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17.夜会前~エドワード視点~
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「……もう一度おっしゃってもらえますか王女様」
「ええいいわよ。今日の夜会の私のエスコート役をしてちょうだいね」
いつも無理難題を押し付けてくる王女だが、今日のそれは到底受け入れられない命令で、思わず聞き返してしまった。俺が妻と共に王家夜会に出席することは数か月前から決まっていた事で、今王女に言われるまで予定の変更を打診さえされていなかった。
---クソッ。なんで当日の昼になってそんな事を言い始める!いい加減にしろ!
「しかし王女様のエスコートは従兄弟にあたる公爵家令息に決まっていたはずです。今更変更など出来ません。それに私も妻と一緒に夜会に参加する予定で今夜は非番になっております」
「従兄弟だったら大丈夫かと思ってエスコート役をお願いしていたけど、やはり男性の手を取ると震えが止まらなくて……。やはり私を助けてくれたお前にしかこの身は任せられないみたいだわ」
如何にも儚い女性ですという顔をして俺の方を見ているがそんな態度は通じない。王女が夜な夜なお気に入りを相手に楽しんでいるのは知っている。
---なにが震えがだ!毎晩いろんな男を閨に引きずり込んでいるくせに、見え透いた嘘も大概にしてくれ。
「では無理はなさらずに今夜は欠席してはいかがでしょうか?そのような事情なら陛下も許して下さるはずです」
---だったら夜会を欠席しろ!
俺は無駄だと知りつつもアイラ王女に欠席を進言してみるが、やはり華やかな舞台が好きな王女がその提案を了承するはずもなかった。
「私もそうしたいけれども、夜会への出席は王女の大事な仕事だもの欠席などしないわ。
だからお前も仕事を優先させてちょうだい。大丈夫よ、キャンベル伯爵家には先ほど伝令を出したから心配いらないわ」
「えっ?すでに伝令を出しているのですか…」
「だってお前が私より優先することなどないでしょう♪分かっているから、お前が屋敷に連絡する手間を省いてあげたの。うふふ、お礼なんていいわよ」
---この勘違い女が!王女でなかったら…消してやるのに…ギリッ。
俺は『承知いたしました』とだけ言って王女の部屋を出た。
---なんなんだ、あの女は。クソッ!
足早に歩きながら騎士団にある自分の執務室に向かう。きっと王女の伝令は事務的な事しか伝えないはずだ、または余計な事まで言っているかもしれない。
キャッシーは俺と一緒に王家の夜会に出るのを何か月も前から楽しみにしていた、俺の色のドレスを着ると張り切ってくれていたのに…。俺は冷たい伝令の言葉ではなく、自分の言葉で一緒に参加できない事を謝りたくて手紙を書いていると、ノックと共に騎士団長が部屋に入ってきた。
チラリと騎士団長の方を見たが無視をすることにした。
「おいおい、上司にその態度はないだろうエドワード」
「今、忙しいので……」
「分かっている、急遽護衛兼エスコートをやる事になったんだろう。すまんな、お前も奥方と一緒に参加する予定だったんだろうに、」
「だ・か・ら、今妻に手紙を書いているんです。誤解されたまま碌に会えないうえ当日夜会のエスコートをすっぽかすんです。いつ妻が出て行ってもおかしくない状況なんですよ!
この意味はお分かりですか!団長」
「……ああ分かる気がする」
『それなら邪魔するな』オーラを出し、謝罪と愛していると書いた手紙に急ぎ封をする。俺がその手紙を騎士団の下の者に頼もうとしたら、
「それは屋敷に届けさせたらいいんだろう。俺が預かるからお前は王女の所に行け。なんか癇癪を起こしているらしい」
あの王女はいつもそうだ、俺が傍から離れると『怖い』と嘘を吐き、喚き散らす。あれが我が国の王女であるとは信じたくもないが…現実は変えられない。
俺は自分でも照れ臭くなるような言葉を書いた手紙を『よろしくお願いします』と団長に託し、王女の元へと戻っていた。
初めて書いた恋文のような手紙が妻に渡ることを信じて…。
だが俺の去った後に『…済まんな、上からの命令なんだ』と呟きながらその手紙は団長の机の奥に仕舞い込まれているとは知らなかった。
「ええいいわよ。今日の夜会の私のエスコート役をしてちょうだいね」
いつも無理難題を押し付けてくる王女だが、今日のそれは到底受け入れられない命令で、思わず聞き返してしまった。俺が妻と共に王家夜会に出席することは数か月前から決まっていた事で、今王女に言われるまで予定の変更を打診さえされていなかった。
---クソッ。なんで当日の昼になってそんな事を言い始める!いい加減にしろ!
「しかし王女様のエスコートは従兄弟にあたる公爵家令息に決まっていたはずです。今更変更など出来ません。それに私も妻と一緒に夜会に参加する予定で今夜は非番になっております」
「従兄弟だったら大丈夫かと思ってエスコート役をお願いしていたけど、やはり男性の手を取ると震えが止まらなくて……。やはり私を助けてくれたお前にしかこの身は任せられないみたいだわ」
如何にも儚い女性ですという顔をして俺の方を見ているがそんな態度は通じない。王女が夜な夜なお気に入りを相手に楽しんでいるのは知っている。
---なにが震えがだ!毎晩いろんな男を閨に引きずり込んでいるくせに、見え透いた嘘も大概にしてくれ。
「では無理はなさらずに今夜は欠席してはいかがでしょうか?そのような事情なら陛下も許して下さるはずです」
---だったら夜会を欠席しろ!
俺は無駄だと知りつつもアイラ王女に欠席を進言してみるが、やはり華やかな舞台が好きな王女がその提案を了承するはずもなかった。
「私もそうしたいけれども、夜会への出席は王女の大事な仕事だもの欠席などしないわ。
だからお前も仕事を優先させてちょうだい。大丈夫よ、キャンベル伯爵家には先ほど伝令を出したから心配いらないわ」
「えっ?すでに伝令を出しているのですか…」
「だってお前が私より優先することなどないでしょう♪分かっているから、お前が屋敷に連絡する手間を省いてあげたの。うふふ、お礼なんていいわよ」
---この勘違い女が!王女でなかったら…消してやるのに…ギリッ。
俺は『承知いたしました』とだけ言って王女の部屋を出た。
---なんなんだ、あの女は。クソッ!
足早に歩きながら騎士団にある自分の執務室に向かう。きっと王女の伝令は事務的な事しか伝えないはずだ、または余計な事まで言っているかもしれない。
キャッシーは俺と一緒に王家の夜会に出るのを何か月も前から楽しみにしていた、俺の色のドレスを着ると張り切ってくれていたのに…。俺は冷たい伝令の言葉ではなく、自分の言葉で一緒に参加できない事を謝りたくて手紙を書いていると、ノックと共に騎士団長が部屋に入ってきた。
チラリと騎士団長の方を見たが無視をすることにした。
「おいおい、上司にその態度はないだろうエドワード」
「今、忙しいので……」
「分かっている、急遽護衛兼エスコートをやる事になったんだろう。すまんな、お前も奥方と一緒に参加する予定だったんだろうに、」
「だ・か・ら、今妻に手紙を書いているんです。誤解されたまま碌に会えないうえ当日夜会のエスコートをすっぽかすんです。いつ妻が出て行ってもおかしくない状況なんですよ!
この意味はお分かりですか!団長」
「……ああ分かる気がする」
『それなら邪魔するな』オーラを出し、謝罪と愛していると書いた手紙に急ぎ封をする。俺がその手紙を騎士団の下の者に頼もうとしたら、
「それは屋敷に届けさせたらいいんだろう。俺が預かるからお前は王女の所に行け。なんか癇癪を起こしているらしい」
あの王女はいつもそうだ、俺が傍から離れると『怖い』と嘘を吐き、喚き散らす。あれが我が国の王女であるとは信じたくもないが…現実は変えられない。
俺は自分でも照れ臭くなるような言葉を書いた手紙を『よろしくお願いします』と団長に託し、王女の元へと戻っていた。
初めて書いた恋文のような手紙が妻に渡ることを信じて…。
だが俺の去った後に『…済まんな、上からの命令なんだ』と呟きながらその手紙は団長の机の奥に仕舞い込まれているとは知らなかった。
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