英雄の平凡な妻

矢野りと

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14.夜会①

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兄と会話した日から随分前向きな気持ちを持つようになれた。エディと会えたら彼自身の言動のみを信じてみようと思っていたけれども、彼と会うこともその気持ちを伝える機会もないまま今日まで来てしまった。

今日は王家主催の夜会が王宮で開催される日。
国のすべての貴族が招待され、王家に忠誠を示す為にもほとんどの者は参加する。私も勿論キャンベル伯爵夫人として参加するが、エスコートはいない。

勿論これは通常なら有り得ないこと…。

本来であれば夫であるエディのエスコートを受け一緒に参加する予定であったが、アイラ王女の護衛兼エスコートの仕事が入り、一人での参加を余儀なくされている。
親戚にでもエスコートを頼む方法もあったが、使者を通して連絡を受けたのが当日の昼過ぎだったのでそれも時間的に難しかった。

---今夜も主役級の注目を浴びるわね、悪い意味で…。はぁ~気が重いわ。行きたくないな…。



ただの夜会なら急病と偽って行かない事も可能だが、王家主催ならば臣下として行かなくてはならない。
私は落ち込む気分を奮い立たせて一人で会場入りをすると、やはりそこはでは予想通りの歓迎が待ち受けていた。

『あら、ご覧あそばせ。またお一人よ』
『お可哀想に…クスクス』
『英雄の妻になった途端にあれでは悲惨ですわね』

にこやかに挨拶した後に囁かれる悪意。
楽しみにしていた華やかな夜会は今の私にとっては酷く居心地の悪い残酷な場所でしかなかった。

降り注ぐような人々の好奇な視線。
『英雄の妻に相応しくない』だけでなく『英雄になった夫に見向きもされない妻』という評価まで加わったようだ。

扇で口元をわざとらしく隠し微かに聞こえる声で何かを話している人はみんな私を嘲笑っているように見えてしまう…。
もしかしたら違うかもしれないが、もう周囲はすべて敵のようにしか思えない。

---ふぅ、まだ来たばかりなのに疲れたわ。…もう帰りたい。
エディに会えてもきっと護衛の仕事中だから話も出来ないだろうし。それに今日のことも使者からの連絡だけで彼からは手紙一つ来ていない。会えずに帰っても気にしないわ、きっと…。

最近は前向きな気持ちを保っていたのに、それもこの場に来てから萎んでしまっている。

陛下の挨拶が終わったら早々に引き上げようと考えていたまさにその時、煌びやかなドレスに身を包んだ可憐なアイラ王女がエスコート役のエディと共に仲睦まじい様子で会場へと入ってきた。

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