永遠の誓いを立てましょう、あなたへの想いを思い出すことは決してないと……

矢野りと

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46.『あなたは特別です』①

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かの地を旅立ってからまだ一時間も経っていない。けれども、私の膝に頭を乗せてアティカはすでに寝息を立てている。田舎の道は整備が行き届いていないので馬車の揺れが酷い。でも、アティカが起きる気配は全くない。


昨晩はアティカにとって初めてのお泊りだった。
馬車に乗るとすぐに、それがどんなに楽しかったのか教えてくれた。
長老の家には弟子との思い出の品がたくさん飾ってあったこと、ロザリーの手料理は不思議な味がしたこと、トルタヤは枕投げの名人だったことなど、それはもう嬉しそうに話していた。

そして、すべて伝え終わるとアティカはすぐに眠ってしまったのだ。夜遅くまではしゃいでいたようだから疲れたのだろう。




「アリスミ。本当にいいの? 後悔しない? 今ならまだこの男を捨てる選択もありよ!」

起きているのが大人だけになると、待ってましたとばかりにロザリーが喋り始める。


実は黒い紙魔鳥が伝えたのは、王都への帰還を促すだけではなかった。

――『二年前の真実はこのまま伏せておくものとする』とも言っていたのだ。

二年前の事故は、五等級の勇み足の結果とされていた。私の記憶改竄に合わせてという部分もあるが、公にしたら流れ者に情報を垂れ流すことになるからでもあった。

流れ者は死に、私の記憶も戻った。

しかし、公表された事実は変えないと上は決めた。

あの流れ者がやったことを誰もが真似できるわけではない。たぶん、現時点で出来るとしたらザインか長老くらいだ。けれども、公表すれば第二第三の流れ者を生み出すかもしれないと危惧したのだ。

王都の防衛に関することだから、その判断は正しいと思う。


だけど、それによって私の立ち位置をどうするかという問題が発生した。
あの事件に関係する事実は明かせなくなったからだ。

そもそも二年前のことが発端となり今がある。
ここだけ切り離せば話が通じるという単純な話ではないのだ。

今の私は親友に恋人を奪われ王都を追われた可哀想な七等級。そのうえ元恋人は隠し子までいる状況である。

さっきのロザリーの発言は、こんな複雑な状況にいる私を心配して――ではなく完全にザインが気に入らないからだろう。

 ……そんなに睨まないであげてね、ロザリー。

このままではザインの顔に穴が開くのではと、本気で心配になる。


「後悔しないわ、ロザリー」
「後になって悔やむのが後悔だから、今は分からないのよ」

ロザリーは真面目な顔でそう告げてくる。

では今私に聞いても無駄では? と思いながら聞き流す。今優先すべきはそこではなく、どう丸く収めるか考えることである。

新たに壮大な設定を持ち出すのはどうだろうか。いや、これ以上複雑にしたら状況が悪化するだけだ。
なるべく修正は最小限に留めたほうがいい。

「まず、ロザリーの名誉を回復しないといけないわね。あれはお芝居だったとみんなに伝えて。いいえ、それよりも実は結婚していて、子供もいてが先ね。……うーん。お芝居の理由はどうすればいいかしら……?」

みんなが納得する理由が思い浮かばない。
それにアティカは私の子だと言って、みんな信じるだろうか。
魔術師長が書類上は正しい形にしてくれるだろうけど、なんかそれ自体が後づけに思われそうだ。

 裏がないのに、勘繰られそうね……。

すやすや眠る我が子の寝顔に私の面影はない。

いっそのことザインが産んだと言ったほうが、信じてもらえそうである。と思いながら、アティカを挟んで隣に座るザインに目を向ける。

「無理です」

珍しく強い口調で即答してきた。……恐るべし以心伝心である。

私が頭を悩ませていると、ロザリーが口を開いた。
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