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7.契約の愛人③
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ロザリンは直ぐ近くにいるリズを無視し俺に向かって気持ちが悪いほどの甘ったるい声で話し掛けてくる。
「アレクサンダー様、ここでしたのね。侍女がちゃんと案内をしないものですから探してしまいましたわ」
「どうして君がここにいる。ちゃんと出産まで用意した場所にいるはずだっただろう!」
「あらカーター侯爵様が身重の私を心配して本邸に呼んでくださったのですよ。だから別邸にいるこの子の父親である貴方様にもご挨拶をしに参りましたの。
ふふふ、やっぱりお腹の子も分かるんですね。父親の声に反応して嬉しそうに動いていますわ」
その女はそう言うと、リズの方を見ながらわざとらしく大きくなったお腹を愛おし気に撫でている。
やめろ!リズにお前の存在を見せたくない!
「契約では子を産む前も後も侯爵家とは関わりを持たない事になっているはずだ。忘れたのか!」
「勿論分かっております。ですが子爵家の身分の者が現侯爵様の有り難いお申し出を無下になど出来ませんでしょう?
それにアレクサンダー様の奥様にも順調な様子をお見せしたいと思っておりましたし。ふふふ、奥様、私が立派な跡継ぎを産んで差し上げますから安心してくださいな」
女の言葉を聞き一瞬ビクッとしたリズだが、無理矢理微笑んで俺の正妻としての適切な言葉を紡いでくれる。
「今回は夫が大変な事を依頼しまして申し訳ありません。…どうか体調に気を付けて下さいませ。何か不自由なことがあったらおっしゃってください」
…こんな事を言わせたくなかった。
彼女の心をこれ以上傷つけるなっ。
それを聞いた女は口角を上げ、
「ふっ、お気遣い有り難うございます。でも本邸のほうでそれはもう大切にして頂いておりますから大丈夫ですわ。
侯爵夫妻も初孫の誕生を心待ちにしてくださり、私のことも義娘のように可愛がってくれますのよ。おっほっほっほ」
ギリッ!この女、殺してやろうか。
俺の子を身籠ってもなんの感情も湧かなかった女に対して一瞬で殺意を抱く。
「黙れ!この別邸から今すぐ出ていけ!」
俺が殺意の籠った目で睨みつけると、『で、では失礼いたします』と言ってそそくさと部屋から出ていった。
リズはその後ろ姿を見つめたまま黙っている。
こんな予定ではなかった。子供は引き取るがあの女の存在などリズの目には入れないはずだったのに…。
「リズすまない。契約では一切関わりを持たない予定だったんだが…。すぐに本邸に行って事の次第を確かめてくる。それから俺と話しをしてくれないか…」
「…分かったわ。私達話し合わなければいけない事がいっぱいあるわね。でもそれは後にしましょう。
…色々あって疲れたわ。私は部屋で休ませてもらうわ」
本当に疲れ切って顔色も悪いリズを抱いて寝室へと運ぶ。ベットに横たえると恐る恐るリズの額に口づけを落とす。
拒絶はされなかったが、俺は許されていない事が分かる。
「ゆっくり休んでくれ。愛しているよリズ」
「……」
返事はないが今はそれでもいい。完全に拒絶されていないならそれでいい。
灯りを落として部屋から出る。
部屋の扉が閉まった後で静かに涙を流すリズは『悪夢は現実になるのかしら…』と呟いていた。
「アレクサンダー様、ここでしたのね。侍女がちゃんと案内をしないものですから探してしまいましたわ」
「どうして君がここにいる。ちゃんと出産まで用意した場所にいるはずだっただろう!」
「あらカーター侯爵様が身重の私を心配して本邸に呼んでくださったのですよ。だから別邸にいるこの子の父親である貴方様にもご挨拶をしに参りましたの。
ふふふ、やっぱりお腹の子も分かるんですね。父親の声に反応して嬉しそうに動いていますわ」
その女はそう言うと、リズの方を見ながらわざとらしく大きくなったお腹を愛おし気に撫でている。
やめろ!リズにお前の存在を見せたくない!
「契約では子を産む前も後も侯爵家とは関わりを持たない事になっているはずだ。忘れたのか!」
「勿論分かっております。ですが子爵家の身分の者が現侯爵様の有り難いお申し出を無下になど出来ませんでしょう?
それにアレクサンダー様の奥様にも順調な様子をお見せしたいと思っておりましたし。ふふふ、奥様、私が立派な跡継ぎを産んで差し上げますから安心してくださいな」
女の言葉を聞き一瞬ビクッとしたリズだが、無理矢理微笑んで俺の正妻としての適切な言葉を紡いでくれる。
「今回は夫が大変な事を依頼しまして申し訳ありません。…どうか体調に気を付けて下さいませ。何か不自由なことがあったらおっしゃってください」
…こんな事を言わせたくなかった。
彼女の心をこれ以上傷つけるなっ。
それを聞いた女は口角を上げ、
「ふっ、お気遣い有り難うございます。でも本邸のほうでそれはもう大切にして頂いておりますから大丈夫ですわ。
侯爵夫妻も初孫の誕生を心待ちにしてくださり、私のことも義娘のように可愛がってくれますのよ。おっほっほっほ」
ギリッ!この女、殺してやろうか。
俺の子を身籠ってもなんの感情も湧かなかった女に対して一瞬で殺意を抱く。
「黙れ!この別邸から今すぐ出ていけ!」
俺が殺意の籠った目で睨みつけると、『で、では失礼いたします』と言ってそそくさと部屋から出ていった。
リズはその後ろ姿を見つめたまま黙っている。
こんな予定ではなかった。子供は引き取るがあの女の存在などリズの目には入れないはずだったのに…。
「リズすまない。契約では一切関わりを持たない予定だったんだが…。すぐに本邸に行って事の次第を確かめてくる。それから俺と話しをしてくれないか…」
「…分かったわ。私達話し合わなければいけない事がいっぱいあるわね。でもそれは後にしましょう。
…色々あって疲れたわ。私は部屋で休ませてもらうわ」
本当に疲れ切って顔色も悪いリズを抱いて寝室へと運ぶ。ベットに横たえると恐る恐るリズの額に口づけを落とす。
拒絶はされなかったが、俺は許されていない事が分かる。
「ゆっくり休んでくれ。愛しているよリズ」
「……」
返事はないが今はそれでもいい。完全に拒絶されていないならそれでいい。
灯りを落として部屋から出る。
部屋の扉が閉まった後で静かに涙を流すリズは『悪夢は現実になるのかしら…』と呟いていた。
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