英雄の平凡な妻

矢野りと

文字の大きさ
上 下
14 / 36

13.助言③

しおりを挟む
柔らかくなった私の表情を見て、少し安心したような兄は話を続けてくる。

「それとエドが何も言わないと言っているが、あいつは『王女の恋人じゃない』と言って、『だ』と教えたんだろう。それが事実なんじゃないか。だからそれ以上何も言わない。
エドは口下手の見本のような奴だけどその目で語るだろう?お前から見てどう見えた?」

「えっ…。そういえば私、噂に振り回されてちゃんとエディを見ていなかったかも…。
彼の言葉は聞いていたけど…冷静でいられなくて感情をぶつけていただけで。
いつもなら彼とちゃんと向き合ってきたのに余裕が無くて…。
私…ちゃんと見てあげなかった」

---そうだ、エディは甘い言葉さえ囁かないし、プロポーズの言葉さえあれだったけど、私は彼の瞳や態度を見てちゃんと今まで判断で来ていたんだ…。
そんな大切な事も忘れるほど噂や悪意に振り回されていた…。
何が本当かも分からないのに彼を責めてばかりいた…。
何をやっているんだろう…私は。


自分の失敗に気づき落ち込んでいると、

「こら、勝手に落ち込むな。キャサリンは全然悪くないぞ。いきなり『英雄の妻』になり悪意に晒され心身ともに疲れていたんだ。そんな時は誰しもいつもと同じようにはいられない。
それが普通なんだ。
だ・か・ら、これからゆっくりと自分の目で見ればいい。そして冷静に判断出来る時に考えるんだ。
急がなくていいからな。悪意に振り回されるな、自分の目で確かめるそれだけでいいんだ」

「有り難う、お兄様。なるべく冷静でいられるように頑張ってみるわ」

兄と話したことによって、なんだか自分が考えていた最悪の事態になっていないのではないかという希望を持つことができ、少し前向きになる事が出来た。

---やはりお兄様は頼りになるわ、小さい頃から私をさり気なく助けてくれる。


「まあ色々と外野が煩いから冷静でいるのも難しいとは思うが、その時は俺に任せてみろ。裏技を使って全員王宮のシャンデリアに吊るしてやる。そろそろハロウィンも近いし丁度いい装飾になるんじゃないか?うん、我ながら良いアイディアだな♪」

「お兄様!な・り・ま・せ・ん」

「おっ、なんだもう冷静な判断が出来るようになったか。そうだよな、あんなピーピーと煩い奴らじゃ装飾としての価値もないよな。
流石は俺の自慢の妹だ、天才ルイの母親だ、判断が的確だ!」

私が涙を出るほど笑っていると、

「うん、それでいい。それじゃ可愛いルイとも遊べたし帰るかな。お茶ご馳走様」

と言って兄は屋敷を後にした。甥っ子のルイだけでなく、妹である私にも本当に甘いんだから。


兄がかえってから暫く経って気づいたことだが、兄の優しさに心が救われたせいか避けてきたエディと私の関係や色々な事についても前を見る勇気が私の中で沸いてきていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

騎士の妻ではいられない

Rj
恋愛
騎士の娘として育ったリンダは騎士とは結婚しないと決めていた。しかし幼馴染みで騎士のイーサンと結婚したリンダ。結婚した日に新郎は非常召集され、新婦のリンダは結婚を祝う宴に一人残された。二年目の結婚記念日に戻らない夫を待つリンダはもう騎士の妻ではいられないと心を決める。 全23話。 2024/1/29 全体的な加筆修正をしました。話の内容に変わりはありません。 イーサンが主人公の続編『騎士の妻でいてほしい 』(https://www.alphapolis.co.jp/novel/96163257/36727666)があります。

結婚5年目の仮面夫婦ですが、そろそろ限界のようです!?

宮永レン
恋愛
 没落したアルブレヒト伯爵家を援助すると声をかけてきたのは、成り上がり貴族と呼ばれるヴィルジール・シリングス子爵。援助の条件とは一人娘のミネットを妻にすること。  ミネットは形だけの結婚を申し出るが、ヴィルジールからは仕事に支障が出ると困るので外では仲の良い夫婦を演じてほしいと告げられる。  仮面夫婦としての生活を続けるうちに二人の心には変化が生まれるが……

[電子書籍化]好きな人が幸せならそれでいいと、そう思っていました。

はるきりょう
恋愛
『 好きな人が幸せならそれでいいと、そう思っていました。』がシーモアさんで、電子書籍化することになりました!!!! 本編(公開のものを加筆・校正)→後日談(公開のものを加筆・校正)→最新話→シーモア特典SSの時系列です。本編+後日談は約2万字弱加筆してあります!電子書籍読んでいただければ幸いです!! ※分かりずらいので、アダム視点もこちらに移しました!アダム視点のみは非公開にさせてもらいます。 オリビアは自分にできる一番の笑顔をジェイムズに見せる。それは本当の気持ちだった。強がりと言われればそうかもしれないけれど。でもオリビアは心から思うのだ。 好きな人が幸せであることが一番幸せだと。 「……そう。…君はこれからどうするの?」 「お伝えし忘れておりました。私、婚約者候補となりましたの。皇太子殿下の」 大好きな婚約者の幸せを願い、身を引いたオリビアが皇太子殿下の婚約者候補となり、新たな恋をする話。

旦那様は離縁をお望みでしょうか

村上かおり
恋愛
 ルーベンス子爵家の三女、バーバラはアルトワイス伯爵家の次男であるリカルドと22歳の時に結婚した。  けれど最初の顔合わせの時から、リカルドは不機嫌丸出しで、王都に来てもバーバラを家に一人残して帰ってくる事もなかった。  バーバラは行き遅れと言われていた自分との政略結婚が気に入らないだろうと思いつつも、いずれはリカルドともいい関係を築けるのではないかと待ち続けていたが。

貴方が側妃を望んだのです

cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。 「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。 誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。 ※2022年6月12日。一部書き足しました。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。  表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。 ※更新していくうえでタグは幾つか増えます。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

もっと傲慢でいてください、殿下。──わたしのために。

ふまさ
恋愛
「クラリス。すまないが、今日も仕事を頼まれてくれないか?」  王立学園に入学して十ヶ月が経った放課後。生徒会室に向かう途中の廊下で、この国の王子であるイライジャが、並んで歩く婚約者のクラリスに言った。クラリスが、ですが、と困ったように呟く。 「やはり、生徒会長であるイライジャ殿下に与えられた仕事ですので、ご自分でなされたほうが、殿下のためにもよろしいのではないでしょうか……?」 「そうしたいのはやまやまだが、側妃候補のご令嬢たちと、お茶をする約束をしてしまったんだ。ぼくが王となったときのためにも、愛想はよくしていた方がいいだろう?」 「……それはそうかもしれませんが」 「クラリス。まだぐだぐだ言うようなら──わかっているよね?」  イライジャは足を止め、クラリスに一歩、近付いた。 「王子であるぼくの命に逆らうのなら、きみとの婚約は、破棄させてもらうよ?」  こう言えば、イライジャを愛しているクラリスが、どんな頼み事も断れないとわかったうえでの脅しだった。現に、クラリスは焦ったように顔をあげた。 「そ、それは嫌です!」 「うん。なら、お願いするね。大丈夫。ぼくが一番に愛しているのは、きみだから。それだけは信じて」  イライジャが抱き締めると、クラリスは、はい、と嬉しそうに笑った。  ──ああ。何て扱いやすく、便利な婚約者なのだろう。  イライジャはそっと、口角をあげた。  だが。  そんなイライジャの学園生活は、それから僅か二ヶ月後に、幕を閉じることになる。

笑わない妻を娶りました

mios
恋愛
伯爵家嫡男であるスタン・タイロンは、伯爵家を継ぐ際に妻を娶ることにした。 同じ伯爵位で、友人であるオリバー・クレンズの従姉妹で笑わないことから氷の女神とも呼ばれているミスティア・ドゥーラ嬢。 彼女は美しく、スタンは一目惚れをし、トントン拍子に婚約・結婚することになったのだが。

忙しい男

菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。 「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」 「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」 すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。 ※ハッピーエンドです かなりやきもきさせてしまうと思います。 どうか温かい目でみてやってくださいね。 ※本編完結しました(2019/07/15) スピンオフ &番外編 【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19) 改稿 (2020/01/01) 本編のみカクヨムさんでも公開しました。

処理中です...