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17.渡さない〜トルタヤ視点〜
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ザイン親子の姿が見えなくなると、アリスミはすぐにテーブルの片付けに取り掛かった。手際がいいので、あっという間に片付け終わる。
「それでは私も帰りますね。お先に失礼します」
「カロック、気をつけて帰るんじゃぞ」
「またな、アリスミ」
「長老様もお気をつけて。トルタヤ、また明日」
いつも通りの挨拶と笑顔を見せて、彼女は帰っていった。
俺――トルタヤの告白を無視しているのではない。気まずい雰囲気にならないように、気遣ってくれているのだ。
どうして分かるかって? それは二年間ずっと同僚として彼女のそばにいたからだ。
アリスミ・カロックの最初の頃の印象は『可もなく不可もなく』だった。
魔術師としての才はあまりなく、だから頑張っているけど八等級。ニーダルという田舎にはちょうどいい魔術師だなと思った。
だがその印象はすぐに覆ることになった。
些細な気遣い、さり気ないフォロー、絶妙なタイミングでの優しい声掛け。彼女は相手のほんの僅かな変化を察して自然に動く。
それに、彼女がいるだけで不思議と場が和んだ。目立つ存在ではないけれど周囲の人から愛される人だった。
恋人のふりをする話が出た時は、心の中で『よっしゃー!!』と雄叫びを上げて、一も二もなくその提案に飛びついた。その頃には彼女を好きになっていたからだ。
『よしっ、これをきっかけに距離を縮めるぞ!』
一人決意をあらわにしたが、男として見てもらえず気づけば二年が経っていた。
焦ってはいなかったけど、……いや本当は少しだけ焦っていた。このまま一生同僚のままだったらどうしようと。
そんな俺の前に三日前、強力なライバルが現れたのである。
あれは反則だろうがっ……。
アリスミの元恋人はなんと最上位魔術師だった。
彼女は復縁はないと断言していたが、何事にも絶対はない。天使が彼らを再び結びつける可能性だって考えられる。
どれくらいの間付き合っていたか知らないが、浅い付き合いだと思っていた。
……会話が成立しないもんな。
ザインがああいう人だったからである。
それでも、焦った俺はムードの欠片もない告白をしてしまった。結果は予想通りだったが、後悔はしていない。……あれがあったから俺は気づけた。
アリスミは気づかなかったようだが、俺はあの紙魔鳥を見て分かった――ザイン・リシーヴァは彼女に執着していると。
本物の鳥と見間違えるほど精巧な紙魔鳥に見覚えがあった。
俺はあれをここニーダルの地で何度か見掛けたことがある。伝令としてではなく、鳥として優雅に空を舞っている姿をだが。仕事をする俺達、いや元恋人を視ていたのだろう。
紙魔鳥を王都からここまで飛ばすのは膨大な魔力を消費する。遊びで出来ることではない。
今、ここには俺と爺様の二人だけで、聞くなら今だろう。
「爺様、ザインさんはここに来た目的はなんだ?」
「防御術式の総入れ替えのためじゃ」
爺様は飄々と答えているが、絶対にそれだけじゃないはずだ。
「そのために紙魔鳥をずいぶんと前からここに飛ばせていた? そんなはずないだろがっ」
「儂は知らーん。もし来ていたなら、目的地を定め間違えていたんじゃな。あやつも腕が鈍ったの~」
新米魔術師の紙魔鳥ならそれもあるが……。
あんな精巧な紙魔鳥を作る最上位だぞっ!
そんな初歩的な間違いを犯すはずがない。
「あのさ、爺様と最上位魔術師はどういう関係なんだよ。本当のところを教えろよ」
「優秀な師匠と不肖の弟子じゃ」
「……」
答えるつもりはないようだ。
爺様は緩い感じだが、こうなると何を言っても無駄だ。俺は聞き出すことを早々に諦める。
「俺さ、アリスミのこと幸せにする自信がある。だから、誰にも渡さない。爺様の知り合いだろうと、彼女を傷つける奴はただじゃおかない。邪魔するなよ、爺様」
当の本人のいないところで宣戦布告する。紙魔鳥を覗き見に使う奴なんかに渡すかよっ!
「邪魔はせんが、助けもせんぞ」
そう言うと爺様は意味ありげに、うっほほと笑っている。とても嫌な感じだ。
念のために聞いておいたほうがいいだろうか、最上位魔術師の本気とはどういうものかを。
「あのさ、ザインさんが本気で怒ったらどう――」
「消し炭じゃな」
「……」
爺様が告げた真実に、俺の決意は少しだけ揺らいでしまった。
「それでは私も帰りますね。お先に失礼します」
「カロック、気をつけて帰るんじゃぞ」
「またな、アリスミ」
「長老様もお気をつけて。トルタヤ、また明日」
いつも通りの挨拶と笑顔を見せて、彼女は帰っていった。
俺――トルタヤの告白を無視しているのではない。気まずい雰囲気にならないように、気遣ってくれているのだ。
どうして分かるかって? それは二年間ずっと同僚として彼女のそばにいたからだ。
アリスミ・カロックの最初の頃の印象は『可もなく不可もなく』だった。
魔術師としての才はあまりなく、だから頑張っているけど八等級。ニーダルという田舎にはちょうどいい魔術師だなと思った。
だがその印象はすぐに覆ることになった。
些細な気遣い、さり気ないフォロー、絶妙なタイミングでの優しい声掛け。彼女は相手のほんの僅かな変化を察して自然に動く。
それに、彼女がいるだけで不思議と場が和んだ。目立つ存在ではないけれど周囲の人から愛される人だった。
恋人のふりをする話が出た時は、心の中で『よっしゃー!!』と雄叫びを上げて、一も二もなくその提案に飛びついた。その頃には彼女を好きになっていたからだ。
『よしっ、これをきっかけに距離を縮めるぞ!』
一人決意をあらわにしたが、男として見てもらえず気づけば二年が経っていた。
焦ってはいなかったけど、……いや本当は少しだけ焦っていた。このまま一生同僚のままだったらどうしようと。
そんな俺の前に三日前、強力なライバルが現れたのである。
あれは反則だろうがっ……。
アリスミの元恋人はなんと最上位魔術師だった。
彼女は復縁はないと断言していたが、何事にも絶対はない。天使が彼らを再び結びつける可能性だって考えられる。
どれくらいの間付き合っていたか知らないが、浅い付き合いだと思っていた。
……会話が成立しないもんな。
ザインがああいう人だったからである。
それでも、焦った俺はムードの欠片もない告白をしてしまった。結果は予想通りだったが、後悔はしていない。……あれがあったから俺は気づけた。
アリスミは気づかなかったようだが、俺はあの紙魔鳥を見て分かった――ザイン・リシーヴァは彼女に執着していると。
本物の鳥と見間違えるほど精巧な紙魔鳥に見覚えがあった。
俺はあれをここニーダルの地で何度か見掛けたことがある。伝令としてではなく、鳥として優雅に空を舞っている姿をだが。仕事をする俺達、いや元恋人を視ていたのだろう。
紙魔鳥を王都からここまで飛ばすのは膨大な魔力を消費する。遊びで出来ることではない。
今、ここには俺と爺様の二人だけで、聞くなら今だろう。
「爺様、ザインさんはここに来た目的はなんだ?」
「防御術式の総入れ替えのためじゃ」
爺様は飄々と答えているが、絶対にそれだけじゃないはずだ。
「そのために紙魔鳥をずいぶんと前からここに飛ばせていた? そんなはずないだろがっ」
「儂は知らーん。もし来ていたなら、目的地を定め間違えていたんじゃな。あやつも腕が鈍ったの~」
新米魔術師の紙魔鳥ならそれもあるが……。
あんな精巧な紙魔鳥を作る最上位だぞっ!
そんな初歩的な間違いを犯すはずがない。
「あのさ、爺様と最上位魔術師はどういう関係なんだよ。本当のところを教えろよ」
「優秀な師匠と不肖の弟子じゃ」
「……」
答えるつもりはないようだ。
爺様は緩い感じだが、こうなると何を言っても無駄だ。俺は聞き出すことを早々に諦める。
「俺さ、アリスミのこと幸せにする自信がある。だから、誰にも渡さない。爺様の知り合いだろうと、彼女を傷つける奴はただじゃおかない。邪魔するなよ、爺様」
当の本人のいないところで宣戦布告する。紙魔鳥を覗き見に使う奴なんかに渡すかよっ!
「邪魔はせんが、助けもせんぞ」
そう言うと爺様は意味ありげに、うっほほと笑っている。とても嫌な感じだ。
念のために聞いておいたほうがいいだろうか、最上位魔術師の本気とはどういうものかを。
「あのさ、ザインさんが本気で怒ったらどう――」
「消し炭じゃな」
「……」
爺様が告げた真実に、俺の決意は少しだけ揺らいでしまった。
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