永遠の誓いを立てましょう、あなたへの想いを思い出すことは決してないと……

矢野りと

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24.元親友の提案

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「ロザリーおばさん、ご無沙汰してます」
「相変わらず可愛くない喋り方ね。顔だけじゃなく、そんなところも父親にそっくり。子供はもっと子供らしくしなさい。そして、よ!」

ロザリーは憎まれ口を叩きながら、アティカに頬ずりしている。二人はいったいどこで接点があったのだろうか。
順当に考えれば、ザインが二人を取り持ったのだろうけど……。なんかしっくりこない。

トルタヤはロザリー達を横目で見ながら、私に小さな声で尋ねてくる。

「あの人、アリスミの知り合いなんだよな。もしかしてザインさんの今の恋人なのか? アティカのこと、あんなに可愛がっているし」

 ……うーん、惜しい。正解は元恋人です。

「私の元同僚だけど、彼女が誰と付き合っているかは知らないわ」
「あっちはずいぶんと親しげに話し掛けてきたけど、仲良かったの?」
「どうだったかな……。最近忘れっぽくてね、あっは…は」

ロザリーがどう出るか分からないし、アティカにとって彼女がどんな存在か知らないので言葉を濁した。

個人的な事情でこの場が気まずくなったら作業に支障が出るかもしれない。連帯責任という言葉が頭をよぎる。

 ……うん、二日間くらい耐えよう。

とりあえず元同僚という態度でいこうと思っていると、ロザリーがアティカを離して立ち上がる。

「アリスミは全然変わってないわね」

親しげな口調で話し掛けてきたロザリー。次の瞬間、私に抱きついてきた。

「親友の再会という設定でいきましょう。子供に大人のドロドロは見せたくないもの。あなたの隣にいる好青年ともギクシャクしたくないし。そうそう、アティカとはあの男と付き合っている頃に会ったのよ。別れた後も、優しいお姉さんでいてあげてるの、子供には大人の事情なんて関係ないからね。そういうことで、二日間よろしくね。アリスミ」

耳元で囁くようにそう告げると、名残惜しげに再会の抱擁を解く。こんなに演技が上手だとは知らなかった。

 くぅっ……、腹が立つな。

なにもかもぶちまけたい衝動に駆られる。
でも、アティカのことを考えたら、彼女の提案は間違っていなかった。

可愛い弟子のため、ついでに連帯責任回避のためと、心のなかで唱えながら深く息を吸う。

「ロザリーも変わってないわね、昔のままだわ」

私は作り笑いを顔に貼り付けて、了承したことを伝える。


「私とアリスミは親友なの。そして、アティカの父親とは仕事仲間よ。だから、おばさんなんて呼ばれているの。よろしくね、えっと、」
「トルタヤ・ルガンです。トルタヤと呼んでください。でも、さっきアリスミに聞いたら――」
「彼女ったらとぼけていたんでしょ? ふふ、忘れたふりをして私をびっくりさせようとしたみたい。そういうところも可愛いのよね、私の親友は」
「はっはは、そうだったんですね」

ロザリーは上手く話の辻褄を合わせながら、トルタヤとの会話を弾ませていく。相変わらず周りにいる人を自然と引き寄せる。

なにもかも昔と変わっていない――私の元親友。

昔は彼女のことを分かった気でいた。でも今は、変わっていないからこそ分からない。

設定を忠実に守りながら喋っているロザリーを目に映していると、いきなり話を振られる。

「アリスミ、ロザリーさんを泊めてもいいよな? 積もる話も出来るだろ」

トルタヤは男だし、宿はないし、空き家を借りるにしても急すぎる。現実的に考えたら、私のところに泊まるという選択肢しかない。
でも、一つだけ問題があった。
私が借りている部屋は狭いので、アティカを預かるにあたって、私が貸家に泊まることになっていたのだ。私はしゃがんでアティカと目線の高さを合わせる。

「お家にロザリーも泊まってもいい? アティカ」
「いいですけど……。お師匠さまと一緒に寝るのは僕だけって約束してくれますか?」

可愛いお願いに目を細めて頷けば、『それならいいです!』と元気な返事が返ってくる。


泊まる場所も決まったところで、私達は仕事の話に戻る。

この場で一番等級の高いロザリーの指示のもと、作業分担の見直しをすると、三人で力を合わせれば期日までに終わる目処が立つ。
ほっとしていると、小さな手が私の腕を引っ張っる。

「お師匠さま、お話があります」

どうやら一緒について来て欲しいようだ。引かれるまま歩いていくと、アティカは少し離れたところで立ち止まり、しゃがんでくださいとお願いしてきた。

――その顔はどこか不安そうだった。
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