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47.『あなたは特別です』②
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「このままで良いんじゃない? 変に訂正入れたら、上から伏せろと言われていることをバラすことに繋がるかもしれないでしょ」
「でも、ロザリーやザインの名誉が――」
「そんなもの、私もそこの男も気にしないわよ。ロザリー・シルエットの良さを再確認したあなたは私と仲直りした。それと、隠し子持ちの最低男は泣いて縋って、あなたによりを戻してもらった。どう? 完璧でしょ」
…………。
この状況を鑑みたら、とても有り難い申し出なのは間違いない。でも、完璧の方向がズレている。
「とりあえず、前半部分についてはありがとう」
「後半部分もそれでいいわよね、ザイン・リシーヴァ」
「……問題ありません」
ロザリーはこれで一件落着と満足げに笑っている。
ザインは自分が周りからどう見られるかなど気にしない人だ。だから、彼も本心からこれでいいと思っている。
でも、これではアティカが可哀想だ。
「私が継母になるのは構わないけど、きっとティカにあれこれ聞く人が出てくるわよね」
きっと今までも聞かれていただろう。そういうことから出来る限り守ってあげたい。
「アリスミは難しく考えすぎよ。きっと自然に解決するわ」
「どういうこと?」
「アリスミが王都に戻れば、あの子の実の母親が誰かみんな気づく。設定はどうあれね。そして、上が口を閉ざしていれば裏事情があると察する。馬鹿じゃなかったら誰も聞かない。上に逆らったら飛ばされるし」
ロザリーの話は無理があった。アティカが私に似ている点がなければ、その流れは成り立たないからだ。
残念だけど、私の知る限りない。
そう訴えると、ロザリーが気づいてないの? と笑う。
「あの子だけだと気づかないけど、二人で並んだらみんな分かるわ。ね、ザイン・リシーヴァ」
「……はい」
二人が認める共通点が分からない。私は首を傾げて答えを求めた。
「アティカは誰からも愛される子でしょ。それはね、母親から譲り受けたものよ。二人が一緒にいたら感じるわ。ああ、この二人は親子なんだなって、醸し出す雰囲気でね。隠そうとしても絶対にバレる」
ロザリーの言葉は思いがけないものだった。
あの子に関してはその通りで素直に頷ける。でも、私は違う。魔術師としての能力は並以下で、容姿も普通でしかない。
そう思っていると、ロザリーが呆れたようにため息をつく。
「まったく、この子ったら分かってないわね。記憶改竄の解術をした私は天才よ。でもね、この力を引き出したのはアリスミ、あなたなの。ニーダルであなたは歓迎されたでしょ? それもあなただから。アリスミは周りに恵まれているとよく言っていたけど違う。アリスミにみんな惹き寄せられるの。まあ、変な奴も惹き寄せちゃったけどね~」
ロザリーの視線の先にいたのはザインだった。
「あなたは特別です」
「変態のくせに良いこと言ったわね。アリスミ、大丈夫よ。案ずるより産むが易しっていうでしょ? もしアティカを傷つける馬鹿がいたら潰せばいいわ。そうでしょ、ザイン・リシーヴァ」
「……」
「なに? この流れで無視するの! 空気を読みなさいよ、変態魔術師!」
ロザリーの姿がぼやけて見える。嬉しくて涙が溢れているからだ。
自分が人を惹き寄せているとは思えないけど、こんな素敵な親友と夫がいるのは事実。
それってもの凄く幸せなことだよね。
私は涙を溢しながら、変態って言いすぎよと笑う。そんな私につられたのか、ロザリーもわんわんと声を上げて泣きながら笑っている。
でも、ザインのことを睨むのは忘れない。本当に器用だ。
どうするか決まった後は、二年間の空白を埋めるように、ロザリーと私で他愛もない会話を続けた。
整備された道に入り馬車の揺れが心地よいものに変わった頃、ロザリーの声がやんだ。トルタヤと一緒に枕投げに励んでいたと言っていたから、彼女も寝不足だったのだろう。
私は彼女の寝顔を見ながら心の中で話し掛ける。
ねえ、ロザリー。あなたも気づいていないことがあるのよ。
彼女の話の中にはトルタヤが何度も出てきて、その名を口にする声音は弾んでいるのだ。
恋に落ちていることに、まだ彼女は気づいていない。
いつ気づくかなと頬を緩ませていると、ザインが身を乗り出して私の耳元に顔を寄せてくる。
「私は、あなたの特別になれていますか?」
彼にとって特別とは、愛していますと同じこと。今更、そんなこと確認するまでもないでしょ?と思ったけれど、言葉を惜しむ理由もない。今、起きているのは私と彼だけなのだから。
「ザイン、あなたは私の特別です」
私が彼の言葉を借りて愛を告げると、愛しい人の唇がほんの少しだけ上がる。
……ザイン、笑ってるの?
いいえ、笑っているのだと、疑問形だった言葉を心の中で言い直す。
それは一般的な笑顔とはだいぶ違うけど、彼にとっては微笑みでしかない。
もっと見ていたいと願ったけれど、それは叶わなかった。お互いに顔を寄せて唇を重ねてしまったから。でもきっと、彼は今も笑っているはず。
正解のない選択を重ねてきた。
取り戻せない想いもある。
でも、この幸せに辿り着けた。
届かないだろうけど、想刻に心を蝕まれていた自分に伝えたい――『頑張って、あなたの選択は間違っていないから』と。
(完)
**********************
最後まで読んでいただき有り難うございました。
お気に入り登録や感想やエールに励まされ、こうして完結まで辿り着けました。
心より感謝申し上げますヽ(=´▽`=)ノ
「でも、ロザリーやザインの名誉が――」
「そんなもの、私もそこの男も気にしないわよ。ロザリー・シルエットの良さを再確認したあなたは私と仲直りした。それと、隠し子持ちの最低男は泣いて縋って、あなたによりを戻してもらった。どう? 完璧でしょ」
…………。
この状況を鑑みたら、とても有り難い申し出なのは間違いない。でも、完璧の方向がズレている。
「とりあえず、前半部分についてはありがとう」
「後半部分もそれでいいわよね、ザイン・リシーヴァ」
「……問題ありません」
ロザリーはこれで一件落着と満足げに笑っている。
ザインは自分が周りからどう見られるかなど気にしない人だ。だから、彼も本心からこれでいいと思っている。
でも、これではアティカが可哀想だ。
「私が継母になるのは構わないけど、きっとティカにあれこれ聞く人が出てくるわよね」
きっと今までも聞かれていただろう。そういうことから出来る限り守ってあげたい。
「アリスミは難しく考えすぎよ。きっと自然に解決するわ」
「どういうこと?」
「アリスミが王都に戻れば、あの子の実の母親が誰かみんな気づく。設定はどうあれね。そして、上が口を閉ざしていれば裏事情があると察する。馬鹿じゃなかったら誰も聞かない。上に逆らったら飛ばされるし」
ロザリーの話は無理があった。アティカが私に似ている点がなければ、その流れは成り立たないからだ。
残念だけど、私の知る限りない。
そう訴えると、ロザリーが気づいてないの? と笑う。
「あの子だけだと気づかないけど、二人で並んだらみんな分かるわ。ね、ザイン・リシーヴァ」
「……はい」
二人が認める共通点が分からない。私は首を傾げて答えを求めた。
「アティカは誰からも愛される子でしょ。それはね、母親から譲り受けたものよ。二人が一緒にいたら感じるわ。ああ、この二人は親子なんだなって、醸し出す雰囲気でね。隠そうとしても絶対にバレる」
ロザリーの言葉は思いがけないものだった。
あの子に関してはその通りで素直に頷ける。でも、私は違う。魔術師としての能力は並以下で、容姿も普通でしかない。
そう思っていると、ロザリーが呆れたようにため息をつく。
「まったく、この子ったら分かってないわね。記憶改竄の解術をした私は天才よ。でもね、この力を引き出したのはアリスミ、あなたなの。ニーダルであなたは歓迎されたでしょ? それもあなただから。アリスミは周りに恵まれているとよく言っていたけど違う。アリスミにみんな惹き寄せられるの。まあ、変な奴も惹き寄せちゃったけどね~」
ロザリーの視線の先にいたのはザインだった。
「あなたは特別です」
「変態のくせに良いこと言ったわね。アリスミ、大丈夫よ。案ずるより産むが易しっていうでしょ? もしアティカを傷つける馬鹿がいたら潰せばいいわ。そうでしょ、ザイン・リシーヴァ」
「……」
「なに? この流れで無視するの! 空気を読みなさいよ、変態魔術師!」
ロザリーの姿がぼやけて見える。嬉しくて涙が溢れているからだ。
自分が人を惹き寄せているとは思えないけど、こんな素敵な親友と夫がいるのは事実。
それってもの凄く幸せなことだよね。
私は涙を溢しながら、変態って言いすぎよと笑う。そんな私につられたのか、ロザリーもわんわんと声を上げて泣きながら笑っている。
でも、ザインのことを睨むのは忘れない。本当に器用だ。
どうするか決まった後は、二年間の空白を埋めるように、ロザリーと私で他愛もない会話を続けた。
整備された道に入り馬車の揺れが心地よいものに変わった頃、ロザリーの声がやんだ。トルタヤと一緒に枕投げに励んでいたと言っていたから、彼女も寝不足だったのだろう。
私は彼女の寝顔を見ながら心の中で話し掛ける。
ねえ、ロザリー。あなたも気づいていないことがあるのよ。
彼女の話の中にはトルタヤが何度も出てきて、その名を口にする声音は弾んでいるのだ。
恋に落ちていることに、まだ彼女は気づいていない。
いつ気づくかなと頬を緩ませていると、ザインが身を乗り出して私の耳元に顔を寄せてくる。
「私は、あなたの特別になれていますか?」
彼にとって特別とは、愛していますと同じこと。今更、そんなこと確認するまでもないでしょ?と思ったけれど、言葉を惜しむ理由もない。今、起きているのは私と彼だけなのだから。
「ザイン、あなたは私の特別です」
私が彼の言葉を借りて愛を告げると、愛しい人の唇がほんの少しだけ上がる。
……ザイン、笑ってるの?
いいえ、笑っているのだと、疑問形だった言葉を心の中で言い直す。
それは一般的な笑顔とはだいぶ違うけど、彼にとっては微笑みでしかない。
もっと見ていたいと願ったけれど、それは叶わなかった。お互いに顔を寄せて唇を重ねてしまったから。でもきっと、彼は今も笑っているはず。
正解のない選択を重ねてきた。
取り戻せない想いもある。
でも、この幸せに辿り着けた。
届かないだろうけど、想刻に心を蝕まれていた自分に伝えたい――『頑張って、あなたの選択は間違っていないから』と。
(完)
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