不能と噂される皇帝の後宮に放り込まれた姫は恩返しをする

矢野りと

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24.ブタ吉の見た現実①

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ガッタン、ゴットン。ガッタン、ゴットン。

大きな荷馬車が王宮の裏手にある家畜小屋の前で止まった。
運送業者が荷台を開き、中にいる豚達を次々に外へと降ろしていく。

「隣国からの御成婚祝いの品をお届けに来ました。ここの受け取りのサインをお願いします」

「ああ、これがロナ様の国から送られてきた祝いの品だな。みんな大きくて立派な豚だ」

家畜小屋の責任者トム爺は丸々と太った柔和な大人豚達を優しく撫でていく。
その中に目つきの悪い豚が一頭いた。この豚こそがあの偽装子豚ブタ吉だった。

 ケッ、思ったより到着に時間が掛かっちまった。
 もう『卒業』のブタ吉・ホフマンは無理だな…。
 よし、計画変更だ!
 『昼顔』の斎藤でいくぞ。
 斎藤ブタミ…、名前はカッコ悪いがまあいい。
 同じイケメン同士だ、我慢してやるっ!

…おい、ブタ吉ーー!謝れ、全国の斎藤〇ファンに今すぐ謝れ!!


お安いコースの運送はやっぱりそれなりの時間が掛かったようだ…。
その証拠に可愛い子豚10頭が立派な豚になっていた。

…あっ、偽装子豚は別だよ!
もともと丸々していたからね。

みんな気立てが良い豚ばかりなので尻尾を振って喜んで撫でられているが、ブタ吉だけがプイッと避けて距離を取る。


ブッヒヒッヒー!
(俺様に気安く触るんじゃねぇっ!このクソ爺が)

ブタ吉のけたたましい鳴き声にトム爺は苦笑いをし『ほら緊張するな、大丈夫だ』と優しく声を掛ける。
だがブタ吉はケッとばかりに後ろ脚で器用にトム爺に砂を掛けまくる。

ザッザッザッザー。砂が舞い上がり『ゴッホゴッホ、』とむせるトム爺。


その瞬間ブタ吉の足元にシュバッと短剣が突き刺さる。

ブヒッーー?ブヒヒ。
(誰だ、何しやがる!)


「私の旦那様に失礼な態度を取る豚なんて許しません。いっぺん、死んでみる?」
(※最後のセリフは地獄少女風で)

物騒なセリフを口にしながら姿を現したのは侍女アンナだった。

ブタ吉に一歩また一歩と近づく鋭い視線のアンナ。

そしてじりじりと後ろに下がるブタ吉…と、えっ…、トム爺っ?!

(天の声とトム爺)
『トム爺、あんたも下がるんかいっ!』
『頼む、下がらせて欲しい。お願いだ…』

ここでアンナの勝手にテーマソング『ストーカーの唄』を流して気分を盛り上げよう♪(※これは本当にある歌です)

(天の声とアンナ)
『アンナよ、いったい何をした…?』
『まあ、いろいろです』
『完全に避けられているやんけっ!』
『クスッ、それがなにか』

…アンナ、まさに最強のメンタルを持つストーカー。



アンナとブタ吉とトム爺の三人で正しくない三竦み状態が続く‥‥。

その均衡を破ったのは家畜小屋に遊びに来たロナ姫だった。

「あらあら、懐かしい豚顔があると思ったらブタ吉じゃないですか~。どうしてこんな所に来ているんですか?」

感動の再会にブタ吉は『ブッヒ、ブッヒ』と男豚泣きをする。

 俺のロナだーーー!
 やっと、やっと会えた‥‥。
 くぅっ、ちょっと会わねぇうちに色っぽくなりやがってよー。
 

それを見てロナ姫はケラケラと笑う。

「まあ自分で砂ぼこりを立てて、目に入ってしまったんですね。
全くブタ吉は昔から変わりませんね。もう大人なんだからあまりやんちゃしては駄目ですわよ」

ブッヒ、ブブブブー。
(泣いてねえよ、これは汗だ、汗!)

「はいはい、分かりましたよブタ吉。汗という名の涙ですね♪」

ブヒブヒ。
(そうだ、そうだ)

…おい、ブタ吉。それはつまり泣いているってことだぞ…。



久しぶりに会うロナ姫はブタ吉が最後にあった時よりもかなり大人の女性になっていて、ブタ吉の気持ちは最高潮まで高まっていた。

 俺の為に女を磨きやがって。
 ブッヒッヒ、ロナの奴め。
 可愛いところがあるな。
 いいぜ、俺も男だ!
 ビシッと愛の告白をして、決めてやるぜっ!

ちゃんとアンナを避けながら遠回りしてロナ姫に近づくブタ吉の耳に可愛い赤ちゃんの泣き声が聞こえてくる。

「ふぎゃ、ふぎゃ…」

「あら、お腹が空いたのかしら。それともおしめが濡れたの?よしよし、いい子ですね♪」

そう言って優しくあやすロナ姫が抱いているのは布の塊ではなく、ロナ姫にそっくりな可愛い赤ちゃんだった。

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