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3.英雄の誕生
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第二王女襲撃事件は未然に防がれ、その襲撃者を取り調べると王家に謀反を起こそうとしていた有力な公爵家の存在が明らかになった。もし今回の襲撃が成功し第二王女が人質に取られていたら大変な事態を招いていたかも知れない。
そうなると『この事件』を未然に防いだものに褒美を与えようという意見が重鎮達から出てきた。それは功労者に報いようという純粋な考えからではなく、王家の威信を傷つけることに繫がる『謀反人の存在』を、より目立つ何かで誤魔化そうとする政治的な配慮でもあった。
だが今回の襲撃事件を防いだ騎士達は多数おり一人には絞れない。それなら大勢を表彰すれば良いのだが、それでは表彰自体が霞んでしまう。もっとインパクトのある存在を求めていたのだ。
そう英雄的な存在を。
だが誰にすれば適当なのか判断がつかず、陛下や重鎮達は頭を抱え決めかねていた。そんな時、襲撃事件の当事者であるアイラ王女が父である陛下に進言をする。
「お父様、護衛騎士達は碌な働きをしておりませんでした。今回は表彰よりも訓練を与えるのが妥当ですわ」
場の空気を読まないアイラ王女の発言に周りはざわつく。父である陛下でさえ政治的判断が出来ない王女に厳しい顔を向けている。
「それでは誰も表彰するべきではないとお前は言うのか?」
「いいえ、そうではございません。もっと相応しい人物がおります、それは騎士団の副団長エドワード・キャンベルです。
彼は動けない私を強く抱き締め助け出し熱い眼差しを向けて別れを惜しみながらも、名も告げずに去って行きました。その行動は騎士の鏡と言っても過言ではありません。是非褒美をお与えくださいませ」
『またか…』という雰囲気が周りに漂う。色んな意味で自由奔放な王女は気に入った者は手に入れようとする…。
私情を多分に含んでいるこの発言はいつもであったら聞き流されて終わる。末の王女に甘い陛下といえども政治に王女の我が儘を反映させることはない。
今回もそうなるはずだったが、王女の発言に賛同する声があった。
「そうですね。キャンベルは今回の襲撃事件で王女を救出したのは紛れもない事実。そのうえ、彼は家柄も伯爵位で高くもなく低くもない。特に政治的な派閥に属さず問題となるような派手な交友関係もない、騎士団に所属しその実力から副団長をしており王家への忠誠も高い。
私の知っている限り、今回は彼が最も妥当ではないでしょうか。陛下」
そう発言したのは、冷静沈着でいつでも判断を間違えないと評価されているキアヌ第一王子であった。
「お前がそう判断するのか。うむ…』
陛下もアイラ王女の発言は聞き流すつもりであったが優秀な第一王子の発言ならと考え始める。それは周りにいる他の者達も同じであった。
「では、エドワード・キャンベルを表彰する事に決定する!」
そしてこの決定が伝えられたエドワードが『自分は相応しくありません。私より勇敢に戦った他の騎士達を表彰するべきです』と再三固辞したにも関わらず、『第二王女襲撃事件を防いだ立役者』として彼は王家から表彰される事になってしまった。
勿論、彼の実直な人柄や実績を知っている騎士団内でも反対の声は上がらず、それどころか『よくやった』と祝福された。
本人の意に反して瞬く間にこの表彰はみなに知れ渡り、いつのまにやらエドワード・キャンベルは『英雄』として周囲から認知されるようになってしまった。
そして彼やその家族は何も変わっていないのに、周りの評価は勝手に変わっていってしまった。
そうなると『この事件』を未然に防いだものに褒美を与えようという意見が重鎮達から出てきた。それは功労者に報いようという純粋な考えからではなく、王家の威信を傷つけることに繫がる『謀反人の存在』を、より目立つ何かで誤魔化そうとする政治的な配慮でもあった。
だが今回の襲撃事件を防いだ騎士達は多数おり一人には絞れない。それなら大勢を表彰すれば良いのだが、それでは表彰自体が霞んでしまう。もっとインパクトのある存在を求めていたのだ。
そう英雄的な存在を。
だが誰にすれば適当なのか判断がつかず、陛下や重鎮達は頭を抱え決めかねていた。そんな時、襲撃事件の当事者であるアイラ王女が父である陛下に進言をする。
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「そうですね。キャンベルは今回の襲撃事件で王女を救出したのは紛れもない事実。そのうえ、彼は家柄も伯爵位で高くもなく低くもない。特に政治的な派閥に属さず問題となるような派手な交友関係もない、騎士団に所属しその実力から副団長をしており王家への忠誠も高い。
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「お前がそう判断するのか。うむ…』
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本人の意に反して瞬く間にこの表彰はみなに知れ渡り、いつのまにやらエドワード・キャンベルは『英雄』として周囲から認知されるようになってしまった。
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