英雄の平凡な妻

矢野りと

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12.助言②

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「キャサリン、お前を取り巻く状況は俺も承知している。本当に頑張っているな、偉いぞ。流石俺の自慢の妹だ。
ところでエドとの仲はどうなんだ?やはり前と同じ様に上手くいってるわけないか…」

「お兄様のことだから私の社交界で針の筵のような状況だけではなく、あの噂やエディがほとんど帰ってこない事実も知っているのでしょう?
それなのにエディとの仲をわざわざ聞くの…」

「ああ、勿論だ。お前がどう感じているかは重要な事だからな。状況やお前の様子から推測できるがそれが真実とは限らないだろう。俺はお前の口から直接聞きたいんだよ。ほら、遠慮せずにぶちまけてみろ」

兄は前のめりになって、渋る私に話を促してくる。こういう時の兄は絶対に全てを聞くまで諦めないのをよく知っている。…話すしかない…かな。

遊び疲れて寝てしまったルイを抱きながら私は今までのことや誰にも話せなかった気持ちや夫との間にある溝など、包み隠すことなく感情のままに打ち明けてみた。


「うーん。つまりお前は何も話してくれないエドを信じられないでいるってことか…」

「そうよ。エディは王女の奔放な噂が事実だとは認めたけれども、自分に関することは『仕事だ』の一辺倒でそれ以上は何も言わないから…。酷い噂を耳にするのも辛いし、彼が何も言ってくれない状況も苦しくて仕方がないの。
どうすればいいか分からないし真実を知るのも怖いわ…」

私の胸の内を聞いて兄はうんうんと何度も『お前のその気持ち分かるぞ』と頷いてくれている。

「だがな社交界の噂は真実もあれば嘘もある。これはキャサリンも嫌というほど知っているよな?」

兄が当たり前のことを真顔で問うてくる。
勿論知っている。これでも元伯爵令嬢と現伯爵夫人なのだから、噂を鵜吞みになんてしない。噂をすべて真実だと信じたら痛い目に合うのをちゃんと理解しているから。
私は肯定の意味を込めて黙って頷いた。

「それならエドの噂も真実だと思い込むな。あれはあくまでも噂で、『英雄の妻を攻撃する手段』として手頃だから余計に広まっているだけだ。
俗物達は自分に自信が持てないからより優位に立つものを攻撃して、蹴落とそうとするものだ。噂に惑わされるな」

「そんなこと百も承知しているわ。でも、でもこの噂は当事者が夫のエディなの…だから、」

「だ・か・ら、気になって冷静でなくなるのも重々分かるよ。辛い気持ちもな。
この噂にお前が傷つけば傷つくほど妬みや僻みの塊のような奴らは喜ぶだろう。そんな奴らを喜ばすためにキャサリン、お前が傷つくな。今回の事もお前自身が真実だと判断する時まで聞き流せ」

「聞き流す…。理屈では分かるけど難しそうだわ、今の私には…」

「ふっ。でもお前は幼い頃悪戯をして叱られている時、聞いているふりして明日のおやつの事を考えていただろう。それを今回も実践すればいいだろう。小さい時に出来ていたんだから今も出来るぞ」

「なっ、いつの話をしているのよ! でも、ふふふ、そんな幼い頃のことまだ覚えていたのね」

兄がにやりと笑いながら私が無かったことにしたい黒歴史を語ってくる。

そうなのだ、小さい頃から私が落ち込んでいる時はしっかりと話しを聞いて助言をしてくれるけど最後には深刻になり過ぎない様に必ず笑わせてくれるのが、兄だった。

---本当に変わってないな、変に優しいのだから…。

この一言で、まるで出口のない暗闇の中で足掻いていた様な私の気持ちが少し軽くなったように感じた。

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