すべてはあなたの為だった~狂愛~

矢野りと

文字の大きさ
上 下
20 / 26

20.悲劇

しおりを挟む
王宮での仕事を片づけて急いで別邸に帰ると、誰も出迎えることなく使用人達の怒鳴り声やすすり泣く声のようなものが聞こえる。
 
 なんだ…何があった?

嫌な予感がして声がする方に走っていくと温室の前で使用人達が騒いでいる。

「おいっ!何があった!」

怒鳴りつけるように声を掛けると、一人の侍女が泣きながら訴えてくる。

「も、申し訳ございません!止められなくって、だってまさかメイドになって入り込むなんて…思ってもいなくて。気づいた時にはもう遅くて。間に合わなくて、何も出来なくて。
奥様が、奥様が、」

侍女は混乱していて言っていることが支離滅裂だった。
チッ、俺は使用人達を乱暴に掻き分け中へと入っていく。温室の中はむせ返るような血の臭いが充満していて、使用人達に押さえつけられたメイド…いやロザリンが喚いている。

そしてリズが…血の海で倒れていた。

 嘘…だろう…?
 これはな・ん・の・冗談だっ…。

ううああああぁーーー!!!

「どけ、どけーーー!リズ、リズー!
どうしたんだっ、しっかりしろぉっ。
な、なんでこんなに血が…、ああ止まらない。
クソッ、早く医者を呼べ!
何してやがるっ、早くリズを助けるんだ!」

リズの胸を押さえるが血は止まらない。こんなに出血しているんだからこれ以上血を失っては駄目なのに‥‥。
必死に手を当てながら『医者を呼べ!』と連呼する俺に、後ろから家令が何かを言っている。
『旦那様、もう医者は来ております。で、ですが傷が深く出血が酷いのでもう…手遅れだと』

 何を言ってやがるっ。
 手遅れ?それはどういう意味だ。
 リズが死ぬ…?有り得ない!

 これから赤ん坊だって生まれるんだぞ!
 死ぬはずないだろうがっ。
  
 あ、ああああ、ああああああーーー。

 リズ…頼むから…笑ってくれ。
 お帰りなさいって、いつも言ってくれているだろう…。

 リズ、リズ…、俺を置いて…行かないでくれ。

 ‥‥頼む………。

自分の叫び声が遠くから聞こえるような気がする。
真綿に包むようにそっとリズが抱き締めると、彼女が目を開け俺の腕の中で『おかえ…りな、い』と言ってくれる。

「リズ!リズ!助けるから絶対に助けるから」

「……ご、めんね。ひと…り、に…て」

リズは涙を零しながら『別れの言葉』を口にする。

『痛い』って、『助けて』って、言ってくれ…。
なんで我慢するんだ!
俺を頼ってくれ!
そして『一人じゃ寂しいから一緒に逝こう』と言ってくれ!

…俺を一人にしないでくれ…リズ。



そうだ、あれを使えばいい。今日王宮に提出した禁術の解析は完璧だ、俺ならきっと出来るはずだ。

古の魔術師が編み出したその術式は魔力の衰えと共に扱える魔術師がいなくなり禁術となっていた。
だが迷うことなく俺はそれを使うことに決めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

元妻からの手紙

きんのたまご
恋愛
家族との幸せな日常を過ごす私にある日別れた元妻から一通の手紙が届く。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

お飾りな妻は何を思う

湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。 彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。 次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。 そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて

ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」 お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。 綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。 今はもう、私に微笑みかける事はありません。 貴方の笑顔は別の方のもの。 私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。 私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。 ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか? ―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。 ※ゆるゆる設定です。 ※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」 ※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド

(完)イケメン侯爵嫡男様は、妹と間違えて私に告白したらしいー婚約解消ですか?嬉しいです!

青空一夏
恋愛
私は学園でも女生徒に憧れられているアール・シュトン候爵嫡男様に告白されました。 図書館でいきなり『愛している』と言われた私ですが、妹と勘違いされたようです? 全5話。ゆるふわ。

【完結】さよなら私の初恋

山葵
恋愛
私の婚約者が妹に見せる笑顔は私に向けられる事はない。 初恋の貴方が妹を望むなら、私は貴方の幸せを願って身を引きましょう。 さようなら私の初恋。

どうやら貴方の隣は私の場所でなくなってしまったようなので、夜逃げします

皇 翼
恋愛
侯爵令嬢という何でも買ってもらえてどんな教育でも施してもらえる恵まれた立場、王太子という立場に恥じない、童話の王子様のように顔の整った婚約者。そして自分自身は最高の教育を施され、侯爵令嬢としてどこに出されても恥ずかしくない教養を身につけていて、顔が綺麗な両親に似たのだろう容姿は綺麗な方だと思う。 完璧……そう、完璧だと思っていた。自身の婚約者が、中庭で公爵令嬢とキスをしているのを見てしまうまでは――。

さよなら私の愛しい人

ペン子
恋愛
由緒正しき大店の一人娘ミラは、結婚して3年となる夫エドモンに毛嫌いされている。二人は親によって決められた政略結婚だったが、ミラは彼を愛してしまったのだ。邪険に扱われる事に慣れてしまったある日、エドモンの口にした一言によって、崩壊寸前の心はいとも簡単に砕け散った。「お前のような役立たずは、死んでしまえ」そしてミラは、自らの最期に向けて動き出していく。 ※5月30日無事完結しました。応援ありがとうございます! ※小説家になろう様にも別名義で掲載してます。

処理中です...