英雄の平凡な妻

矢野りと

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33.英雄と平凡な妻①

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あの事件から一週間のうちに色々な事が起こった。

まずはアイラ王女が不幸にも小さな子供を庇って事故に遭い右手首を失ったと発表された。
重傷を負った王女は健気にも『子供が無事で良かった』と告げ、誰を責めることなく療養しているらしい。

その翌日にはアイラ王女と隣国の王太子との婚約が発表された。
隣国は以前から王女との婚姻を希望していたが王女は『王妃になる器ではない』と辞退していた。
だが怪我を負ってからも『健気で頑張る貴女だから欲しいのだ』と再度熱烈な申し込みをされ、王女もその情熱に心を打たれ急遽婚約となったのだ。
そして王女を愛する王太子は一刻も早い婚姻を望んでいる為は容体が落ち着き次第隣国へと輿入れする予定になっている。

今、貴族も平民も『王女の美談』と『お伽話のような恋物語』で盛り上がっている。
『流石はアイラ王女様だ、心根が素晴らしい』
『きっと隣国でお幸せになるでしょう』
『我が国の第二王女ほど優しい王女はいない』

どこでも王女に対する賞賛の言葉で溢れていて、自由奔放で我が儘王女だったことなど思い出す者は1人もいない。

そしてあの忌まわしい事件は全く公にされていなかった。



きっとそうなるだろうと予想はしていたが、この状況に私よりエディが腹を立てている。
今日はキアヌ第一王子から呼び出しを受けているので二人で王宮に来ているが、彼は不機嫌な様子を隠そうともしない。

「エディ、流石にその表情はいけないわ。愛想良くとは言わないけど睨みつけては駄目よ。せめて不愛想で我慢してね、分かった?」

「………」

彼は私とルイが攫われた時も救出に来る直前にその事実を教えられた事を今でも怒っている。『王子じゃなかったら絞め殺してやるのに…』と何度物騒なことを口にしていたことか……。

---それは犯罪だから…。
絶対にやっちゃ駄目だから。

私とエディが静かにそんなやり取りをしていると、扉を開けてキアヌ第一王子が兄のジェームズを従えて入ってきた。
頭を下げて臣下の礼を取ると『堅苦しいのはなしだ』と言われ椅子に座る。

「キャンベル伯爵、この度の諸々の働きは素晴らしかった。さすが英雄と称えられることはある。
お前の働きで王女の罪を止めることが出来た、感謝している。
そしてキャンベル伯爵夫人には本当に済まないことをした。幼子と共に事件に巻き込み怖い思いをさせたな。
この度の件では褒美を取らそうと考えている。
なにか望むものはあるか?遠慮しないで言ってくれ」

上機嫌なキアヌ第一王子と反対にエディの表情は硬いままだ。今回の事に納得がいっていない義弟が喋りそうもないと察した兄はエディに助け舟を出す。
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