11 / 30
11.妙に馬が合う?
しおりを挟む
叫んだあと自称人間はパンパンと身体を叩き藁を落としていく。するとロナ姫の前には大柄な美丈夫が現れた。
「あらあら本当に人間でしたか…。
グサッとしてしまい、本当にごめんなさい。
お怪我は大丈夫ですか?」
今度は謝罪の言葉の後の?マークはちゃんと外され、ロナ姫はしゅんと項垂れ怪我の心配をする。
それを見て、少しは気が治まった男は『ああ大丈夫だ』と素っ気なく返事をし立ち去ろうとする。
慌ててロナ姫は男の服の裾を引っ張り引き留める。
「ああん?大丈夫だって言ってんだろうが。
心配しなくても怪我なんてしてねぇよ。
その手を離せ、女」
「まず第一に、怪我がなく幸いです。
第二に、この引き留めは心配からではなく、馬小屋への不法侵入者の捕獲を目的としています。
第三に、女ではなくロナです。
名無しの人間さん、離しませんよ!」
「チッ、クソ生意気な女だな」
「ロ・ナ・です」
「クソッが。じゃあロナ一回しか言わないからちゃんと聞きやがれ。
俺は王宮の護衛騎士で自分の馬を見舞いに来ただけだ、だから不法侵入じゃねぇ。
そして俺の名はハ‥‥」
「ハ…?なんですか?」
「えっと…。ハ…、ハヤシだ。ハヤシ!」
「その後にライスを付けてお呼びしてもいいでしょうか?」
…止めておけ、ロナ姫。初対面の人に言うセリフではない…。
「ああん、ライスだと?
つまりハヤシ…ライス。
いい訳ねぇだろうがっ!
ゴラァ、お前ふざけてやがるのか!」
「いいえ、この緊迫した雰囲気を和ませるスパイスです。和みましたか?ハヤシ様」
気の抜けたようなへにゃりとした笑顔を見せるロナに、ハヤシも怒るのが馬鹿馬鹿しくなってくる。
「ちっとも和まんだろうが!
だがなんだな、クックック。あまりにも馬鹿らしくて不思議と腹が立たんな。
ロナ、お前見たことないけど変わった奴だな。新しい世話係か?
気が荒い俺の馬は俺以外の人間が近づくと鳴いて知らせるのに…。
今回は知らせなかったな。お前なにかしたのか?」
「うーん、特にはしていませんね。
でも動物が大好きなのでその気持ちが馬吉にも伝わっているのでしょうか?
あれっ?もしやこれは私と馬吉との禁断の相思相愛でしょうか?
ちょっとドキドキしてきました!」
「‥‥違う。ただの動物好きだ、間違えるな。
そこかなり重要なことだぞ、人間として。
人間やめる予定でもあるのか?
それに勝手に俺の馬の名を改名するな…」
「あっ、人間やめませんよ。
なのでドキドキは気のせいということにします!
そして馬吉は改名ではなく愛称なのでご心配なく」
「アッハッハッハーー。
ロナ、お前って最高だな!」
お互い最悪な出会いだったが、この後藁の上に座って話してみたら馬好きという共通点もあり、かなり話が弾んだ。
「ふふふ、ハヤシ様は口悪いですけど性格は案外いいのでお友達になれそうです」
「そうだな、俺もお前が気に入ったぞ。これからは『様』はいらん、ハヤシと呼べ」
「了解です、ハヤシ。あっそろそろ戻らなくては。
ではまた会いましょうね」
元気に挨拶をしてロナは家畜小屋へと戻っていった。
すると陰から静かに姿を現したのはトム爺だった。この人、今は将軍職を引退して家畜の世話係を自主的にしているが、かなりのお偉いさんだった。それにこの目の前の男ハヤシの剣術指南をしていたこともあった。
「皇帝陛下、かなりうちの新人を気に入ったようですね」
「ああ、まあな。あんな面白い女初めてだ。
大概の女は俺の身分を知らなくてもこの面に見とれて媚びを売ってくるのに。
ロナはまったく興味を示さなかったな。
クックック、それどころかハヤシライスだとよ。
トムのところで働いているのなら身元は確かなんだろう?」
「そうですね、確かですが訳ありといいますか…。皇帝陛下、お知りになりたいですか?」
「チッ、勿体ぶってないで早く教えろ!」
「ロナ様は後宮の六妃、つまり貴方の側室ですよ。もちろん先日の対面式をすっぽかしたのでご存じなかったとは思いますますが…。
事情があり家畜の世話係としてこっそり働いておりますが、そこは私に免じて見逃してあげてください」
「………」
あんな奴が側妃だと…。
それにフラフラ外出をしている。
俺の後宮はどうなっているんだ?
皇帝ハヤンの頭は混乱していたが事を荒立てることはなかった。
その代わり、その日を境にして毎日のように馬のお見舞いに来るようになったのである。
「あらあら本当に人間でしたか…。
グサッとしてしまい、本当にごめんなさい。
お怪我は大丈夫ですか?」
今度は謝罪の言葉の後の?マークはちゃんと外され、ロナ姫はしゅんと項垂れ怪我の心配をする。
それを見て、少しは気が治まった男は『ああ大丈夫だ』と素っ気なく返事をし立ち去ろうとする。
慌ててロナ姫は男の服の裾を引っ張り引き留める。
「ああん?大丈夫だって言ってんだろうが。
心配しなくても怪我なんてしてねぇよ。
その手を離せ、女」
「まず第一に、怪我がなく幸いです。
第二に、この引き留めは心配からではなく、馬小屋への不法侵入者の捕獲を目的としています。
第三に、女ではなくロナです。
名無しの人間さん、離しませんよ!」
「チッ、クソ生意気な女だな」
「ロ・ナ・です」
「クソッが。じゃあロナ一回しか言わないからちゃんと聞きやがれ。
俺は王宮の護衛騎士で自分の馬を見舞いに来ただけだ、だから不法侵入じゃねぇ。
そして俺の名はハ‥‥」
「ハ…?なんですか?」
「えっと…。ハ…、ハヤシだ。ハヤシ!」
「その後にライスを付けてお呼びしてもいいでしょうか?」
…止めておけ、ロナ姫。初対面の人に言うセリフではない…。
「ああん、ライスだと?
つまりハヤシ…ライス。
いい訳ねぇだろうがっ!
ゴラァ、お前ふざけてやがるのか!」
「いいえ、この緊迫した雰囲気を和ませるスパイスです。和みましたか?ハヤシ様」
気の抜けたようなへにゃりとした笑顔を見せるロナに、ハヤシも怒るのが馬鹿馬鹿しくなってくる。
「ちっとも和まんだろうが!
だがなんだな、クックック。あまりにも馬鹿らしくて不思議と腹が立たんな。
ロナ、お前見たことないけど変わった奴だな。新しい世話係か?
気が荒い俺の馬は俺以外の人間が近づくと鳴いて知らせるのに…。
今回は知らせなかったな。お前なにかしたのか?」
「うーん、特にはしていませんね。
でも動物が大好きなのでその気持ちが馬吉にも伝わっているのでしょうか?
あれっ?もしやこれは私と馬吉との禁断の相思相愛でしょうか?
ちょっとドキドキしてきました!」
「‥‥違う。ただの動物好きだ、間違えるな。
そこかなり重要なことだぞ、人間として。
人間やめる予定でもあるのか?
それに勝手に俺の馬の名を改名するな…」
「あっ、人間やめませんよ。
なのでドキドキは気のせいということにします!
そして馬吉は改名ではなく愛称なのでご心配なく」
「アッハッハッハーー。
ロナ、お前って最高だな!」
お互い最悪な出会いだったが、この後藁の上に座って話してみたら馬好きという共通点もあり、かなり話が弾んだ。
「ふふふ、ハヤシ様は口悪いですけど性格は案外いいのでお友達になれそうです」
「そうだな、俺もお前が気に入ったぞ。これからは『様』はいらん、ハヤシと呼べ」
「了解です、ハヤシ。あっそろそろ戻らなくては。
ではまた会いましょうね」
元気に挨拶をしてロナは家畜小屋へと戻っていった。
すると陰から静かに姿を現したのはトム爺だった。この人、今は将軍職を引退して家畜の世話係を自主的にしているが、かなりのお偉いさんだった。それにこの目の前の男ハヤシの剣術指南をしていたこともあった。
「皇帝陛下、かなりうちの新人を気に入ったようですね」
「ああ、まあな。あんな面白い女初めてだ。
大概の女は俺の身分を知らなくてもこの面に見とれて媚びを売ってくるのに。
ロナはまったく興味を示さなかったな。
クックック、それどころかハヤシライスだとよ。
トムのところで働いているのなら身元は確かなんだろう?」
「そうですね、確かですが訳ありといいますか…。皇帝陛下、お知りになりたいですか?」
「チッ、勿体ぶってないで早く教えろ!」
「ロナ様は後宮の六妃、つまり貴方の側室ですよ。もちろん先日の対面式をすっぽかしたのでご存じなかったとは思いますますが…。
事情があり家畜の世話係としてこっそり働いておりますが、そこは私に免じて見逃してあげてください」
「………」
あんな奴が側妃だと…。
それにフラフラ外出をしている。
俺の後宮はどうなっているんだ?
皇帝ハヤンの頭は混乱していたが事を荒立てることはなかった。
その代わり、その日を境にして毎日のように馬のお見舞いに来るようになったのである。
56
お気に入りに追加
2,506
あなたにおすすめの小説

デブスの伯爵令嬢と冷酷将軍が両思いになるまで~痩せたら死ぬと刷り込まれてました~
バナナマヨネーズ
恋愛
伯爵令嬢のアンリエットは、死なないために必死だった。
幼い頃、姉のジェシカに言われたのだ。
「アンリエット、よく聞いて。あなたは、普通の人よりも体の中のマナが少ないの。このままでは、すぐマナが枯渇して……。死んでしまうわ」
その言葉を信じたアンリエットは、日々死なないために努力を重ねた。
そんなある日のことだった。アンリエットは、とあるパーティーで国の英雄である将軍の気を引く行動を取ったのだ。
これは、デブスの伯爵令嬢と冷酷将軍が両思いになるまでの物語。
全14話
※小説家になろう様にも掲載しています。
完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。
音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。
王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。
貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。
だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……

居場所を失った令嬢と結婚することになった男の葛藤
しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢ロレーヌは悪女扱いされて婚約破棄された。
父親は怒り、修道院に入れようとする。
そんな彼女を助けてほしいと妻を亡くした28歳の子爵ドリューに声がかかった。
学園も退学させられた、まだ16歳の令嬢との結婚。
ロレーヌとの初夜を少し先に見送ったせいで彼女に触れたくなるドリューのお話です。

【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。
112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。
エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。
庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──
王宮医務室にお休みはありません。~休日出勤に疲れていたら、結婚前提のお付き合いを希望していたらしい騎士さまとデートをすることになりました。~
石河 翠
恋愛
王宮の医務室に勤める主人公。彼女は、連続する遅番と休日出勤に疲れはてていた。そんなある日、彼女はひそかに片思いをしていた騎士ウィリアムから夕食に誘われる。
食事に向かう途中、彼女は憧れていたお菓子「マリトッツォ」をウィリアムと美味しく食べるのだった。
そして休日出勤の当日。なぜか、彼女は怒り心頭の男になぐりこまれる。なんと、彼女に仕事を押しつけている先輩は、父親には自分が仕事を押しつけられていると話していたらしい。
しかし、そんな先輩にも実は誰にも相談できない事情があったのだ。ピンチに陥る彼女を救ったのは、やはりウィリアム。ふたりの距離は急速に近づいて……。
何事にも真面目で一生懸命な主人公と、誠実な騎士との恋物語。
扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。
小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。

【完結】嫌われ令嬢、部屋着姿を見せてから、王子に溺愛されてます。
airria
恋愛
グロース王国王太子妃、リリアナ。勝ち気そうなライラックの瞳、濡羽色の豪奢な巻き髪、スレンダーな姿形、知性溢れる社交術。見た目も中身も次期王妃として完璧な令嬢であるが、夫である王太子のセイラムからは忌み嫌われていた。
どうやら、セイラムの美しい乳兄妹、フリージアへのリリアナの態度が気に食わないらしい。
2ヶ月前に婚姻を結びはしたが、初夜もなく冷え切った夫婦関係。結婚も仕事の一環としか思えないリリアナは、セイラムと心が通じ合わなくても仕方ないし、必要ないと思い、王妃の仕事に邁進していた。
ある日、リリアナからのいじめを訴えるフリージアに泣きつかれたセイラムは、リリアナの自室を電撃訪問。
あまりの剣幕に仕方なく、部屋着のままで対応すると、なんだかセイラムの様子がおかしくて…
あの、私、自分の時間は大好きな部屋着姿でだらけて過ごしたいのですが、なぜそんな時に限って頻繁に私の部屋にいらっしゃるの?
【完結】お見合いに現れたのは、昨日一緒に食事をした上司でした
楠結衣
恋愛
王立医務局の調剤師として働くローズ。自分の仕事にやりがいを持っているが、行き遅れになることを家族から心配されて休日はお見合いする日々を過ごしている。
仕事量が多い連休明けは、なぜか上司のレオナルド様と二人きりで仕事をすることを不思議に思ったローズはレオナルドに質問しようとするとはぐらかされてしまう。さらに夕食を一緒にしようと誘われて……。
◇表紙のイラストは、ありま氷炎さまに描いていただきました♪
◇全三話予約投稿済みです

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています
オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。
◇◇◇◇◇◇◇
「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。
14回恋愛大賞奨励賞受賞しました!
これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。
ありがとうございました!
ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。
この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる