英雄の平凡な妻

矢野りと

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23.救出②

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※残酷な描写があります。
苦手な方はご注意ください。




*****************************


ブッシューーー!ボトリ……。

「ギャーーー!!わ、私のてが…手が…。
あ、あああ…っぐ…、い、いやーー!
な、なんで…、うっぐ……。
ヒッ…、ヒッ、い、痛いー!!」

アイラ王女は先のない右手を凝視しながら痛みにのたうち回りながら泣き叫んでいる。
そして床に転がる短剣を握ったままの王女の右手首。それはもちろん腕とはもう繋がっていない…。
迷うことなく王女の手を切り落とした騎士団長は『たかが右手首一つだけです』と淡々と言って手首のない右手に止血処理の為の布を巻いている。


「見なくていい。目を閉じていろ、すぐに終わらせる」

残虐な光景と血の臭いに酔いふらつく私にエディは労わるように声を掛けてくる。その言葉に甘えてルイにもこの惨劇を見せない様に背を向け固く目を閉じる。

エディの言葉通り決着は直ぐについた。ほとんどの男達は息絶え、生き残った数人も深手を負い痛みに悶えている。
そしてアイラ王女は叫び過ぎたのか声も枯れているが、それでもまだ喚き散らしている。

「ヒッヒーー!手が、手が…。
私の右手が……ヒック、グッ…。
なんて事を…こんなこと…ゆ、許されないわ…よ。
我が国の王女である私にこんな事して無事でいられると思うの!
絶対に同じ目、いえ、お前達全員の四肢を切り刻んで、家畜の餌にしてやるー!
うっっぐ…、ヒッ、痛…い」

「クックク、まだそんな事を言っているのかい。
本当にお前は呆れるほど愚かだな。
私の目の前で罪が露見したんだよ。
もうお前は終わりだ、アイラ」

王女を呼び捨てにし呆れたよう口調で話すのはフードを目深に被った騎士だった。罪を犯した王女とはいえ呼び捨てにする臣下などいないはず、それならばこの人は……。

---キアヌ第一王子様…?
私の予感は当たっていた。


「キ、キアヌお兄様?」

「ああ残念だけどお前の兄なのは事実だな」

「あ…あ、こ、これは、ち、違う。私じゃなくて…勝手に、」

「黙れ!見苦しいぞ、口を閉じていろ!」

フードを外したその顔は我が国のキアヌ第一王子その人だった。

私が慌てて臣下の礼を取ろうとすると『いらないから』とぶっきらぼうにエディは言い、私をルイごと横抱きにし部屋から出て行こうとする。

「ちょっと待って、エディ。そんな勝手なことをしては、」

「構わない。エド、先にキャサリンとルイを連れて屋敷へ戻れ、そして久しぶりに家族水入らずで過ごしていろ。
後の事は俺達がちゃんと処理するから問題はない。
今まで大切な家族を犠牲にして頑張っていたのだから、勿論いいですよね?
まさか駄目と言ったりしませんよね?
キ・ア・ヌ・様!」

兄は大胆にもキアヌ第一王子に対して臣下らしからぬ高圧的とも取れる態度で接している。『これは不味いのでは…』という私の心配を余所に兄は笑いながら『キアヌ第一王子様と言いましょうか~』と惚けたことを言っている。もう意味が分からない…。

だがキアヌ第一王子様は不敬だと怒ることなく、

「ったく。私が言うべきセリフを勝手に言うな、ジェームズ。
だがその通りだ。エドワード・キャンベル、まずは大変な目にあったキャンベル伯爵夫人ともどもゆっくり休んでくれ。
詳細は後日王宮で説明するので、その呼び出しがあるまで夫婦でしっかりと今までの時間を取り戻すように」

直接キアヌ第一王子様からお言葉を掛けられるのは初めてのうえ、エディに抱かれているので丁寧な礼も出来ず『有り難う…ございます』と言うだけで精一杯だった。
だがそんな私と無言なまま頭を下げるだけのエディを誰も咎めることはなかった。

---いったいこれは……どういうことなの?

私はエディに教えて欲しいという表情を向けるが、エディは怒っっているようで何も答えてはくれない。
『まずは帰ろう』とだけ言うとすぐに私とルイを抱いたままその場を去ってしまった。
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