上 下
12 / 30

12.相談に乗る

しおりを挟む
今日もロナが『フンフンフン~、馬のフン♪』と鼻歌交じりで馬小屋の掃除をしているとひょっこりとハヤシがお菓子を持って顔を出した。

「おい、ロナ。珍しい菓子が手に入ったんだ、一緒に食ってみようぜ」

「ちょっと待ってくださいね。これを全部終わらせるからっと、」

そう言って残りの藁をフォークで移動してしまおうとすると、横からハヤシがロナが使っているフォークを取りさっさとやってくれる。

「ハヤシ、有り難う♪」

へにゃりと笑うロナを見て『別に』とぶっきらぼうな返事を返すハヤシ。
だがちょっと耳は赤くなっていた。

それに気づいたロナは耳の赤さを寒さから来ていると思い、
「最近寒くなってきましたから、お互い風邪には気を付けましょうね」
と優しい口調で声を掛ける。

ハヤシは慌てて『ゴッホン、ゴッホン』と風邪気味のふりをして誤魔化す。

 な、なにを俺は慌てているんだ…。
 別にロナを見て赤くなったわけではないだろうがっ!



そしていつものようにくだらない話で盛り上がりながら美味しいお菓子を二人で食べている。

「美味しいですわ~。これぞ幸せって感じです!」

「そうか。こんなことでそこまで喜ぶ女は珍しいな…」

ポツリと呟くハヤシ。
彼の周りには菓子一つで喜ぶような女は誰もいなかった。寄って来るのは私利私欲に塗れた女、傍にいたのは淑女の仮面を被った悪魔だけ…。

だからハヤシにとって素朴なロナの存在は特別だった。
この気持ちが何なのか分かっていないが、大切な人だとは気づき始めていた。

「そうですか。美味しいものを食べると幸せになるのは当たり前ですよ。
私の母国は超がつくほど貧乏だったのでこんな洒落たお菓子はなかったですから」

「ではロナ、お前今は幸せか?」

「はい、幸せですよ♪
縁あってこの国に来ましたが、三食昼寝付きの好待遇のうえ新しい友人にも恵まれました。
でもそれゆえの悩みも出てきましたがね…」

ロナは悲しそうに顔を俯かせる。

 な、なんだ…この気持は?
 ロナのこんな顔見ると居た堪れない。
 力になってやりたい、この俺が。

友の相談に乗るのは当然とばかりにハヤシは言う。

「ロナ、俺で良かったら相談に乗るぞ!一人より二人で悩んだ方が解決策が見つかるやもしれん。
遠慮せずに話してみろ」

ハヤシの温かい言葉に感動し、ロナは相談してみることにした。

「実はですね、私今かなり恵まれた環境にいるんですよ。でも与えられるばかりで何の対価も払っていない状況が心苦しくって…。
周りからは貧乏性って言われるんですけど、どうにも気になって気になって。
でもお金はないし、どうすれば恩を返せるのか分からなくって悩んでいるんです。
ハヤシ、どうすればいいでしょうか?」


 うん?ロナは優雅な後宮の生活を申し訳なく思っているのか…。
 そんなことで悩む側妃なんて聞いたことが無いぞ。
 ふっ、こんなことで悩んで可愛い奴だなぁ。

おもわず顔がにやけそうになり、ハヤシは誤魔化す為に手を口元に当てて考えるふりをする。

「うーん、そうだな。別に無理をしなくていいと思うが。
でもそれじゃあロナの気が済まないんだな…。
なら無理せずできる…つまり得意なことで相手を喜ばせることはあるか?」

「得意な事ですか、う~ん…」

悩むロナにハヤシは助け舟を出す。

「歌を歌うとか、花を活けるとかなんでもいいと思うぞ」
(王族の姫の得意なことの定番なんかどうだ?)

「あっ、ひとつありましたわ!
母国でも流石と褒められていましたの。
私家畜の繁殖が得意なんですよ。

そうね、その手がありましたわ!
それを活かしてしっかり恩返ししますわ。
ハヤシ、有り難う。貴方のお陰で名案が浮かびました♪」

「ち、ちょっと待て。家畜の繁殖?それはどう活かすんだ…」

 な、んか…まずいことになりそうな予感がする…。

ロナの憂いは晴れたようで嬉しいが、なぜかハヤシは背中が薄ら寒くなったように感じる。

…それは優れた直観力だな、皇帝ハヤンよ。

 

「えっへっへ、実はですね。子宝に恵まれない人達が周りにたくさんいるんです。ですから家畜の繁殖技術を取り入れ手助けしようかと思っています!
善は急げですから早速、実行しますわ♪
ハヤシ、良い報告を待っていてくださいね」

「ま、待って、」

ハヤシの制止の言葉は無情にも届かず、ロナは駆けて行ってしまった。

 こ、これはまずい、まずい。
 子宝に恵まれない人?恩を返す?
 絶対に後宮つまり俺絡みじゃんか!

焦るハヤシの後ろから、いつの間にやら現れたトム爺がそっと声を掛ける。

「今までのツケを払うことになりそうですね、皇帝陛下。
まあ頑張ってください。きっとたくさん溜まっているはずですしお若いから乗り切れるでしょう」

皇帝ハヤンは25歳、確かに生殖能力が盛んなお年頃だ。トム爺の言葉は間違ってはいない…?が個人差も考えてあげよう!


クルリと後ろを向き、皇帝ハヤンはトム爺を怒鳴りつける。

「溜まってねーよ!それに他人事だと思って勝手なことほざくなっ」

「他人事ですから」

きっぱりと言うトム爺は将軍時代よりも清々しかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

みんなが嫌がる公爵と婚約させられましたが、結果イケメンに溺愛されています

中津田あこら
恋愛
家族にいじめられているサリーンは、勝手に婚約者を決められる。相手は動物実験をおこなっているだとか、冷徹で殺されそうになった人もいるとウワサのファウスト公爵だった。しかしファウストは人間よりも動物が好きな人で、同じく動物好きのサリーンを慕うようになる。動物から好かれるサリーンはファウスト公爵から信用も得て溺愛されるようになるのだった。

外では氷の騎士なんて呼ばれてる旦那様に今日も溺愛されてます

刻芦葉
恋愛
王国に仕える近衛騎士ユリウスは一切笑顔を見せないことから氷の騎士と呼ばれていた。ただそんな氷の騎士様だけど私の前だけは優しい笑顔を見せてくれる。今日も私は不器用だけど格好いい旦那様に溺愛されています。

獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。

真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。 狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。 私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。 なんとか生きてる。 でも、この世界で、私は最低辺の弱者。

初恋をこじらせたやさぐれメイドは、振られたはずの騎士さまに求婚されました。

石河 翠
恋愛
騎士団の寮でメイドとして働いている主人公。彼女にちょっかいをかけてくる騎士がいるものの、彼女は彼をあっさりといなしていた。それというのも、彼女は5年前に彼に振られてしまっていたからだ。ところが、彼女を振ったはずの騎士から突然求婚されてしまう。しかも彼は、「振ったつもりはなかった」のだと言い始めて……。 色気たっぷりのイケメンのくせに、大事な部分がポンコツなダメンズ騎士と、初恋をこじらせたあげくやさぐれてしまったメイドの恋物語。 *この作品のヒーローはダメンズ、ヒロインはダメンズ好きです。苦手な方はご注意ください この作品は、小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。

【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。

扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋 伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。 それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。 途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。 その真意が、テレジアにはわからなくて……。 *hotランキング 最高68位ありがとうございます♡ ▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス

【完結】お見合いに現れたのは、昨日一緒に食事をした上司でした

楠結衣
恋愛
王立医務局の調剤師として働くローズ。自分の仕事にやりがいを持っているが、行き遅れになることを家族から心配されて休日はお見合いする日々を過ごしている。 仕事量が多い連休明けは、なぜか上司のレオナルド様と二人きりで仕事をすることを不思議に思ったローズはレオナルドに質問しようとするとはぐらかされてしまう。さらに夕食を一緒にしようと誘われて……。 ◇表紙のイラストは、ありま氷炎さまに描いていただきました♪ ◇全三話予約投稿済みです

お姉様に押し付けられて代わりに聖女の仕事をする事になりました

花見 有
恋愛
聖女である姉へレーナは毎日祈りを捧げる聖女の仕事に飽きて失踪してしまった。置き手紙には妹のアメリアが代わりに祈るように書いてある。アメリアは仕方なく聖女の仕事をする事になった。

夫が私に魅了魔法をかけていたらしい

綺咲 潔
恋愛
公爵令嬢のエリーゼと公爵のラディリアスは2年前に結婚して以降、まるで絵に描いたように幸せな結婚生活を送っている。 そのはずなのだが……最近、何だかラディリアスの様子がおかしい。 気になったエリーゼがその原因を探ってみると、そこには女の影が――? そんな折、エリーゼはラディリアスに呼び出され、思いもよらぬ告白をされる。 「君が僕を好いてくれているのは、魅了魔法の効果だ。つまり……本当の君は僕のことを好きじゃない」   私が夫を愛するこの気持ちは偽り? それとも……。 *全17話で完結予定。

処理中です...