永遠の誓いを立てましょう、あなたへの想いを思い出すことは決してないと……

矢野りと

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26.共通の敵……?

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一緒にベッドに入って本の読み聞かせをしていると、早々に隣から寝息が聞こえてくる。嬉しすぎて眠れないですと数分前に言っていた子は、もう夢の中にいた。

「アティカ?」

起きる気配がないのを確認してから、私はそっとベッドから抜け出す。一緒に寝るつもりだけど、まだ片付けが残っているからだ。


「あら、もう寝たの? 子供って馬鹿みたいに寝付きがいいのね」
「ええ」

台所兼居間ではロザリーがお酒を飲んでいた。この家には酒類はなかったから、持参していたものだろう。

今日の作業が終わると、私達はアティカ親子のために借りている家に帰った。アティカの前では旧友として振る舞っていたけれど、もう取り繕う必要はない。
素っ気ない返事を返した私は、流しに置いてあった食器がきれいに片付いているのに気づく。

「ありがとう、ロザリー」
「どういたしまして。はい、付き合ってよ」

お酒が注がれたグラスが差し出される。飲めないわけでないけれど、元親友と飲む気分ではない。
断って寝室に戻ろうとすると、ロザリーが指を三本立てる。

「いろいろと聞きたいことがあるんじゃない? 三つだけ答えてあげるわ」

彼女の前に座ると、視線でグラスを手に取るように促して来た。なので、形だけ手に持つ。

「再会に乾杯、アリスミ」
「どうしてここに来たの? ロザリー」
「もう質問? ふふ、夜は長いのだからゆっくりいきましょう」

ロザリーは何がおかしいのかケラケラと笑う。一人でかなり飲んでいたようだ。


彼女二等級の登場は、ニーダル支部にとってまさに天の恵みだった。

だが、直接依頼されてないのに来るのは、どう考えても不自然だ。魔術師は慈善事業ではない。それに、ロザリーは私がニーダルに配属されたのを知っている。普通は避けるだろう、私を。

親友だった頃ならこの行動を純粋な善意と思ったかもしれない。……でも、今は思えない。


「帰国途中に隣町の支部に立ち寄っていたら、ここの紙魔鳥が来たの。馬鹿ね、タダ働きしてくれと正直に言うなんて。誰も助けてくれないわよ~」

……そこは、海より深く反省している。

ばつが悪くなった私がお酒に口をつけると、ロザリーも杯を重ねる。

「むこうの支部の人に聞いたら、こちらは五等級と七等級しかいないと言うじゃない。きっと、正直者のアリスミは魔力放出で死ぬ一歩手前まで頑張るんだろうと思ったわけ。だから、あなたを助けるために来たのよ。ふふ、信じられないって顔をしてるわね、でも本当。あと質問は二つよ」

彼女は立てていた薬指を折りたたみ、残りは二本になる。

もし彼女が二年前の裏切りを後悔しているのなら、この行動も理解できる。けれども、ロザリーは罪悪感をまったく持ってない。
私は眉をひそめながら、二つ目の質問をする。

「では、なぜ私を助けようと思ったの? 」
「私、一番嫌いな人はと聞かれたら、ザイン・リシーヴァと即答するわ。あの男、隠し子のこと黙ったまま私と付き合い始めたのよ。信じられないわっ! アティカは可愛いけど、それとこれは別。おたまじゃくしは愛らしいけど、蛙は気持ち悪いでしょ?」

だいぶ酔っているのだろう、変な例えまで持ち出してくる。とりあえず聞くことに徹する。

「つまり、私達にとってあの男は共通の敵よ。打倒、最低男! ねっ、アリスミ」
「……」

なんとなく言いたいことは分かった。共通の敵がいると、仲間意識が芽生えることもある。でも、勝手にあの過去を水に流さないで欲しい。それを決めるのは被害者である。

 ……そして、私は流しません! 


ロザリーは『仲間、仲間~』と歌いながら一気にお酒を呷っている。気づけば、指は一本だけになっていた。

「聞きたいことは、なんれすかー?」

瓶がまるまる一本空になっている。私はまだ一杯しか飲んでいないから、あとは全部彼女が飲んだということだ。明らかに飲み過ぎである。
今、聞いてもまともな答えは期待できそうもない。

「あと一つ聞いてくらさーい」
「はいはい、あとでね」
「了解でーす。二等級ロザリー・シルエット、絶対にお約束は守ります、ですよ」

酔っ払いはそのままソファで寝てしまった。


 共通の敵ね……。

ずいぶんと都合のいい言い分に苦笑いする。

裏切りの前に築いた友情に一点の曇りもないから、彼女は私の前に現れたのだと思う。
彼女にとって私との過去――親友同士――は嘘ではなかった。


でも、私の中にあるわだかまりが消えることはない。


過去のすべてを否定したザイン元恋人と、過去は真実だったロザリー元親友
前者と比べることで後者はましに思えてしまうから、錯覚とは恐ろしい。


――二日間だけの親友ごっこ。

思っていたよりも自然に振る舞えそうだと思う私は、やはり甘いだろうか。

 甘すぎよ! アリスミ・カロック 

愚かな自分につっこみを入れたあと、長い溜息をつく。兎に角乗り切るしかないのだ。
ソファに横たわる酔っ払いに毛布を掛けてから、私は可愛い弟子の隣で眠りについたのだった。
 

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