年まで鎖国を続けていたので、べールに包まれた部分が多く神秘の国と呼ばれている――若者が冒険するにはもってこいの国。

前途有望な二人の若き魔術師は、期待を胸に秘めて旅立ったのだった。





そんな彼らの活躍はまた違うお話で……。


しおりを挟む
感想 264

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(264件)

ちかこ
2024.10.25 ちかこ

途中で胸がグッとつまる、とても素敵なお話でした。
言葉の紡ぎ方も素敵で読みやすかったです。

2024.10.25 矢野りと

ちかこ様、感想有り難うございます♪

解除
アガ様
2024.09.07 アガ様

泣きました。素敵なお話でした。ザインさんみたいな一途な男性に憧れます。アティカ君はどんな男になり どんな女性と知り合っていくのか気になります。

2024.09.07 矢野りと

アガ様様、感想ありがとうございます♪

解除
はむ
2024.04.02 はむ

めちゃくちゃ良い話でした。

2024.04.02 矢野りと

はむ様、感想有り難うございます♪

解除

あなたにおすすめの小説

貴方を捨てるのにこれ以上の理由が必要ですか?

蓮実 アラタ
恋愛
「リズが俺の子を身ごもった」 ある日、夫であるレンヴォルトにそう告げられたリディス。 リズは彼女の一番の親友で、その親友と夫が関係を持っていたことも十分ショックだったが、レンヴォルトはさらに衝撃的な言葉を放つ。 「できれば子どもを産ませて、引き取りたい」 結婚して五年、二人の間に子どもは生まれておらず、伯爵家当主であるレンヴォルトにはいずれ後継者が必要だった。 愛していた相手から裏切り同然の仕打ちを受けたリディスはこの瞬間からレンヴォルトとの離縁を決意。 これからは自分の幸せのために生きると決意した。 そんなリディスの元に隣国からの使者が訪れる。 「迎えに来たよ、リディス」 交わされた幼い日の約束を果たしに来たという幼馴染のユルドは隣国で騎士になっていた。 裏切られ傷ついたリディスが幼馴染の騎士に溺愛されていくまでのお話。 ※完結まで書いた短編集消化のための投稿。 小説家になろう様にも掲載しています。アルファポリス先行。

寡黙な貴方は今も彼女を想う

MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。 ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。 シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。 言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。 ※設定はゆるいです。 ※溺愛タグ追加しました。

婚約者の心変わり? 〜愛する人ができて幸せになれると思っていました〜

冬野月子
恋愛
侯爵令嬢ルイーズは、婚約者であるジュノー大公国の太子アレクサンドが最近とある子爵令嬢と親しくしていることに悩んでいた。 そんなある時、ルイーズの乗った馬車が襲われてしまう。 死を覚悟した前に現れたのは婚約者とよく似た男で、彼に拐われたルイーズは……

君を愛す気はない?どうぞご自由に!あなたがいない場所へ行きます。

みみぢあん
恋愛
貧乏なタムワース男爵家令嬢のマリエルは、初恋の騎士セイン・ガルフェルト侯爵の部下、ギリス・モリダールと結婚し初夜を迎えようとするが… 夫ギリスの暴言に耐えられず、マリエルは神殿へ逃げこんだ。 マリエルは身分違いで告白をできなくても、セインを愛する自分が、他の男性と結婚するのは間違いだと、自立への道をあゆもうとする。 そんなマリエルをセインは心配し… マリエルは愛するセインの優しさに苦悩する。 ※ざまぁ系メインのお話ではありません、ご注意を😓

白い結婚がいたたまれないので離縁を申し出たのですが……。

蓮実 アラタ
恋愛
その日、ティアラは夫に告げた。 「旦那様、私と離縁してくださいませんか?」 王命により政略結婚をしたティアラとオルドフ。 形だけの夫婦となった二人は互いに交わることはなかった。 お飾りの妻でいることに疲れてしまったティアラは、この関係を終わらせることを決意し、夫に離縁を申し出た。 しかしオルドフは、それを絶対に了承しないと言い出して……。 純情拗らせ夫と比較的クール妻のすれ違い純愛物語……のはず。 ※小説家になろう様にも掲載しています。

愛のない貴方からの婚約破棄は受け入れますが、その不貞の代償は大きいですよ?

日々埋没。
恋愛
 公爵令嬢アズールサは隣国の男爵令嬢による嘘のイジメ被害告発のせいで、婚約者の王太子から婚約破棄を告げられる。 「どうぞご自由に。私なら傲慢な殿下にも王太子妃の地位にも未練はございませんので」  しかし愛のない政略結婚でこれまで冷遇されてきたアズールサは二つ返事で了承し、晴れて邪魔な婚約者を男爵令嬢に押し付けることに成功する。 「――ああそうそう、殿下が入れ込んでいるそちらの彼女って実は〇〇ですよ? まあ独り言ですが」  嘘つき男爵令嬢に騙された王太子は取り返しのつかない最期を迎えることになり……。    ※この作品は過去に公開したことのある作品に修正を加えたものです。  またこの作品とは別に、他サイトでも本作を元にしたリメイク作を別のペンネー厶で公開していますがそのことをあらかじめご了承ください。

(完結)その女は誰ですか?ーーあなたの婚約者はこの私ですが・・・・・・

青空一夏
恋愛
私はシーグ侯爵家のイルヤ。ビドは私の婚約者でとても真面目で純粋な人よ。でも、隣国に留学している彼に会いに行った私はそこで思いがけない光景に出くわす。 なんとそこには私を名乗る女がいたの。これってどういうこと? 婚約者の裏切りにざまぁします。コメディ風味。 ※この小説は独自の世界観で書いておりますので一切史実には基づきません。 ※ゆるふわ設定のご都合主義です。 ※元サヤはありません。

【完結】彼を幸せにする十の方法

玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。 フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。 婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。 しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。 婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。 婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。