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9.拒絶できない理由①

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青銀の長髪、切れ長の目、真っ直ぐに伸びた鼻梁、すべて二年前と同じ。
保たれたままの彫刻のような美に、二年という歳月は彼に渋み――大人の色気まで与えていた。

……私と別れて正解だったようである。


長老は最上位魔術師のことを簡単に紹介すると、目尻の皺を深め一方的にザインに喋り続けている。
正しくは『ザインと話している』だけど、彼は殆ど言葉を返さないから、長老が一人で話しているように見えるのだ。

 ……相変わらずなのね。

こういうところも変わっていない。

彼の目には私も映っているけれど、その表情が変わることはない。無視ではなく眼中にないが、一番適切な表現だろう。

これなら不快な顔をされたり、舌打ちでもされたほうがずっとましである。

私とのことは過去というよりも、彼の中では綺麗さっぱり消えているのかもしれない。

 ……別にいいけど。


「そうそう、こちらの魔術師を紹介しよう。こっちが五等級のトルタヤ・ルガン。なかなかの男前じゃろ? 曽祖父似なんじゃ。ちなみに儂のひ孫だ、うっほほ」
「俺のことはトルタヤと呼んでください。見てお分かりだと思いますが、曽祖父には全く似ていません」

ザインは無言のまま頷く。あの会話に対してだから、大人な答え方と勘違いしてもらえるだろう。
続いて長老は私に視線を向ける。

「彼女は七等級のアリスミ・カロック。そして、彼女がお前さんの息子の師匠となってくれる」
「…………」
「…………ご存知だと思いますが、カロックです」

ザインは無表情のままで、私もそれに倣って笑みを消す。

「あー、……おっほん。カロックは愛想も良いし優しいし、それに面白いことも言う。等級は少しばかり低いが、師匠になるじゃろう。儂が保証する」

腕を組んだまま無愛想を貫く私。
相手に合わせてなにが悪いと言わんばかりの態度を崩さない。

「……えー、 に訂正してもいいかの?」

思ってもいなかった展開に長老はあたふたする。
知り合いならザインがこういう態度なのは承知していたはず。なので、長老にとって予想外なのは私だけ。

『何故じゃっ?! カロックー』と、長老の見開いた目が語っている。

王都の噂は辺境まで届いてなかったので、私とザインの関係を知らないのだ。もし知っていたら、呼ばなかっただろう。

……いや、呼んでいたかもしれないと思い直す。『もう後がないんじゃ。許せ、カロック』と言ってそうだ。


心のなかで長老に謝っておく。申し訳ありません、ちょっとだけ引退が早まる――首が飛ぶ――かもしれませんねと。

ただならぬ雰囲気を察したトルタヤが私の隣に来て、耳元に口を寄せる。

「あのさ、大丈夫か? って、そうじゃないからこうなってるんだよな。アイツと知り合い?」
「昔ちょっとね」
「俺が代わりに子守をやろうか?」
「ありがとう、トルタヤ」

どちらが子守役を引き受けようと、子供が『魔術師の弟子』になれるのは変わらない。
子守役になれば父親であるザインを無視するのは難しい。
それなら防御術式の入れ替え要員になったほうが彼を避けられる。ニーダルは広いから分散して作業を行うはずだ。


空気を読んだ有り難い申し出に私が微笑むと、トルタヤもそれに応えるように小さく頷く。

意図せず顔を寄せて見つめ合う形になって、私達は笑う。


その時、黒衣を纏ったままの子供がザインの後ろから飛び出してきた。その場にいる大人達の視線がその子に集まる。

「僕、アティカ・リシーヴァです。六歳です。父が大変お世話になってます。あっ、お父さんは二十八歳です」

可愛らしい声がその場の空気を一瞬で変える。

アティカは両手を前で組んでぺこっと礼儀正しくお辞儀をする。つられて私達もぺこっと頭を下げ、ついでに目尻も下がる。

 うん! もの凄く可愛いうえにとても良い子だわ。

こう思ったのは絶対に私だけではない。

「あんなひ孫が欲しかった……」
「うぁっ、天使かよ。ちなみに爺様からあんなひ孫良い子は生まれないからな」

長老とトルタヤはその可愛さに悶絶してながら、くだらないことを言っていた。

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