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29.つかの間の休息③
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「ああ覚えている。君をエスコートせずに王女とだけ踊り…また傷つけた」
「そうね。あなたが王女と踊っている姿を私はただ見ていたわ、壁際で」
彼は顔を歪ませ、悲痛に満ち表情を浮かべ『本当にすまない』と繰り返す。まるで死人のように顔色も悪く、まるで私からの断罪を受け入れる覚悟をしているようだ。
---違うわエディ、私の話をちゃんと聞いて。
「そう見てたから、分かったの。
エディは私を裏切っていないって。
王女の事は心底嫌っているだろうって。
これは間違っている?私の勘違い?」
「ち、違う!間違ってない!
俺は王女の事は嫌悪している。
だが君を裏切っていないと言えるか分からない……。
俺は君しか愛していない、その気持ちは変わっていない。
しかし事情があったにせよ、王女を優先させ君を蔑ろにしたのは事実だ。これを裏切りだと責められても仕方がないと思っている…。俺はそれほど君を傷つけていた自覚がある。
本当に…ごめん」
---ああ、そんなこと裏切りではないのに!
この人は本当に真面目で頭が固い、そして私が愛したエディだわ、クスッ。
「っふ、エディ。それは裏切りではないわ、少なくとも私はそうは思っていない。
あなたは一切言い訳をしていないけど、これも仕事で仕方がなかったんでしょう?
それに私も動揺している時はちょっと疑ってしまったけど、あの夜会でちゃんと分かっていたから。
あなたは私を愛しているって。そして私もエディを信じられるって心から思えたわ。
さっきの質問の返事を言うからちゃんと聞いていて。
私はエドワード・キャンベルを今も愛しているわ。
だから泣かないでエディ。
私達は今回の事で壊れたりしないわ。
そうでしょう?」
「…あ、あぁ」
泣きながら私を抱き締め、短い言葉を返してくれる。
---もう良い場面なのにそれだけなの?クスッ、エディらしい。
暫くお互いに抱き合ったまま熱い口づけを交わし、落ち着いた彼はぽつりぽつりとこの三か月間のことをすべて話してくれた。
王女のこと、黒い噂のこと、任務のこと。
その内容は驚くべきことだったが、これで彼の行動の意味がすべて分かり納得がいった。
エディは騎士団で実力もあり皆から慕われているが、兄のように策士タイプではない。よく言えば真面目、悪く言えば融通が利かない彼がこの任務をこなすのは辛い毎日だったであろう。
---でも彼は私とルイの為に自分が『王女の愛人』と評判を落としても、私達を守る道を選んでくれた。
誠実で真っ直ぐなエディがこの任務でどれほど傷ついたのか分かる。
きっと彼は私以上に傷ついていたのかも知れない。
私には話を聞いてくれる兄や可愛いルイが傍にいたけど、彼はたった一人で家族を失う恐怖と孤独に苛まれていたのだから。
「エディ、有り難う。私とルイを守ってくれて。
そして本当にごめんなさい。
こんな辛い任務を受けている時に少しも理解してあげなくて。本当ならあなたの気持ちを察して支えてあげなくてはいけなかったのに…。
嫉妬して何も見えていなかった、妻として失格ね」
自分の過去の行動に腹が立って仕方がない。大切な人よりも周りに踊らされ彼を責め苦しませた…。
「キャッシーの嫉妬か…。ごめん、それを聞いて凄く嬉しい」
そう言う彼は顔を真っ赤にして口元に手をやり、照れながら嬉しそうにしている。
「ふふふ、私なんかに嫉妬されて本当に嬉しいの?」
「ああ、君に愛されているって実感出来て幸せだ」
「ならいつも嫉妬しようかしら♪でもそれじゃまたエディの傍に女の人が来るって事よね…。
だめだめ、それは認めない。エディはいつまでも私だけの王子様でいてくれなくっちゃ」
私の言葉を聞き更に嬉しそうに目を細めると、耳元で囁いてくる。
「君だけを愛している。
子供の頃から君しか見えていない、俺のお姫様」
私と彼のつかの間の休息は三か月間の溝を一瞬で埋めるに十分なものだった。
もう何があろうと惑わされ、翻弄される事は絶対にない。
「そうね。あなたが王女と踊っている姿を私はただ見ていたわ、壁際で」
彼は顔を歪ませ、悲痛に満ち表情を浮かべ『本当にすまない』と繰り返す。まるで死人のように顔色も悪く、まるで私からの断罪を受け入れる覚悟をしているようだ。
---違うわエディ、私の話をちゃんと聞いて。
「そう見てたから、分かったの。
エディは私を裏切っていないって。
王女の事は心底嫌っているだろうって。
これは間違っている?私の勘違い?」
「ち、違う!間違ってない!
俺は王女の事は嫌悪している。
だが君を裏切っていないと言えるか分からない……。
俺は君しか愛していない、その気持ちは変わっていない。
しかし事情があったにせよ、王女を優先させ君を蔑ろにしたのは事実だ。これを裏切りだと責められても仕方がないと思っている…。俺はそれほど君を傷つけていた自覚がある。
本当に…ごめん」
---ああ、そんなこと裏切りではないのに!
この人は本当に真面目で頭が固い、そして私が愛したエディだわ、クスッ。
「っふ、エディ。それは裏切りではないわ、少なくとも私はそうは思っていない。
あなたは一切言い訳をしていないけど、これも仕事で仕方がなかったんでしょう?
それに私も動揺している時はちょっと疑ってしまったけど、あの夜会でちゃんと分かっていたから。
あなたは私を愛しているって。そして私もエディを信じられるって心から思えたわ。
さっきの質問の返事を言うからちゃんと聞いていて。
私はエドワード・キャンベルを今も愛しているわ。
だから泣かないでエディ。
私達は今回の事で壊れたりしないわ。
そうでしょう?」
「…あ、あぁ」
泣きながら私を抱き締め、短い言葉を返してくれる。
---もう良い場面なのにそれだけなの?クスッ、エディらしい。
暫くお互いに抱き合ったまま熱い口づけを交わし、落ち着いた彼はぽつりぽつりとこの三か月間のことをすべて話してくれた。
王女のこと、黒い噂のこと、任務のこと。
その内容は驚くべきことだったが、これで彼の行動の意味がすべて分かり納得がいった。
エディは騎士団で実力もあり皆から慕われているが、兄のように策士タイプではない。よく言えば真面目、悪く言えば融通が利かない彼がこの任務をこなすのは辛い毎日だったであろう。
---でも彼は私とルイの為に自分が『王女の愛人』と評判を落としても、私達を守る道を選んでくれた。
誠実で真っ直ぐなエディがこの任務でどれほど傷ついたのか分かる。
きっと彼は私以上に傷ついていたのかも知れない。
私には話を聞いてくれる兄や可愛いルイが傍にいたけど、彼はたった一人で家族を失う恐怖と孤独に苛まれていたのだから。
「エディ、有り難う。私とルイを守ってくれて。
そして本当にごめんなさい。
こんな辛い任務を受けている時に少しも理解してあげなくて。本当ならあなたの気持ちを察して支えてあげなくてはいけなかったのに…。
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自分の過去の行動に腹が立って仕方がない。大切な人よりも周りに踊らされ彼を責め苦しませた…。
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「ふふふ、私なんかに嫉妬されて本当に嬉しいの?」
「ああ、君に愛されているって実感出来て幸せだ」
「ならいつも嫉妬しようかしら♪でもそれじゃまたエディの傍に女の人が来るって事よね…。
だめだめ、それは認めない。エディはいつまでも私だけの王子様でいてくれなくっちゃ」
私の言葉を聞き更に嬉しそうに目を細めると、耳元で囁いてくる。
「君だけを愛している。
子供の頃から君しか見えていない、俺のお姫様」
私と彼のつかの間の休息は三か月間の溝を一瞬で埋めるに十分なものだった。
もう何があろうと惑わされ、翻弄される事は絶対にない。
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