英雄の平凡な妻

矢野りと

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21.罠②

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あれから暫く馬車は走り続け、まったく知らない場所でとまった。今は森の中の小さな屋敷の一部屋に私とルイは閉じ込められている。

誰が何の目的で私達を誘拐したかは分からないが、屋敷の者が異変に気づき探し出してくれるまでは何としてもルイを守らなければ。
すやすやと寝ているルイの頬にそっと口づけをする。
---絶対にルイだけは命に代えても守って見せる。


ガチャリッ!ギ、ギギー。
ノックもなしに扉が開き、10人ほどの男達を従えてベールで顔を隠した女が部屋へと入ってきた。どうやらその様子からこの女がこの中で一番身分が高い者のようだ。
私が注意深く様子を窺っていると、女が声を弾ませ話し掛けてきた。

「あらあら、怯えているのかしら。ふっふふ、その縮こまったみすぼらしい姿…なんとも憐れね。まるで猫に追いつめられた貧相な鼠みたいだわ」

「……っ!」

ベールで顔が見えなくても分かる、この声は我が国の第二王女のものだ。

---なぜアイラ王女がここに…?ま、まさか私達を攫うように指示を出したのが王女なの…。

「ふふふ、本当はこんな汚い所に来るつもりはなかったけれども、お前の苦しむ姿を見たくなってね。
あら?自分がどうしてこんな目に合っているか分からないといった表情をしているわね。

だから馬鹿な女は嫌なのよ!

お前の罪を教えてあげるわ!

何の取柄もない女のくせに、英雄の妻という地位にしがみつくなんて許せないのよ。
英雄となったエドワードに相応しいのは王女である私だけよ。それなのに邪魔ばかりするお前の存在は目障りでしかない!
本当なら辱めて妻の座に居座ることが出来ないようにする予定だったけど、それだけでは馬鹿なお前は反省など出来ないでしょう?
だ・か・ら、まずその子供を目の前で殺してあげるわ」

目の前で恐ろしいほど勝手な言い分を告げてくる王女に恐怖を覚え、身体の震えが止まらない。

「や、やめてください!!ルイは関係ないはずです。それにまだ赤ちゃんだから見逃して、」

「駄目よ、そうでもしないと私の味わった悲しみをお前は理解できないでしょう?
うっふふふ、楽しみね。お前は大切な子供を目の前で奪われるとどんな風に壊れていくのかしら~♪」

「……こんなの正気の沙汰じゃないわ。
く、狂っている…」

バッシーーン。

王女に手加減なしで頬を平手で打たれ、横に倒れてしまう。その衝撃で静かに眠っていたルイが目を覚まし、愚図り始める。

「ふぇ、ふぇ…えーん。ダーダー」

「ああ全く煩い子供ね。さっさと始末してちょうだい!」

「「「はい、アイラ様」」」

アイラ王女の一言で男達が私達の方へとにやにやしながら歩いてくる。
この部屋に私の味方は誰もいない。
でもルイがいる限り諦めると言う選択肢は決してない。

---どうにかしてルイだけは!
ルイだけは絶対に助けなければ!

だが狭い部屋には武器となるものはなく逃げ場はどこにもなかった。
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