英雄の平凡な妻

矢野りと

文字の大きさ
上 下
23 / 36

22.救出①

しおりを挟む
私はルイをしっかりと抱き締め『大丈夫よ。お母様が絶対に守るから』と泣いているルイに囁き、無謀にも目の前に迫っている男達に体当たりをして逃げ道を作ろうとしたその時、

ガッシャーーン!バリン、パリーン!

扉を乱暴に開ける音、剣で窓を割る音と同時にその部屋の中に入ってきた四人の男が私とルイを背にして周りを取り囲んだ。

---えっ?何が起こったの?

そして少し強引でそれでいて真綿に包むように、大きな身体が私とルイを優しく包み込む。
この香り知っているわ、三か月前までいつも私の隣にあった愛おしい人の香り。

「エ、エディ?」

「ああ」

それだけ言うと愛おしそうに私とルイに軽く口づけを落としてから、アイラ王女を殺さんとばかりに睨みつける。

「ギリッ…。許さん!」

そんなに激怒した彼を見たのは初めてのことで、私達を大切に想ってくれているのがはっきりと伝わってきて、こんな時だけど嬉しくてたまらない。
---私達の絆はなにも変わってない…。
愛しているわエディ。


エディと共に入ってきたのは騎士団長と兄であるジェームズ、そしてフードを目深に被り顔が見えない細身の騎士だった。
だがこちらは四人でアイラ王女に従っている男達は10人以上。明らかにこちらが不利な状況には変わりない。
その状況はアイラ王女も分かっているので『ふん!』と鼻を鳴らして余裕の表情を浮かべている。

私がルイを抱き締めながら必死で身体の震えを止めようとしていると、

「大丈夫だ。キャッシーとルイは必ず俺が守るから」
「そうだぞ。俺が可愛い妹と甥っ子を守れない兄だと思うのか。安心しろ、すぐに片づけるからな」

エディと兄が心強い言葉を言って安心させようとしてくれる。だがアイラ王女はそれを聞いて『馬鹿ね~』と言いながら薄ら笑いをする。その様は魔女のように薄気味悪いものだった。

「何を言っているの?
お前達はみんなここで死ぬのよ。
エドワード、貴方にはがっかりさせられたわ。
ダイヤと石っころの違いも分からない男だったなんてね。
そんな馬鹿な男が英雄だなんて笑っちゃう、もういらないわ。
さあ、こいつらをみんな殺しておしまい!」

アイラ王女の命令を受け一斉に男達が剣を手に襲い掛かっている。

キッーーン!ガッキーン!
ズサッ、バッシュゥーー。

エディは私達の盾になるように一歩も傍から離れずに戦い、残りの三人は所狭しと次々に敵を容赦なく倒していく。多勢に無勢だったけれども、その実力差ははっきりしていた。
10人以上いた敵はもう数人しか立っておらず、後はみな床に倒れている。
自分が不利な状況なのを悟った王女は目を吊り上げ叫ぶ。

「王女の私に歯向かって許されると思っているの!
この愚か者が!
絶対に許さない……!」

追いつめられたアイラ王女は隠し持っていた短剣を取り出しルディに庇われている私目掛けて投げつけてきた。

シュバッーー。キッーーーン!

放たれた短剣は目的を達することなくエディの剣に叩き落とされ床に落ちていく。

ホッとしたのも束の間、エディが近づいてきた男と剣で対峙している隙をつき、更に隠し持って二本目の短剣を投げつけようと王女はその手を大きく振り被る。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

騎士の妻ではいられない

Rj
恋愛
騎士の娘として育ったリンダは騎士とは結婚しないと決めていた。しかし幼馴染みで騎士のイーサンと結婚したリンダ。結婚した日に新郎は非常召集され、新婦のリンダは結婚を祝う宴に一人残された。二年目の結婚記念日に戻らない夫を待つリンダはもう騎士の妻ではいられないと心を決める。 全23話。 2024/1/29 全体的な加筆修正をしました。話の内容に変わりはありません。 イーサンが主人公の続編『騎士の妻でいてほしい 』(https://www.alphapolis.co.jp/novel/96163257/36727666)があります。

ブチ切れ公爵令嬢

Ryo-k
恋愛
突然の婚約破棄宣言に、公爵令嬢アレクサンドラ・ベルナールは、画面の限界に達した。 「うっさいな!! 少し黙れ! アホ王子!」 ※完結まで執筆済み

結婚5年目の仮面夫婦ですが、そろそろ限界のようです!?

宮永レン
恋愛
 没落したアルブレヒト伯爵家を援助すると声をかけてきたのは、成り上がり貴族と呼ばれるヴィルジール・シリングス子爵。援助の条件とは一人娘のミネットを妻にすること。  ミネットは形だけの結婚を申し出るが、ヴィルジールからは仕事に支障が出ると困るので外では仲の良い夫婦を演じてほしいと告げられる。  仮面夫婦としての生活を続けるうちに二人の心には変化が生まれるが……

[電子書籍化]好きな人が幸せならそれでいいと、そう思っていました。

はるきりょう
恋愛
『 好きな人が幸せならそれでいいと、そう思っていました。』がシーモアさんで、電子書籍化することになりました!!!! 本編(公開のものを加筆・校正)→後日談(公開のものを加筆・校正)→最新話→シーモア特典SSの時系列です。本編+後日談は約2万字弱加筆してあります!電子書籍読んでいただければ幸いです!! ※分かりずらいので、アダム視点もこちらに移しました!アダム視点のみは非公開にさせてもらいます。 オリビアは自分にできる一番の笑顔をジェイムズに見せる。それは本当の気持ちだった。強がりと言われればそうかもしれないけれど。でもオリビアは心から思うのだ。 好きな人が幸せであることが一番幸せだと。 「……そう。…君はこれからどうするの?」 「お伝えし忘れておりました。私、婚約者候補となりましたの。皇太子殿下の」 大好きな婚約者の幸せを願い、身を引いたオリビアが皇太子殿下の婚約者候補となり、新たな恋をする話。

酒の席での戯言ですのよ。

ぽんぽこ狸
恋愛
 成人前の令嬢であるリディアは、婚約者であるオーウェンの部屋から聞こえてくる自分の悪口にただ耳を澄ませていた。  何度もやめてほしいと言っていて、両親にも訴えているのに彼らは総じて酒の席での戯言だから流せばいいと口にする。  そんな彼らに、リディアは成人を迎えた日の晩餐会で、仕返しをするのだった。

旦那様は離縁をお望みでしょうか

村上かおり
恋愛
 ルーベンス子爵家の三女、バーバラはアルトワイス伯爵家の次男であるリカルドと22歳の時に結婚した。  けれど最初の顔合わせの時から、リカルドは不機嫌丸出しで、王都に来てもバーバラを家に一人残して帰ってくる事もなかった。  バーバラは行き遅れと言われていた自分との政略結婚が気に入らないだろうと思いつつも、いずれはリカルドともいい関係を築けるのではないかと待ち続けていたが。

貴方が側妃を望んだのです

cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。 「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。 誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。 ※2022年6月12日。一部書き足しました。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。  表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。 ※更新していくうえでタグは幾つか増えます。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

もっと傲慢でいてください、殿下。──わたしのために。

ふまさ
恋愛
「クラリス。すまないが、今日も仕事を頼まれてくれないか?」  王立学園に入学して十ヶ月が経った放課後。生徒会室に向かう途中の廊下で、この国の王子であるイライジャが、並んで歩く婚約者のクラリスに言った。クラリスが、ですが、と困ったように呟く。 「やはり、生徒会長であるイライジャ殿下に与えられた仕事ですので、ご自分でなされたほうが、殿下のためにもよろしいのではないでしょうか……?」 「そうしたいのはやまやまだが、側妃候補のご令嬢たちと、お茶をする約束をしてしまったんだ。ぼくが王となったときのためにも、愛想はよくしていた方がいいだろう?」 「……それはそうかもしれませんが」 「クラリス。まだぐだぐだ言うようなら──わかっているよね?」  イライジャは足を止め、クラリスに一歩、近付いた。 「王子であるぼくの命に逆らうのなら、きみとの婚約は、破棄させてもらうよ?」  こう言えば、イライジャを愛しているクラリスが、どんな頼み事も断れないとわかったうえでの脅しだった。現に、クラリスは焦ったように顔をあげた。 「そ、それは嫌です!」 「うん。なら、お願いするね。大丈夫。ぼくが一番に愛しているのは、きみだから。それだけは信じて」  イライジャが抱き締めると、クラリスは、はい、と嬉しそうに笑った。  ──ああ。何て扱いやすく、便利な婚約者なのだろう。  イライジャはそっと、口角をあげた。  だが。  そんなイライジャの学園生活は、それから僅か二ヶ月後に、幕を閉じることになる。

処理中です...