英雄の平凡な妻

矢野りと

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9.裏の動き~キアヌ第一王子視点~①

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コンコンコン。

王宮にある第一王子の執務室の扉を一人の男が静かに叩くと、返事を待たずに勝手に部屋のなかへと入っていく。
その男の無礼を咎めるものは1人もいない、なぜなら彼が来るから事前に人払いをしていたからだ。

「大変お待たせしました、キアヌ第一王子様」

男は臣下の礼を取り丁寧な口調で目の前にいる私に挨拶を述べる。この男はわざとこうしているのだ。私は苦虫を嚙み潰したような顔をして、

「よせジェームズ。二人だけの時にお前からそんな口調で話されると、背中がむず痒くなる。いつものようにやれ」

と言いながら本当に痒くなった背中を掻いていると、男は『ふっ、ああそうでしたね。忘れていました』と目を細めて嬉しそうにしている。

---まったくこいつという奴は…。クックック、面白い!

私が嫌がることをやって喜んでいるこの男は『第一王子の懐刀』と呼ばれている文官ジェームズ・アークで次期アーク伯爵でもある。

「はいはい、了解です」

途端に丁寧ではあるが友人に対する気軽な感じでジェームズは話し始める。

「駒はすべて揃っています。アイラ王女も予想通りといいますか見境なく貴方が用意した餌に食いつきましたね。本当にあの王女は雑食というか目についたお気に入りはすべて喰いたいんですかね。あんなに愚かで本当にキアヌ様の妹ですか?ハッハッハ」

半分本気、半分茶化して笑いながら報告をしてくる。すべて順調に進んでいるようだ。


アイラ第二王女は第一王子である私とは腹違いの兄妹だ。
今の陛下には正妃と側妃がおり、正妃は第一王女と第一王子を、側妃は第二王女を産んでいる。
正妃の子である私と他国にすでに嫁いでいる姉は王族として厳しく育てられたが、側妃の子である妹は側妃の手によって随分甘やかされて育っていた。

そんな妹の状況を苦々しく思っていたが、まさか愚かにも犯罪にまで手を染めるとは思ってもいなかった。

---まったく迷惑な奴だ、チッ。
 
あれの母親は伯爵家出身となっているが、市井育ちの女を側妃にするため形式を整えたに過ぎない。やはりあの側妃では王族を産んでも、ことは出来なかったようだ。
まあ王族の贅沢には慣れても、王族の義務なんか考えない側妃に育てられたのがあれの不幸だろう。

残念だが第二王女は王族としては欠陥品だ。見かけだけは美しいが中身は醜悪そのもの。そうなれば王位継承権第一位の私がやるべきことはだた一つ。

切り捨てるのみ。

---利になる事はなくても害にならなければ見逃してやろうと思っていたが、あれは駄目だ。周囲に毒を撒き散らし王家の威信に傷を付けている。
早急に処分しなくては…。
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