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20.王都からの招集
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五日目の朝。
長老にザイン達が作業の進み具合を報告していると、ニーダル支部の建物に黒い紙魔鳥が飛び込んできた。
『最上位魔術師トルタヤ・ルガン、同じくザイン・リシーヴァ。両名は三日以内に王都に馳せ参ぜよ』
けたたましい鳴き声が部屋に響き渡る。
こういう通達自体はそんなに珍しくもない。
なんらかの異変を王都周辺で感知したら、一定数の高位魔術師を招集する決まりになっているからだ。
実際に大事だったことは一度もないのにこのやり方を変えないのは、有事の際に対応できるようにと訓練も兼ねているらしい。
「おいおい、嘘だろ……。爺様って本当に最上位だったのか?!」
「……信じられないけど、そうみたいね」
ここにいるトルタヤ・ルガンは二人だけ。
今発言したトルタヤは五等級なので、最上位はもう一人のほう――長老だ。
私達はともに、最上位がこれとは信じたくない! という顔をしている。
この場合のこれとは、仕事をさぼっている人または予算を使い切ってしまった人という意味だ。
「長老様って、実はすごい人だったんですね! 僕、ぜんぜん気づきませんでした。能ある鷹は爪を隠すですね」
「その通り、儂は立派な人なんじゃ。そして、アティカよ。遠慮せずにもっと褒めるが良い♪」
「はい! 長老様、かっこいいです」
アティカは拍手をしながら、尊敬の眼差しを長老に注いでいる。
同じ驚きでも私達のものとはぜんぜん違う。どちらの反応が正しいかは置いておくとして、大変素直で良い子である。
「ん? それなら、師匠ってのも爺様の妄想じゃなかったのか?」
「妄想とは失礼な奴じゃな。何度も言っておるじゃろうが。儂はザインの師匠じゃ」
となると、昨日ザインは嘘をついたことになる。そこまでして師弟関係を隠さなくてはいけない理由とはなんだろうか。
もしかしたら、アティカに聞かせたくない話なのかもしれないと尋ねるのを躊躇する。すると、アティカが浮かない表情をして、ザインの袖を引っ張っている。
「長老様が、お父さんのお師匠さまなんですか?」
「はい」
「昨日はなんで嘘をついたんですか? お父さん」
「ついてません、ティカ」
ザインはアティカの目を真っ直ぐに見て答えている。嘘を言っているようには見えない。
師匠だけど、師匠じゃないってどういうこと??
ますます混乱していると、トルタヤが『あっ、分かった!』と叫んだ。
「昨日、俺は尊敬しているかと聞いた。そして、ザインさんはそれを否定した。よくよく考えたら、師匠と弟子の関係を否定はしていなかったんだ」
「やっぱり、僕のお父さんは嘘つきじゃなかったんですね!」
「そうだ、アティカ。俺の聞き方が悪かった。お前の父親は正直者だ」
ザインの言葉が圧倒的に足りなかったのが誤解の主な原因だが、彼に悪気はなかったのだろう。
もともとそういう人なのだ。
とりあえず一件落着と私とアティカとトルタヤが笑っていると、ただ一人納得できないと駄々を捏ね始めた。
それは、尊敬されない師匠もとい長老である。
「尊敬してないじゃと?! なぜじゃ、なぜなんじゃー。この不肖の弟子めっ。人参が食べられないくせに、紙魔鳥を悪用している変態のくせに、生意気じゃぞ。こうなったら、お前が墓場まで持っていこうとしてい秘密をバラしてやる。ザイン・リシーヴァは六歳までおねしょをしていたんじゃー。これでお前の黒歴史は全世界に広がっていく、うっほほほ」
「爺様、たぶんそういうところだよ」
……同感です。
――ザインが師匠を尊敬出来ない気持ちが十分理解出来た瞬間だった。
彼は幼い頃に師弟関係を結んだと言っていた。つまり正式な魔術師となる十七歳まで、あの長老のもとで学んでいたことになる。
きっと少しづつ少しづつ、尊敬の念が削られていったに違いない。
とりあえず時間もないので、勝ち誇ったように高笑いしている長老を放って、話を先に進めることにする。
「アティカを一緒に連れて戻るのは無理じゃないかしら?」
魔術師は空を飛べるわけではない。三日以内に王都に戻るには、殆ど休まずに馬を走らせ続ける必要がある。大人だって厳しい行程なのに、六歳の子供に耐えられるはずがない。
それに、今は一緒に戻らない方がいいだろう。万が一にもきな臭いことがあったら、王都よりもここにいたほうが安全だ。
長老にザイン達が作業の進み具合を報告していると、ニーダル支部の建物に黒い紙魔鳥が飛び込んできた。
『最上位魔術師トルタヤ・ルガン、同じくザイン・リシーヴァ。両名は三日以内に王都に馳せ参ぜよ』
けたたましい鳴き声が部屋に響き渡る。
こういう通達自体はそんなに珍しくもない。
なんらかの異変を王都周辺で感知したら、一定数の高位魔術師を招集する決まりになっているからだ。
実際に大事だったことは一度もないのにこのやり方を変えないのは、有事の際に対応できるようにと訓練も兼ねているらしい。
「おいおい、嘘だろ……。爺様って本当に最上位だったのか?!」
「……信じられないけど、そうみたいね」
ここにいるトルタヤ・ルガンは二人だけ。
今発言したトルタヤは五等級なので、最上位はもう一人のほう――長老だ。
私達はともに、最上位がこれとは信じたくない! という顔をしている。
この場合のこれとは、仕事をさぼっている人または予算を使い切ってしまった人という意味だ。
「長老様って、実はすごい人だったんですね! 僕、ぜんぜん気づきませんでした。能ある鷹は爪を隠すですね」
「その通り、儂は立派な人なんじゃ。そして、アティカよ。遠慮せずにもっと褒めるが良い♪」
「はい! 長老様、かっこいいです」
アティカは拍手をしながら、尊敬の眼差しを長老に注いでいる。
同じ驚きでも私達のものとはぜんぜん違う。どちらの反応が正しいかは置いておくとして、大変素直で良い子である。
「ん? それなら、師匠ってのも爺様の妄想じゃなかったのか?」
「妄想とは失礼な奴じゃな。何度も言っておるじゃろうが。儂はザインの師匠じゃ」
となると、昨日ザインは嘘をついたことになる。そこまでして師弟関係を隠さなくてはいけない理由とはなんだろうか。
もしかしたら、アティカに聞かせたくない話なのかもしれないと尋ねるのを躊躇する。すると、アティカが浮かない表情をして、ザインの袖を引っ張っている。
「長老様が、お父さんのお師匠さまなんですか?」
「はい」
「昨日はなんで嘘をついたんですか? お父さん」
「ついてません、ティカ」
ザインはアティカの目を真っ直ぐに見て答えている。嘘を言っているようには見えない。
師匠だけど、師匠じゃないってどういうこと??
ますます混乱していると、トルタヤが『あっ、分かった!』と叫んだ。
「昨日、俺は尊敬しているかと聞いた。そして、ザインさんはそれを否定した。よくよく考えたら、師匠と弟子の関係を否定はしていなかったんだ」
「やっぱり、僕のお父さんは嘘つきじゃなかったんですね!」
「そうだ、アティカ。俺の聞き方が悪かった。お前の父親は正直者だ」
ザインの言葉が圧倒的に足りなかったのが誤解の主な原因だが、彼に悪気はなかったのだろう。
もともとそういう人なのだ。
とりあえず一件落着と私とアティカとトルタヤが笑っていると、ただ一人納得できないと駄々を捏ね始めた。
それは、尊敬されない師匠もとい長老である。
「尊敬してないじゃと?! なぜじゃ、なぜなんじゃー。この不肖の弟子めっ。人参が食べられないくせに、紙魔鳥を悪用している変態のくせに、生意気じゃぞ。こうなったら、お前が墓場まで持っていこうとしてい秘密をバラしてやる。ザイン・リシーヴァは六歳までおねしょをしていたんじゃー。これでお前の黒歴史は全世界に広がっていく、うっほほほ」
「爺様、たぶんそういうところだよ」
……同感です。
――ザインが師匠を尊敬出来ない気持ちが十分理解出来た瞬間だった。
彼は幼い頃に師弟関係を結んだと言っていた。つまり正式な魔術師となる十七歳まで、あの長老のもとで学んでいたことになる。
きっと少しづつ少しづつ、尊敬の念が削られていったに違いない。
とりあえず時間もないので、勝ち誇ったように高笑いしている長老を放って、話を先に進めることにする。
「アティカを一緒に連れて戻るのは無理じゃないかしら?」
魔術師は空を飛べるわけではない。三日以内に王都に戻るには、殆ど休まずに馬を走らせ続ける必要がある。大人だって厳しい行程なのに、六歳の子供に耐えられるはずがない。
それに、今は一緒に戻らない方がいいだろう。万が一にもきな臭いことがあったら、王都よりもここにいたほうが安全だ。
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