英雄の平凡な妻

矢野りと

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15.夜会②

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アイラ王女のドレスの色使いに私だけでなく周りの貴族達も驚きを隠せず、ざわついている。

『おい、あれを見ろ。隣のキャンベル伯爵の色を纏っているぞ』
『噂は聞いていたが…。王女は未婚で伯爵は既婚者だぞ。あそこまで大胆に主張するとはちょっと』
『いくらなんでもあれはない』

周りから挨拶を受けながら歩いているアイラ王女が纏っているドレスの色は私と同じエディの色だった。

---えっ、有り得ないわ。なんで公の場にそんな色を…。

その色が王女の婚約者の色とたまたま同じだったのなら問題はない。だが王女には未だ婚約者はおらず、その隣には噂の恋人を護衛という言い訳を使い侍らせている。そしてその色のドレスを周りに見せつける様に纏うなど…普通ならやらない。

ましてやアイラ王女は『という公式な立場』におり貴族のお手本となるべき存在である王族の一員だ。

それなのにキャンベル伯爵の妻も出席している夜会で、その妻を差し置いてエスコートをさせたうえ色まで纏っている行動に常識ある貴族達は眉を顰めている。もしこれが王女でなかったら誰かしらから『まるで淫売のようだ』と陰で言われてしまうほどの非常識な行動だった。

だがそんな周りの視線に気づかないのかアイラ王女は、同じ色を纏って一人で壁際に立つ私に見せつける様にエディの腕を引っ張り自分の傍に引き寄せる。

「さあ、エドワード踊りましょう」

「私は護衛を兼ねてこの場におりますので、他の者とお願いします」

「あら駄目よ。私はまだあの事件から立ち直っていないのよ。他の者の手など怖くて握れないわ。
それに護衛なんだから誰よりも私の近くにいてちょうだいな。夜会の間中は決して離れては駄目よ、私だけを見なさい。
これは大切な仕事なんだから真面目なお前は疎かになどしないでしょう?うふふ」

「……承知いたしました」

王女が顔を寄せてエディに何かを話した後、二人は手を取り優雅に踊り始める。

彼が一瞬こちらを見て目が合ったように感じたが、その後は私の方を見ることはなかった。
妻の存在など気にもならないのか護衛という名のエスコートに完璧に徹している。

英雄の妻が夫をアイラ王女に取られて壁の華になっている様子に満足したのか、周囲からの視線は厳しいものから憐れんだものに変化しているのを感じた。

どうやら平凡な私がそれにふさわしい境遇になったと判断し妬みや僻みが消えたらしい。…本当に勝手な人達だ。
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