永遠の誓いを立てましょう、あなたへの想いを思い出すことは決してないと……

矢野りと

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42.信じて待つ

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目覚めた私は念のために、長老にも確認してもらうことになった。
その前に私はザインにみてもらっていた。だから、必要ないと言ったけれど、彼は頑として譲らなかった。

「……尊敬していませんが、使える人です」

ザインは私に向かってそう告げる。だが、すぐそばにいる使える人、もとい長老の耳に入らないはずもなく……。

「なにっ?! この馬鹿弟子、間違っておるぞ。それを言うなら、尊敬していませんが信頼に値する人ですじゃ!」
「……嘘はつきません」
「お父さん、偉いです」

どこをどう突っ込めばいいのだろうか。私は心の中で問いかける。

 長老様、それでいいのですか? 後半部分の台詞に気を取られて、尊敬されていない前提をご自分も容認していますけど……。


アティカにとどめを刺される形になった長老は、分かりやすくいじけている。ここは新米母としてあの子のフォローをしたほうがいいだろう。

「長老様、私は信頼していますよ」
「カロック、いや、弟子の嫁は見る目がある! アティカよ、父ではなく母を見習うんじゃ」

長老はケロッと元気になった。
実際はいろいろと考えている人だけど、表向きは単純に見せている。この軽さに周りは救われていたのだ。
予算使い切りだけではなく羊の件だって、落ち込んでいた私を気遣ってのことだったのだろう。
私は心の中でそっと頭を下げた。


長老はザインの求めに応じて私をみてくれた後、感嘆の声を上げる。

「驚くべきことじゃが、解術は完璧に終わっておる。記憶の混濁もないとは、まさに奇跡じゃ」

そう、これはあり得ないことだった。
今までも記憶改竄のすぐ後に綻びが出て、結果術式が上手くいかなかった前例はあったそうだ。
ただ、その場合も術式を紡ぐ前のまっさらな状態に戻らなかったらしい。
だから、長老は何らかの問題が私にも残るだろうと懸念していたという。

嬉しいことなのだが、手放しには喜べなかった。


――この奇跡を起こした術者は、まだ目覚めていない。

無意識で解術を行ったせいなのか、それとも魔力攻撃による損傷のせいなのか、それも分からないそうだ。

今の私達に出来ることは、奇跡を願ってただ待つだけだった。

 ……ロザリー、みんな待ってるから。寝過ぎちゃ駄目だよ。




ロザリーの容態に変化がないまま時間だけが過ぎていく。何も出来ない歯がゆさに誰もが苦しんでいた。
けれど、私達はなるべく暗い顔を見せないようにしていた――アティカのために。

あの子にはロザリーはもう少しで目覚めると、言って聞かせていた。大人達が不安を前面に出したら感じ取ってしまう。


アティカは私が目覚めてから、一時もそばから離れない。きっと私がまた元に戻ったらと心配で仕方がないのだ。

二年間は大人にとっても長い。子供にとっては永遠に等しかったのだろう。
あの子の心に刻まれた母の不在は一生消えない。

本当はザインに右手について尋ねたかった、ただの事故だと思えなかったから。でも、アティカが事故だと信じていたのでまだ聞けてない。


毎日アティカは私にいろいろなことを教えてくれる。小さい頃一緒にどんな歌を歌っていたか、どんなことをして叱られたか。
一生懸命に話すその姿に、自分は確かにこの子の母だったのだと胸が熱くなる。

「お母さんからお父さんにプロポーズしました。断られてもめげずに頑張ったそうです。えっと、押して駄目でも決して引かないことが大切だって、お母さんは教えてくれました。ね、お父さん」

ザインが頷いている横で、私は赤面しながら頬を引き攣らせる。

昔の自分に聞けるものなら聞きたい。どういう流れでそんな話になったのかと、どこまで話したのかも……。

アティカに話した記憶はもちろんないけれど、ザインに何度も求婚したことは事実である。しっかりと覚えている、というか頑張った自分を忘れられるはずがない。

『結婚してください、ザイン』
『………』

無言で断られた一回目。

『幸せにするから結婚してください』

首を横に振って断られた二回目。

『うんと頷くまで押し倒し続けるわよ、ザイン。それでいいの?』
『……困ります』
『結婚する?』
『……はい』

三回目にして彼は快く頷いてくれた。二人にとって一生忘れられない素敵な思い出となっている。


「お母さんの教えどおりにしたら、僕、魔力を制御できるようになったんです。ね、お父さん」
「頑張りやさんなところはアリスミ譲りです」
「ティカと似ているなんて嬉しいわ」
「はい、僕も嬉しいです! お母さん」

私は少しづつアティカの母になっていく。産んだ記憶はなくても、母になれる喜びを実感することは出来ていた。

私達はロザリーが目覚めるのを信じながら、こんなふうにロラックで過ごしていた。



そして、一週間が経ったある日のこと。
ロザリーの意識が戻ったという朗報が、夜明け前にもたらされる。

病人ではない私達は診療所の近くの宿に移っていた。伝えに来た人は詳しいことを把握していなかったので、彼女がどんな状態なのか分からない。しかし、アティカを一人で宿に残すことは出来ない。

私とザインは寝ぼけ眼のアティカを連れて、診療所へと急いで向かった。















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